第23話 家族水入らずin大宮
大宮駅前、徒歩五分。
焼肉屋『寿寿宴』。
天沼家の四人はこの焼肉屋の個室のテーブルについていた。
「ほー、こういう感じなんだな。ほら萌花、この花からして高級そうじゃないか」
「パパ、なんでも触り回らないでよ恥ずかしいなあ。世間知らずと思われるよ」
「知らないんだからいいじゃないか。よーし今日はたくさん食べるぞー」
父がメニューを開き、肉をどんどん注文していく。
「なんかはりきってるな、父さん」
「うふふ、大樹がご馳走してくれるのが嬉しいのよ。ありがとね、大樹」
「ま、少しくらいはこういうこともやらなきゃな、ってとこ」
「お、来たぞタンが!」
肉はすぐに届き、俺達は一生懸命に肉を焼き食べ飲んでいった。
とてもうまい。とてもおいしい。やっぱり地球の牛は味がいい。
「おにいとダンジョンも役に立つんだねー」
カルビを二枚同時に食べながら妹が言う。
「これで異世界で一流冒険者だったのはガチだってわかっただろう?」
「うん、カワボ配信者にガチ恋してるだけの人じゃないかと心配してたけど安心したよ」
はぁ~まったく、この妹はわかってないなあ。
「カワボ配信者じゃなく、ダンジョン配信を見てる、ね? てかイケメンばっかり見てるのはずんびーず推しのもかちゃんの方でしょ」
「はぁ~わかってない! 私のは違うから、純粋に音楽性的なアレに感動したんであって、顔じゃないんです」
「音楽性? この前関係性がどうこう言ってなかったけ」
「それはそれでいいの。男同士のてぇてぇが一番栄養あるんだから」
「いうて男同士仲良しったって裏で彼女とかどうせいるでしょ」
「るぅ君は『恋愛感情って俺わからなくてさあ』って言ってまーす。興味ないんだよねその辺の女には。むしろあやちの方が裏で男いる、絶対。いなきゃあんなに男受けする態度を取れるはずないもん理論上」
え……あやちに限ってそんなわけ……いやしかしたしかに妹の言うことも一理ある……いやでも勉強家だから座学で学んだんだそうに違いない……。
「くっ、なかなかのカウンターだなもかちゃん……」
「るぅ君は萌花が守る」
「二人とも、お肉焦げてるわよ」
「「あっ!!?」」
こうして楽しくおいしい焼肉タイムはすぎていった。
たらふく肉を食べたあとは、俺達は少し足を伸ばして氷川参道へと向かった。
大宮駅東口から大通りをしばらく歩くと交差する、1km以上ある長い長い参道だ。
せっかく近くに来たのだから、神社にお参りでもしようかと俺達天沼家はこの参道を歩いていた。
「それにしても、ロフトがなくなってたなんてなー、驚いた」
「だいぶ前だよそれ。もうないのに慣れた」
えー、東口といえばあのロフトだったのに、時代は変わるな。
楽器屋でギターを眺めた思い出とかあったな……。
「思い出と言えば初詣に昔この参道歩いたな」
「あー、ちょっと覚えてるかも。夏よりは冬ってイメージだよね、神社って」
「夏は祭りがあるじゃないか」
「でも、祭りの時って神社まで行かなくない? 出店とか花火とかだけで満足しちゃうし」
「あー、それはある」
俺達はとりとめないことを喋りながら、大きな木の生えている石畳の参道をのろのろと歩いていた。特に何もない夏の日であるので、俺達以外に歩いてる人はまばらだ。
「おい! てめえどういうつもりだよ!」
「ああ!?」
まばらなのに、厄介そうな奴らがピンポイントでいやがった。
刈り上げお団子ヘアの男とツーブロセンターパートの男、二人の若い男が言い争っている。
それだけならたまに見る光景だがこいつら……探索者だな。
「俺の分の報酬もってとんずらこいただろ! あんな危険なとこに行ったっていうのに!」
「あ? 知らねえよ? 言いがかりはよせ、俺は俺の分をもらっただけでてめえの報酬なんて知ったこっちゃあねえ」
「しらきるつもりか? だったら」
刈り上げお団子の男の拳が薄く石に覆われていく。
(うわっ、あれダンジョン行ってる人?)
