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魔王のたぶらかし  作者: 暖炉炬燵
1章 意識に囁く者
8/10

咎人の街

 ガタッと揺れて目を覚ました。

人の頭部と、肉付きこそ男のものだが妙に細い肩。

どうやら背負われているという事なのだろう。

探聖者、私たちがそう呼んでいる男だ。


 少し考えて呟くように聞く。

「私死んだの?」

「いいえ生きてますよ。きっと気のせいでしょう」

そっか、ならそうなんだろう。

ふらふらとない筋力で子供の死体を退けて道を開ける。

 人気のなく血や死体で溢れた通りを抜けると、がやがやとした声がする広間が見えてきた。

広間といっても街門近くの屋台の通りが集中しているからのようで、むしろ見た感じは狭い

とはいえ、少し見上げれば凶悪なクロスボウがある。憩いの場というわけでもなさそうだ。

 人が多いのは避難場所だったのだろうか。どっちかと言うと処刑場って感じだが

「あーーー!何をやっているんですか。探聖者様の負担になるんなんて!罰当たりな」

今になって気づいて肩を叩いて下すように言った。

噛みついてくるローリーの額に指を置いて押さえ込む。

モリビトがひらひらと手を振る。

「こんなに、人が集まってるのは何?」

「ええ、非難場所と一時的な指揮所があるようでして、町民は民兵として戦闘の開始次第で集まれるようにしているようですね」

ふうん。随確かに分な数だ。

だが、誰も武器を持っているとは言い難い。

「領主様は人気なんだ」

「人気というより傷血騎士候が戦功によって成した領地ですから、ある種の結束が最初から盛り込まれているのでしょう」

なんとなく、ぼぅーとしていた。

疲労か。目まぐるしさの代償か。いずれにせよ

「ねえ、どこに向かうんだっけ」

「咎人の街にございます」

「物騒な名前だね」

「そういうものです。どうも武勇伝の様なものなのでしょうから」

「ねえ」

私はなんとなく疑問に思った。ストレス環境下が少し緩んだ事で気が緩んでいたのだろう。

「君はどこから来たの」

「はい?」

「君の事よく知らないなって」

探聖者は面食らいながらも解答を出して行く。

 どこか説明口調で、あまり拘っている様には聞こえない。

「探聖者…はええっと、いわゆる外務官の様なものでして、聖女教領域の聖人もとい神の御座に行く事が許されるものを探す役職です」

「大変なんだね。電車とか車とかに乗っていくの?」

聞いてから気付いた。

電車とか車とかって、機械文明が齎したものだ。

そもそも見つけて馬車じゃないか。

なんて間抜けな事を聞いたんだと

「いいえ、ご存知の通り、“この世界”には大層なものは…あ」

「知っている?」

 疑問が増えた。

顔を見ながら次の言葉を言おうとする。

 すると、探聖者は目を閉じるーーー

 気に障ったのだろうか。


 ピシャリ、と探聖者は言った。

「“急がなくてはなりませんが、私に任せてください”」

なんて?

