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傷跡の聖女~武術皆無な公爵様が、私を世界で一番美しいと言ってくれます~  作者: 夏野みず


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舞踏会と、シュナの策略

 舞踏会の夜がやってきた。公爵様が選んでくれた、深紅のドレスに身を包んだ私は、少し緊張していた。顔の傷は、あえて隠さなかった。これが、私なのだから。


 公爵様と手を繋ぎ、舞踏会の会場であるロキサーニ邸の大広間に足を踏み入れた瞬間、会場のざわめきが収まった。全ての貴族の視線が、私に集中する。


 宰相も、会場の隅で、冷たい視線を私に向けていた。そして、シュナ団長も、私を嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。


 公爵様は、私の緊張を察したように、私の手を優しく握った。


「心配ありません、ルイジアナ。私は、あなたの傍にいます」


 私たちは、会場の貴族たちに挨拶をして回った。彼らの視線は冷たかったが、公爵様は、私を常に誇らしげに紹介してくれた。


 そして、ダンスの時間になった。


「このダンスは、私の愛するルイジアナと、最初に踊りたい」


 公爵様は、私をエスコートし、フロアの中心へ連れ出した。


 音楽が流れ始める。


 彼は、私を優しくリードした。私のステップは、完璧ではなかったかもしれない。だが、公爵様との息は、ぴったりと合っていた。


 私が戦場で培った、無駄のない動きと、彼の優雅なリードが、見事に融合した。貴族たちは、私たちが織りなすダンスに、息を飲む。


 私たちは、まるで、戦場で二人で魔物を倒しているかのような、一体感を感じていた。


 ダンスが終わると、会場からは、拍手が起こった。それは、私を嘲笑うものではなく、純粋な賛辞の拍手だった。


 宰相の顔が、わずかに歪んだ。


「素晴らしいダンスでしたよ、ロキサーニ公爵」


 その時、シュナ団長が、優雅な笑みを浮かべながら、私たちに近づいてきた。


「ですが、公爵様。あなたの婚約者は、やはり武術家。剣を振るうことしか知らない。公爵夫人に相応しい、知性と教養があるか、疑問に感じている貴族も多いようです」


 シュナは、私を侮辱する言葉を、公爵様に向けた。


「ルイジアナ殿。一つ、あなたに質問をしてもよろしいでしょうか」


「どうぞ」


 私は、臆することなく答えた。


「最近、辺境で発見された古代文字の書物について、あなたはどれほどの知識をお持ちでしょうか。それが、帝国の魔術研究にどのような影響を与えるか、語っていただけますか」


 それは、非常に難解な、魔術の専門的な知識を問う質問だった。武術しか知らない私には、到底答えられないだろう。シュナは、私の失態を、皆の前で晒そうとしていたのだ。


 会場の貴族たちが、私の返答を待つ。


 私は、一瞬、公爵様を見た。彼は、私に、優しく微笑みかけてくれた。


「ルイジアナ。あなたならできる」


 私は、深呼吸をし、シュナに向き直った。


「シュナ団長殿。その古代文字の書物は、ロキサーニ公爵様が翻訳し、すでにその内容が、帝国の魔術研究に役立てられています」


 私は、公爵様が私に語ってくれた、その書物の内容と、それが魔力理論に与える影響について、淀みなく語り始めた。


 公爵様の傍で、彼が執務室で研究している内容を、私は全て聞いていた。彼の理論は、私の頭の中で、完全に整理されていた。


「その書物の発見は、魔力の根源を解明する糸口になり、結果として、魔族の呪われた魔術を打ち破る、新たな術式の開発につながるでしょう」


 私の言葉は、専門的で、的確だった。それは、私が武術家であると同時に、公爵様の最も近くで、彼の頭脳を理解していたからだ。


 シュナは、言葉を失った。会場の貴族たちは、驚きと感嘆の声を上げた。


「素晴らしい。ルイジアナ殿。あなたの知識は、私を凌駕する」


 宰相は、私の知識に感服し、静かに頷いた。


「あなたの知識は、ロキサーニ公爵様の隣に立つに、相応しい」


 シュナの策略は、完全に失敗した。


 公爵様は、私の手を握り、私を抱きしめた。


「ルイジアナ。あなたは、私の誇りです」


 その夜、私は、公爵夫人としての最初の試練を、見事に乗り越えた。彼との愛と、彼から学んだ知識が、私を救ってくれたのだ。


 舞踏会での勝利は、一時的なものに過ぎなかった。公爵様を狙う暗殺者の影は、依然として消えていない。そして、私は、その暗殺集団の背後に、ある人物の存在を感じていた。


「公爵様。暗殺集団の背後に、シュナ団長がいる可能性が高い」


 私は、執務室で彼に報告した。


「彼は、あなたを愛するあまり、私の存在を排除しようとしている。そして、あなたを狙う暗殺者たちも、シュナが騎士団のコネを使って雇った可能性が高い」


 公爵様は、静かに頷いた。


「私も、そう考えていました。シュナは、幼い頃から私を慕ってくれていた。だが、それは、私の兄が評価していた、武術の才能を持つ私への憧れだった」


「あなたの、過去の孤独の原因の一つですね」


「ええ。私が武術の才能がないと知ると、彼は私を軽蔑し始めた。そして、あなたが私の傍に来て、私があなたを愛していると知ったとき、彼の歪んだ愛情が、嫉妬へと変わった」