(そうみたいねえ。あっち見ないで通り過ぎましょ)
特殊な力を使う探索者のことは、ダンジョンに行かない人にも認知されていて、妹と母は気付かないフリをして通り過ぎようとしている。
まあ、俺もそうするか。別に探索者としても知らん人の喧嘩を止める義務もないし。
俺達は斜め前での喧嘩を無視して進んでいく。
が、喧嘩はその間も進行していき、刈り上げお団子男が石の拳でセンターパート男の鼻を殴りつけた。
「いってぇ……くそが! てめえに渡すもんなんてねえよ! ぶっ殺す!」
センターパートの男が、鞄からキラキラ光るガラスのような短剣を三本取り出した。あれも普通の鉄製のナイフとは違う、ダンジョン用の武器だな。
三本同時に指に挟み、一斉に投げ放つ。
「ぐああっ!?」
石の拳の男の二の腕と太ももに、ナイフが刺さり、ガクッと体勢を崩す。
だがもう一本のナイフは。
「えっ……きゃあっ!?」
狙いを外して、妹へと飛んできた。
「よっ。危ない、危ない」
ので、俺が指でつまんで止めておいた。
「おにいすご……」
投げるならちゃんと狙った的に当ててほしいな。
外したから罰ゲーム!
指でつまんだナイフを投げかえし、ナイフ男のケツにぶっ刺した。
「ぎゃああああああ!」
「ナイスおにい!」
妹と歓喜のハイタッチ。
この様子を見た父が、なぜか感心した様子で腕組をしている。
「ほほう、二指真空把とはやるなあ大樹」
「にし……何それ」
「パパ何言ってるの?」
「おーいおい、最近の若いもんはこんなことも知らんのか」
父の嘆きは気にせず、喧嘩してた二人も気にせず、俺達は参道を何事もなかったようにまた歩いていく。
横目で男たちを見ると、石拳の男が、ナイフの男がケツを刺されて怯んだのをこれ幸いと反撃で殴っている。まだ喧嘩は続きそうだが、さすがに騒ぎが大きくなってスマホで通報している人も見え始めた。
「これで収まりそうだね」
「警察でなんとかできるのか? ダンジョンでモンスターと戦ってる人」
「うん、昔は俺は強いって暴れる人とかいたけど普通に撃たれて捕まってた」
「へえ……あ、そうか」
地球も魔力はあるけど、ダンジョンに比べれば濃度はだいぶ薄い。ダンジョンにいるときほどの力は発揮できないんだろう。よほど練度が高くなければ、ちょっとジムで鍛えた人くらいにしかならないかもな。
転移門の近くなら、漏れ出した魔力でいつもの力も出せるだろうけど、ここにはそんなものはなし。あの二人の力量からすれば、拳銃の方がよっぽど強い。モンスターに銃は効かないが、人間なんだからダンジョン探索者だろうと普通に効くし。
「あんな人達がダンジョンにいるなんてねえ。大丈夫? 大樹」
最近ダンジョンに行くようになった俺に、母が心配そうな声で尋ねる。妹も、
「そうそう、ダンジョンの中って、トラブルとか結構あるらしいよ、人目もないしさ。ああいう奴が魔石とかカツアゲするんだって。こっわー!」
「見たでしょ今の。俺ならあんなやつら指二本で倒せる。二十年も異世界ダンジョンで鍛えてたんだから、数年やってる程度の相手なんて秒で返り討ち」
今のところは俺はダンジョン内でそんな奴らに会ったことはないけど、いても全然おかしくはないな。一応気にはとめておくか。
あの二人の騒ぎに巻き込まれるのもだるいので俺達は参道を速やかに進んでいき、その日の残りは平和に家族と過ごしたのだった。




