第9話、新たな勇者と聖戦の予兆
第9話です。
~ここは東南の国チューアル~
「ヒジェル?」
「ヒジェルは居るか?」
「はい、ここに」
「どうかなさいましたか父上?」
「うむ…先ほどこの私の予知能力で見た事だが…」
「はい」
「…(耳に手を当てて小声で話す)…」
「何と!?…それはまことですか?」
「ああ…ついにこの地上に勇者が現れたぞ!」
「フフフ…」
不敵な笑みを浮かべている。
~一方でライゼル村のソニアの占いの部屋にて~
「((何だか身体が…温かいな…優しい温もりで包まれているみたいに))」
この俺、アルスーン・レッドフィールドは今。
ソニア婆ちゃんの占いの部屋で…将来占いをしていたが…身体から急に光輝き始めている。
なんか俺の声が響いている様な…
「何なんだいこの現象は?」
「どうしたの?ソニアさん!…え?アルス?…」
「ソニアさん…あんたの家から光が凄いが…一体何を?…ん?アルス…これは!?」
「((ラルク伯父さん))…」
俺の声が反響して聞こえる?…ん?あれ…何だろう。
凄い光輝いているけど…恐怖は感じ無い…むしろ温かくて安心する感じだ。
まるで母親に優しく抱っこされているみたいだ。
水晶玉に魔力文字が浮かび出て来る…【勇者】…と。
「え?…ゆ、勇者!?」
「アルスが…勇者だと?」
「((僕が…勇者…そうか…))」
「((だから光輝いているのか?))」
「アルス喋るな…声が反響する!」
「まるで…頭の中や心の中に直接話しかけられているみたいね?」
「まあ…どうしましょう…今夜はご馳走にしましょうかしら?」
~エルフ族の里~
「ッ!?」
「これは?」
「アルスの声が響いて聞こえる?」
「ユリウス様!…他の場所でも同様に聞こえるみたいです」
「アルス君…そうか…君がそうか…」
「お父様?」
「皆の者ライゼル村に行くぞ?」
「え?え?」
「新たな勇者に会いにな!」
「はっ!」
何だかお父様が嬉しそうだな?…勇者…って言ってたけど。
ライゼル村に勇者なんて居たっけ?…ライゼル村にはアルスが…ってあれ?…え?え?…まさかアルス君が!?
~王都キングダムウォールの騎士団演習場にて~
「ん?これは…」
「伝言魔法サイレントコール…」
「んな事しなくても俺も聞こえているよ?…副団長」
「騎士団長」
「子供の声が響いて聞こえるみたいだ」
「今回の勇者はガキか?…オイオイ?」
「真面目な話だぞ?」
「わーってるって…」
エルフ族の魔法使いの騎士団の副団長は真面目なんだけど…少し口うるさいからな。
もう100歳を越えているがまだまだ幼いらしいが…エルフ族の年齢はよく分からんな。
俺の名前はルーク…ルークス・ランスロット。
現在の騎士団の団長を勤めている。
先代の騎士団の団長のラルクさんは…俺の剣の師匠であると同時に憧れの人でもある。
家柄的な物も有るが…ラルクさんに初めて見た時になんてカッコいい人なんだって思ったのが第一印象だな。
元々は俺も反抗期が長くて…ヤンチャしまくっていたが…当時の騎士団の団長のラルクさんに叩き直されたのもあって。
それから...騎士団の学校に入って、必死に勉強をして…二年間の騎士団学校生活を終えて、晴れて騎士団に入って。
ラルクさんの下の騎士団の直属の部下に成ってたくさんの事を学んだ。
そして…ラルクさんが怪我で引退したタイミングに…まだまだ若いはずの俺が騎士団の団長に指名されたんだ。
ラルクさんからは…「お前の努力が実を結んだんだ!」…言われたのを今でも覚えている。
俺にとってはラルクさんは…師匠であり、上司であり、兄貴の様な存在だった。
