第12話 《あやチャンネル》
◇ ◇ ◇
「みんな~今日もありがとっ♥ バイバイ」
“今日も楽しかったよーあやち”
“バヤバヤ~”
“次までにアーカイブ消化しておくね”
ダンジョン配信者あやちは、さいたまダンジョン十三階層、牢獄様ダンジョンにてリスナーに挨拶をして配信を閉じた。
配信用ピクシーカメラの電源を切り、大きく伸びをする。
「ふう、今日のおしごともおしまいっ♡ ……と、まだ配信中のノリが残ってたわ」
あやち――二反田彩乃は、頭を切り替え終わったばかりの自分の配信をチェックする。
配信動画はアーカイブとして残り、それにはリアルタイムの配信中にチャット形式で流れていくコメントとは別に、動画全体への感想コメントも残すことができる。さっきまでの配信は今終わったところだが、すでに“今日もお疲れ様“などのコメントが早速ついている。
昨日や一昨日、もっと前の配信動画のコメントももちろん確認できるが、それを見てみると、
“1:43:27 今日の発狂ポイント”
“いつもお疲れ様、ダンジョン頑張ってるから俺も頑張ろうって気になるよ。体に気をつけて頑張ってね。いつも応援してます”
“動画見たすぎて睡眠不足ですwでもあやちかわいいから仕方ないねwリア友にも動画配信しときましたw”
などファンがコメントを残している。
ちなみに時間指定してるのは、動画のその時間に見どころがあるということだ。『カスうううううううう!!!!』あやちがそう叫んでるシーンだった。
「皆こういうの好きよね、やる方は結構大変なんだけど。あ、のど飴なめとかないと。だけどふーん、他のコメント……いい感じに熟してきたわね。次はダンジョン配信はおやすみで、雑談配信を入れておこうかな。ガチ恋育成のターンにはちょうどいいわ」
普段はおもしれー女wでいきつつ、たまにやる雑談では、落ち着いて素直にかわいいところを見せていく。これが一番効くのよね。
次の配信でいっちょころころ転がしてやりますか、あやちの手のひらでね、ふふっ。
アーカイブを見ると……この前の晩酌配信が1ヶ月半前か。
それならちょうどいいし明日あたり飲酒雑談入れるのがいいわね。晩酌配信も根強いファンがいるし、酒と飲酒のダブルでいこう。
そうね、明日はいつもより酔っ払ったところを見せておこうかな、そういう素が出た(ように見える)とこにみんな弱いからねー。本当に素が出るほど酔っ払ったら放送事故だっつー話だけど。
何を飲もうかなー、王道のレモンサワー、いえ、リスナーさんにおすすめのお酒を募集した方が参加型っぽくてより楽しめるかな……。
スマホ片手に今後の計画と過去の見直しをしながら、彩乃はダンジョンを戻っていく。
過去の活動を見直し、リスナーさんの反応を確認し、随時活動方針を調整していく。これが愛される配信者には何より大事なことだと彩乃は知っている。
その彩乃の右眉がピクリと持ち上がった。
「あー……この二週間前の配信、最悪だったなー。この時は十二層攻略クライマックスなのに、クソみたいな指示厨がずっといたのよね」
“口より手を動かして” “モンスターの動きちゃんと見て弱点ねらいなよ?” “そんなんだから十二層止まりで影山に勝てないんだよ” 全部同じ人のコメントだ。
「あー、今見てもムカつく! うっぜぇ上に指示も“ちゃんと見て“だの”弱点狙って”だの具体性ゼロで役に立たないしほんっと最悪! その弱点を教えなきゃ意味ないだろ! 馬鹿なのかな馬鹿なんだろうな、馬鹿は自我持たずにかわいーナイスーとだけ言っときゃいいんだよこの私に指示してくるとか十年早いっつーの! はーうっざ。生意気。年下の女にマウント取りたがるおじさんってこの世で一番の害悪だわ」
しかも困るのは、こういうクソコメがあったからって、露骨に文句言ったり不機嫌になると、配信の空気が悪くなって他のリスナーさんが見るのやめちゃうかもしれないから、穏便に済ませなきゃいけないということだ。
そのせいでまたフラストレーションが溜まる。頼むから死んでくれないかなこの手のおじさん。
「あー……この時のあや、ちょっぴり眉間にシワが寄っちゃってるわね。なんにも悪いことしてないリスナーさんにかわいくない私を見せるわけにはいかないし、もっと平常心を磨かなきゃね」
イライラを蘇らせながらも、他の配信もチェックしていく。
と、再び手が止まった。
「あ、ちょっと前のこの配信。これも指示してる人いたわね、しかも投げ銭つきで! 投げ銭してまで指示をしたいなんて執念エグくてもはや笑うわ。そうそう、こんなコメントしてたっけ」
【¥10000】
” ダズルヘイム: 大ぶりはいらない。トロールは頑丈で体力もあるが、足が弱点。特に足の付け根が弱くて、こいつは動きからして左かな、左の太ももあたりを軽く突っつくだけで体勢を崩す。そこで思いっきりぶっ潰してやるのが最適解 “
【¥10000】
“ ダズルヘイム: 石壁の黄緑の粉は魔舐蟲の通ったあと。魔石の匂いを嗅ぎつける性質がある。つまりその石の奥に魔石がある。石をどかせば高濃度魔石が手に入る”
こっちが自分で色々考えてやってる時に横から口出されるのはうざいってことなんでわかんないのかねー。助手席からあー今の行けたでしょって言われるよりうざいよなこういう奴。
「でも……この指示厨おじさんは役には立ってるのよね、一応」
トロールの弱点も的確だし、隠れた魔石も本当にあったし。
ギフトのお金だけじゃなく、あの魔石の分もかなりの収入になった。あれ一つで丸一日ダンジョン探索したよりも多い稼ぎなくらい。
「こっちの指示厨おじさんもうざいことに変わりはないけど、役には立ってる分あっちのエアプ指示厨カスに比べたらマシね」
ま、お仕事っていうのはうざいことと引き換えにお金を得るものだし、こっちの指示厨おじさんには我慢して愛想振りまいてやるか~。
それに最近、まーぶるとやんやんが投げ銭サボってきてるし。
ちょっと対抗心を焚き付けてやるのもいいわね。この新参おじさんのギフトに派手に感謝するとこ見せたら、いい感じに煽れるわよ、ふふふふ……。
それと並行してDMでフォローしつつ、SNSを監視してリアクションをチェックも必須ね。対抗心で燃え上がるか萎えて鎮火するか、やりすぎないよう見極めないと。まったく、リスナーさんの好感度管理も楽じゃないわ。
「今後の計画はそんな感じ……あ! 忘れてた!」
彩乃は十二層への上り階段の前で、足を止めた。
次の配信までに武器を新調しておくことを思い出したのだ。そのためにこの階層で稼ぎをしなきゃならない。
こういう地味な作業は新階層の攻略と違ってリスナーさんが飽きてしまうので裏でやることにしている。
本当ダンジョン配信者って忙しい。
ちらりと、彩乃はスマホ画面に表示されている『ダズルヘイム』のコメントに視線を落とした。
「指示するだけじゃなく実際に手伝ってくれれば楽になんのになー。なんて無茶な話だけど。さ、トロール狩りやってこうっと」