 その時、公爵様は、私の手を取り、そっと、自分の右肩の傷に触れさせた。


「ルイジアナ。この傷は、幼い頃、シュナとの剣の稽古で負ったものです。彼は、私が剣を持てないことを知っていて、私を傷つけた」


 公爵様の体にある、過去の傷。それは、彼の心の傷と繋がっていた。


「私は、あなたを傷つけた奴を許しません!」


 私は、怒りに震えた。


「ルイジアナ。あなたの怒りは、私の心を温めてくれる。ですが、シュナは、兄の信頼も厚い。迂闊には動けません」


 私は、公爵様の言葉に従い、静かにシュナの動向を探ることにした。


 その夜、私は、公爵様と共に、寝室で過ごしていた。私たちは、愛し合っている。その事実は、私の傷ついた心を、完全に癒してくれた。


 彼は、私の顔の傷を、まるで宝物のように、優しく愛撫してくれる。


「ルイジアナ。この傷は、あなたが私と出会うために背負った、運命の証だ」


「公爵様……私は、あなたと出会えて、本当に幸せです」


 私たちが、愛し合っている最中、公爵邸の裏庭で、大きな爆発音が響いた。


 ドーン!


「公爵様、お逃げください!」


 私たちは、すぐに服を着て、寝室を飛び出した。


 裏庭は、炎と煙に包まれていた。騎士団が、公爵邸に侵入しようとする暗殺者たちと、激しく交戦している。


「騎士団が、なぜこんな夜中に」


 私は、疑問に思った。これは、ただの暗殺ではない。


「シュナです。彼は、私を捕らえ、私の権力を奪おうとしている」


 公爵様は、冷静に状況を判断した。


「ルイジアナ。あなたは、私の盾になってくれるか」


「もちろんです、公爵様。私の命に代えても」


 私たちは、裏庭に向かった。そこで見たのは、暗殺者たちを指揮する、シュナ団長の姿だった。


「シュナ! 何をしている!」


 公爵様が、怒りの声を上げた。


「公爵様。私は、あなたを救いに来たのです。この女は、魔族と通じている。そう、彼女の顔の傷は、魔族の呪われた炎魔術の証拠だ!」


 シュナは、私を、魔族の手先だと、騎士団の前で罵倒した。


「嘘だ! ルイジアナは、帝国を守った英雄だ!」


「英雄? 顔の傷を隠しもせず、公爵様の権力を奪おうとする女が? 騎士団よ! ルイジアナを捕らえろ! そして、公爵様を保護せよ!」


 シュナの命令で、騎士団の一部が、私に向かって剣を向けた。


 私は、愛用の長剣を抜き放った。


「公爵様、お下がりください。私が、この場で全てを終わらせます」


「ダメだ、ルイジアナ! あなたが騎士団と戦えば、あなたが悪者になる」


 公爵様は、私の手を握った。


「あなたの剣は、私のためにある。だが、今は、私の言葉を信じて、剣を収めてほしい」


 私は、一瞬、迷った。彼の言葉を信じるべきか、剣でこの場を切り開くべきか。


 その時、シュナが、私に向かって、鋭い風の刃を放った。


「死ね! 魔族の手先め!」


 私は、反射的に、公爵様を庇い、その風の刃を、剣で受け止めた。


 私の剣は、風の刃によって、わずかに欠けた。


「ルイジアナ!」


 公爵様は、私の無事を確認し、深く頷いた。


「シュナ。あなたの罪は、許されない」


 公爵様は、私の傍を離れ、一歩前に出た。


「騎士団よ。聞け! シュナ団長は、私の権力を奪うために、暗殺集団を雇い、私の妻となるルイジアナを陥れようとした! その証拠は、私が持っている!」


 公爵様は、懐から一通の文書を取り出した。それは、シュナが暗殺集団に送った、依頼書だった。


「シュナ。あなたの罪は、帝国に対する反逆罪だ。観念しろ」


 公爵様の、不器用ながらも、勇気ある行動に、騎士団は動揺した。


 私は、彼の勇気に、心から感動した。彼は、武術の才能はないが、私よりもずっと強い心を持っていた。


「ルイジアナ。あなたの剣で、私のために、道を開いてくれるか」


「はい、公爵様」


 私は、再び剣を握り、公爵様のために、道を開く。

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