やっと憧れの人に認めて貰えたって思って…泣く程嬉しかったな。
まだまだラルクさんには遠く及ばないけどな。
「また始まるのか…魔王との聖戦が…面倒くせぇな…まったくよ」
確か…前の聖戦は俺の曾祖父さんが子供の頃だったか?…それは酷かったらしい。
魔王や魔王軍も強力だったが…その当時の勇者がまず役立たずな上に…自己中心的で利己的だったらしい。
それも有ってかは知らないが…勇者の固有スキルの正しき心と正義の剣っていうのがあるが…それが上手く発動しなかったんだ。
それでも何とか人間と亜人族と獣人族の連合軍は魔王軍に多くの犠牲を払いながら何とか退ける事が出来た。
その犠牲者の中には俺の曾祖父さんの父親も居たらしい。
当時の騎士団の団長を勤めていたからもあるが。
本当にギリギリの戦いだったらしい。
運が良かったかは知らないが…魔王軍側からの停戦が宣言されたんだ。
さすがの連合軍も疲弊と犠牲者の数の多さにその停戦を呑んだんだ。
大変だったのがその後…
ほとんど役立たずな上に自己中心的で利己的と来たもんだ。
さすがの勇者も無罪放免とは行かなかったんだ。
勇者は…「私も前戦で大変だった」とか何とか言っていたが。
目撃者がたくさん居た上に…証拠もいくつも出て来たんだ。
さすがに言い逃れが出来ないと判断した当時の勇者は…勇者は自由な戦士だとか言って。
自分のスキルや勇者の剣で、あろうことか…連合軍に戦いを挑んだんだ。
実は勇者は自由な戦士っていうのは…【自由な意志の下で】という掟というか...ルールというかがある。
歴代の勇者が現れた時は…自由意志で行動させる様にと代々の王族や種族達に言い伝えられているみたいだ。
だが…その当時の勇者の固有スキルはそもそも発動しなかったし、勇者の剣に関しては…すでにパーティーの仲間によって没収されていたんだ。
ちなみにその時に勇者の剣を没収したパーティーの仲間の魔法使いが…今の騎士団の副団長の母親のエルフ族だ。
つまり文字通りの丸腰状態だな。
そのまま取り押さえられて、王都キングダムウォールの監獄に収監されたんだ。
判決は終身刑…死刑に成らなかっただけでも…連合軍の人達は相当寛大な対応だと思うな。
いや…恐らく勇者のパーティーの仲間が頑張ったんじゃないかな。
いずれにしろ…そんなこんなで前の聖戦は幕を閉じたんだ。
それからは…しばらく平和や平凡な生活が続いたんたけど。
亜人族と獣人族と人間との間で色々な意見が別れてな。
まだ気を抜くのは早いとか何とか言ってな。
これはあくまでも噂だと思っていたが…
獣人族と亜人族とで勇者召喚の儀式をやったらしいが…人数が足りなかったのか、やり方が間違っていたかは知らないが。
何処かで空が一瞬だけ光ったとか何とか。
勇者召喚が成功すると空が光輝くみたいなんだけど…まさかな。
勇者召喚から10年も過ぎてからだから何とも言えないが。
「だが…この周囲に響き渡る…反響する声は…勇者特有の真実の声っていうヤツだったか?」
「ああ…間違い無さそうだな」
「空が光輝いている」
「見りゃ分かるって!」
新たな勇者の誕生か…
今回の勇者はまともなヤツで有ってくれよ?
もし先代の勇者と同じヤツだったら…俺が…
さて、鬼が出るか蛇が出るか…
~ここは魔族の世界の魔王城~
「魔王様!…空をご覧下さい」
「ああ…ついに新たな勇者が現れたか?」
「魔王様!魔王軍は何時でも出陣出来ます!」
「いや…魔王軍は今回は出陣を見送る」
「え?…でも…」
「これはわらわの決定じゃ…従え!魔王軍よ」
「はっ!」
もし今回の勇者が…わらわの夢や目的を分かってくれる者ならば。




