第27話 《さいたまギルド三人よれば》
さいたまギルドの受付嬢、海羽志乃は、ギルドの各種データを見ていた。
その中で目を引くのは買取所の買取リストと売店の売上。
この一ヶ月くらいの間に急変していることをデータは示している。
「うーっす。戻ったぞー」
「あ、おかえりなさいマネージャー」
声をかけたのは、さいたまギルドのギルドマネージャー。
各地のギルドのマネージャーが集まる会議から帰ってきたところだった。
「海羽のまとめてくれた資料役に立ったよ、ありがとうな」
「やったー、苦労したかいありました。それで、会議はどうでした?」
マネージャーは、椅子に深々と腰掛けた。
「予想通りの質問攻めだ。どうしてさいたまギルドでレア素材がこんなに出てるんだってな。池袋も仙台も大津に……その他諸々日本中のギルドから。知らねえっつーの! こっちが聞きたいわ」
「やっぱり聞かれますよねえ。どう考えても異常な数ですし」
「まったく、どういうことなんだ?」
「それが! ようやくコンタクトとれたんですよ」
タタタターン! とキーボードを弾く海羽。画面には、探索者の名前がいくつか記されている。
「買取は個人情報の提示が必要じゃないですか? レアものを持ってきた人を調べたら、みんな配信者だったんですよね」
「それ、苦労したんじゃないか? 個人情報だし」
「そうなんですよ、それで手続きとか理由をでっち……ゴホン、適切な理由を説明したり、時間がかかったんです。そうやって苦労してわかったのに、連絡取ろうと思ったら、皆さんなかなか返事してくれなくて。自由人で困ります。ともかく、その中でようやく返事をくれた人がこう言ってたんです『ギフトでモンスターの倒し方を教えてくれた人がいた』って」
得意満面の海羽に対して、マネージャーは眉間にシワを寄せている。
「ギフトって、あれだよな? 配信者に金払ってコメント見てもらうっていう意味わからんやつ」
「意味はわかりますよー! 応援です! 感謝です!」
「わっかんねーなー、ただで配信なんて見れるのにわざわざ自分から金だすなんて」
「もうダンジョンと配信は切っても切れないんだから、マネージャーならちゃんと見なきゃだめですよー」
「あたしは硬派なんだよ。でもなるほど、そいつがいろんな配信者にレアなドロップ品を手に入れる方法を教えて回ってると」
「多分、そうです」
「なんのために?」
「わかりません」
「なんの得がある?」
「何もなさそうですけど」
「なんだそいつ!? はぁー、わけわかんねーやつばっかりだなこのギルド!」
マネージャーは髪の毛をくしゃくしゃにしながら椅子から立ち上がり、コーヒーを淹れにいった。
海羽がその様子を見て大変そうだなーと思っていると、受付に一人の客が訪れた。
「よっ、海羽さん。久しぶり」
「あー! 図司さん! お久しぶりですね!」
よれよれのワイシャツの無精髭男の名前は図司幸広。
ギルドと付き合いのある会社の社員だ。
「仕入れですか?」
「ああ、なんかここのギルドが最近入ってくるものが変わったらしいって聞いたんでね。毎月の契約にプラスアルファしようかと思いまして」
「耳が早いですね。さすが、マギテックの敏腕サラリーマン!」
「おう、この腕で稼がなきゃな」
マギテックは、ダンジョン関連のものを総合的に扱っている企業だ。ダンジョン素材を利用した加工品の製造販売はもとより、ダンジョン関連のネットメディア運営や、出版業界と協力しダンジョン関連の書籍を作ったりもしている。
母体は昔からあるコングロマリット企業だが、ダンジョンの商売に参入してしばらくたった後、ダンジョンに関する部門を子会社化し、マギテックという名前になった。
「ん? なんだ図司も来たのか」
「よお、井手田。お前んとこ景気いいみたいだな」
戻ってきたマネージャーに、図司が気安く話しかける。
「ふん、嗅ぎつけるのが早いな、マギテックさんは。……だが残念、うちもたいしたことはわかってない」
「こんなこと言ってるけど本当かい? 海羽さん?」
「え? ええーとー」
「うちのを懐柔しようとすんな、遊び人」
二人の間にマネージャーがファイルを挟んで遮った。
そして図司を鋭い眼光で睨みつける。
「おー、怖い。別に悪用しようなんて思ってないのになあ。ま、それならそれでいいけどさ。とりあえず、レアものが見つかったらうちに優先的に譲ってくれないか。ほら、これがマギテックの欲しい素材のリスト。あと、もし新規のものを見つけたら……」
「その手の話はいくつも来てる。お前んとこだけ特別扱いはできないな、ギルドとして」
「昔のよしみでさ、な?」
「ダメだ。他のところと同じ遡上には上げてやるからそれで満足しとけ。却下しないだけ優しいだろ?」
「おお、涙が出るほどお優しいね」
図司はこれみよがしに肩をすくめると、リストを渡してギルドから出ていった。
「あ、もう帰っちゃった。いいんですか? お久しぶりなのに」
海羽が問うと、マネージャーは首を横に振った。
「用もないのに長居させても意味ないだろ。それに、油断してると情報聞き出されるぞ、油断ならない奴だからな」
「まー、でも、しょうがないですよね。このレアドロップ、いろんなことに便利に使えるから、欲しい人はたくさんいますし。うちのギルドに注目するのも当然です。図司さんのマギテック以外にも、メールたっくさん来てますし。もー、やだー!」
机の上に突っ伏す海羽の肩を、マネージャーはぽんと叩く。
「まったく、ギフトでモンスターの倒し方を指示したとかいう奴は余計なことしてくれたもんだ。これからもっとうるさくなるぞ」
マネージャーは、コーヒーを飲み干し、長々と息を吐き出した。




