穏やかな日々への影、そして公爵様の成長
ラーンが生まれてから、公爵邸は、以前にも増して温かい雰囲気に包まれた。公爵様は、執務の合間を縫って、ラーンの世話を甲斐甲斐しく手伝ってくれた。
「ルイジアナ。ラーンは、もうすぐ寝返りを打ちそうですね。あなたの強靱な足腰を、受け継いでいるようだ」
「ふふ、公爵様。あなたの知性も、きっと受け継いでくれますよ」
私たちは、ラーンの成長を見守りながら、穏やかな日々を過ごしていた。
しかし、平和な日々には、必ず影が差すものだ。
ある日、宰相から緊急の連絡が入った。
「ロキサーニ。辺境の傷跡の森で、魔族の残党が、再び集結している。大規模な侵攻の準備をしているようだ」
傷跡の森。それは、私が顔にあの傷を負った場所。そして、魔族の呪われた炎魔術が生まれた場所だ。
「公爵様。私が、前線に戻ります」
私は、即座に言った。私の剣こそが、魔族の残党を鎮圧する、最も効果的な手段だった。
「だめだ、ルイジアナ。あなたは、ラーンの母だ。そして、私の妻だ。もう、命を懸けて戦場に行く必要はない」
公爵様は、私を抱きしめ、強く拒否した。
「ですが、公爵様。私の剣が、帝国を救える」
「私が、あなたに代わって、帝国を救う」
彼は、真剣な眼差しで、私を見つめた。
「ルイジアナ。あなたは、私に勇気と、愛と、知識を与えてくれた。もう、私は、武術がからっきしだった、あの頃の私ではない」
公爵様は、この数年間、内政の執務の合間に、私と共に、古代魔術の研究を続けていた。そして、ついに、彼は、魔族の呪われた炎魔術を打ち消す、新たな術式を開発していた。
「あなたの剣は、物理的な力だ。だが、私の魔術は、根本から魔族の魔力を無力化できる。私が、前線に立ち、この術式を、魔族の残党に浴びせる」
「公爵様! 危険すぎます! あなたは、武術の訓練を続けてはいますが、実戦は……」
「大丈夫だ、ルイジアナ。あなたがいる。あなたが、私の最も強力な護衛だ」
公爵様は、私に同行を求めた。
私は、最後まで反対したが、彼の強い決意に、折れるしかなかった。
「分かりました。ですが、公爵様。私の指示に、絶対に従ってください。あなたの命と、あなたが開発した術式を、必ず守り抜きます」
私は、愛用の長剣を抜き、公爵様の傍に立った。
公爵様と私は、少数の騎士団を率いて、傷跡の森へと向かった。
傷跡の森の深部。魔族の残党は、数千規模に膨れ上がっていた。彼らは、私たちを見るなり、呪われた炎魔術を放ってきた。
炎が、私たちに向かって、襲いかかる。
「公爵様、今です!」
私が叫ぶと、公爵様は、一歩前に出た。彼の白いローブが、風になびく。
「魔族よ! 私は、ロキサーニ公爵。あなたたちの呪いを打ち破る!」
彼は、短く、そして力強い詠唱を始めた。それは、私が開発を助けた、古代魔術を応用した、対魔族術式だった。
公爵様の体から、青白い光が放たれた。その光は、魔族の炎魔術と衝突し、炎魔術を、一瞬で消滅させた。
「な、なんだと!」
魔族の残党は、動揺した。彼らの最も強力な武器が、まるで無力化されたのだ。
「ルイジアナ! 今だ!」
公爵様は、私の名を呼んだ。
「はい!」
私は、剣を抜き放ち、残党たちに向かって、突撃した。
私の剣は、もはや躊躇しない。公爵様が開発した術式が、魔族の動きを弱体化させている。私は、その隙を突き、残党たちを次々と無力化していった。
彼は、私を信じ、私は彼を信じた。私たちは、完全に連携していた。
この戦いは、公爵様の魔術と、私の剣術の、愛の勝利だった。