「そうだね」

私はなんの衒いもなくうなづいたのだった。

 ふわっとした違和感はすぐに無くなった。


「ん?」

モリビトは何か違和感を感じる。

「どうかなさいました。野蛮人特有の儀式か何かですか」

「違うよ」

モリビトはローリーの頭をぐちゃぐちゃと撫でた

「強いていうなら疲れてたのかな」

「どうでもいいですけど、ぐちゃぐちゃにするのはやめろ。ああ、よれよれに直すのにどれだけ面倒な事になると思って。だから、やーめーろー」

「いいじゃないか。騒動も落ち着いたし、宿でゆっくり直せば」

もにょりとローリーが顔を歪める。その前に

「いいえ」

探聖者は何くわぬ顔で言ったのだった

「早々にここを出ましょう。略奪に巻き込まれでもしたら面倒でしょう」

「でしたら、できる事を探さなくてはなりませんわ」

そう言ったローリーを探聖者はたしなめていうのだった

「“我々には急ぐ理由があります。そんなのどうだっていいでしょう?”」

“然るべくして”ローリーはうなづいた

ーーーー

 それから、一行は舟墓の町をすぐに出た。

本当にすぐだ。

私に持ち物なんてなかったし“それに私も急いでいたから”気にも止めなかった。

 モリビトやローリーもあまり多くのものは持っていなかったらしい。旅人の知恵という事だろうか。


 街道はどうにも直線距離からは海よりに湾曲した道を行くようで、少し時間がかかるようだった。

それでも森からの移動を考えると微々たるものだろう。

 ピー

 どこか平和に笛の音がなる。

「おめえら。退いてけろ」

モリビトに釣られて振り返ると荷馬車の青年が止まっていた。

 街道の道である程度、安定した舗装の施された道は荷馬車が二台並べるか少し怪しい大きさだった。

どうにも邪魔になっていたらしい。

モリビトが代表して答える。

「コレは悪いね」

「おう。そだ。おめえら、咎人の街までか?なら乗ってくべ」

「いいのかい?」

御者台の商人は抜けた歯で笑った。

「いいべいいべ。舟墓の街んとこがどうも混乱してて関所で足止めくらったからなあ」

ああ、そうか早く出たのは止められるとはあくしてたからか。

 ことばに甘えた一行は次々に乗り込む。

荷馬車はどこか土臭い匂いで土汚れが酷くついていたカバーの付けられた覆いは農作物が乗っているらしい。

 モリビトが礼を言う

「改めて、ありがとうございます」

「いいっていいって、んじゃだすべ」

 ばっちいー。と言わんばかりにローリーが顔を顰めたがどうやらモリビトと正反対の場所に立っているので大した問題にはならなかった。本当に気を付けなよ。

ガタン、ッタ、ダン、ガタッ

「…酷い揺れ」

今度は私である。

でも、許容できる範囲だ。車慣れしてると酔いそうだけど

ちらりと眼を向けると御者台はあっちで盛り上がっているらしい。助かった。

「車輪は木、ちょっと古いですね。クッションもない。農村からみたいですし採算に合わないんですよきっと」

ローリーが苦笑して言う。

ついでにバネもないね。

「でも急いでたから、助かったよ」

返答を聞いて目を丸くして言う。

「あら?なにかありましたか」


 そりゃ

「そりゃ」

なんでだっけ、何かしら焦燥感を感じていたのだけは事実だが

いいや違う。

『早々にでましょう』

探聖者をみやる。すると、真っ暗な影を覗き込む事になった。

落ち窪んだ骸骨のような目、どこか冷淡で人間を見るようには思えない。悪夢の模ったような黒い眼窩。

「ああ、もしかしたらこの辺りに縁があったのにすっかり忘れているだけなのかもしれませんわ。ねえ、なにか思い当たる節はございませんか」

黒い眼窩の男が少女の肩を鷲掴む。

「やめなさい。子羊よ」

「え、探聖者様」

 そんな言葉も聞き逃して一つの疑問を考えていた。

意識が水にさらされたように明瞭になっていくのだ。

それにつれて、焦燥感は染みるように失せ代わりに疑念が跡のように残った。

私は何を急に急いでいた?。


がしゃっと馬車が揺れた

ーーーーー

馬車が止まる。

ざわざわと、人の声がする。

どこかに指示をだしているようで、兵士だろうか

「おうついたべ。ここが咎人の街だ」

「そう。ありがとう」

モリビトが例を言ってローリーが出立の準備をする。

荷物の持ち出しを手伝おうとすると探聖者がやんわりとやめさせる。

 触っちゃまずかったかな。

どこか疎外感を感じるが

「だからさあ…」

「規則だ…」

「知るかよ。場所が足りねえんだよ…」

何かの言い合いが微かに聞こえる。


「あのお。ここに止めるんですかね」

「んだべ。大概ここで、同じ時期に来て許可も貰ってる。野菜おろすだけだから使うなら後にしてけろ」


「いえ、困るんですよねえ。ここはウチの連中が使わしてもらうこと人っていまして、そういうわけですのでどっか行ってくださいね」


「いや、取引の間だけだべ」

「こっちは数が多いんですよ。すべこべ言わずに退けってこった。」

「ここは領主の管理だ。交易上の待機場所として定期的に使う奴には許可制で開放されてる。退くのはそっちだべ」

「それはオレは知らねえよ」

「いや、だから」

すぅと男は息を吸うと

「おおーーーい。ここに異教徒が邪魔してるぞー」


「は?な、なにをいきなりいうべ」

なんだって、

そう言おうとしたのも束の間にガヤガヤと人が集まってくる。

 それだけならばまだしも刃物だ。日常に使う手斧、手製の槍、戦争に出向いていたのか古びた武器を持ったものすらいる。

「まだいいてるのか」「話はついたのに」「これだから、…は」「どうせ居なくなったのに」「異教の神を信仰しているから」

「街の名士はみんな改宗したのに」「神の奇跡は確かにみたぞ」「古い権力にしがみつくクソッタレめ」「金か?やっぱり金なのか」「舟墓からきた魚屋も背信者だったし」

見渡すと頭上で揺れる影があった。

腐臭とドス汚れた血液を垂れ流し見せ物のように狭苦しい鉄の棘が肉を刺し貫き血と肉を溢しながらぶら下がっている。

 それの顔は絶望を浮かべている。

人間の男だった。

なんだここは

 身を守る力がなさそうなローリーの近くにより、短剣2本の位置を確かめる。

モリビトが商人を馬車に引き込み弓矢を物陰で構えている。


 そんな中、探聖者が進み出た。

すると、何かの道具をかざし大きな声で話し始めた。

「我々は舟墓の街からつい先日出てここにつきました。見ての通り私は正しき神に仕えるもの。無体な真似はやめていただきたい」

「法衣を着てるぞ」ざわ「聖女教の探聖者か」ざわざわ「舟と人のシンボル」ざわざわ

続けて探聖者は言った。

「君たちの中に我が友、ヴェイの居場所を知っているものがいたら報告ねがいたい」

「探聖者様の?知っている奴はいるか。楽園に行けるぞ。そこ!抜け駆けさせるな。いいか全員で行くんだ。皆救ってくださる」

 声を上げる者がいる。

楽園?一体、何の話だ。

「あ、アイツ逃げる」

「え、どうしましょう」

最初に叫んだ男が情勢の変化を悟ったのか去ろうとしている。

それを受けてローリーが探聖者に問う。

人々の声を聞いているのか探聖者は聞かなかった。

「その必要はない」

民衆が割れ始めて次第に人の壁の背が低くなった。人々が祈り出したのだ。

周囲を従えて探聖者に似た法衣を着た男が現れる。

「神様だ」「ああ、入信が認められる」「助かる。助かるんだ。楽園に連れて行ってもらえる」

ヒートアップした群れが湧き上がる。

一体、なんなんだろうかコレは

男は片手をあげる。

「控えなさい。私の客人です」

進み出てきた男は言う。

微かに歪めた。

「ようこそ。同胞とお連れ様。まずは仮に設けた聖女教会までおいでください」

ーーーー


「ですから、奴らは」「しかしですなあ」「納得するか」

 戦火都市国家群とはかつて在った国の後継国家だ。

伝え聞いたところによると魔王と戦い地形が変わるほどの戦禍ののちに勝者として都市を建て、その連合となった。

建前は以前の方式では魔王に破られたのだからということだ。

建国者は言った。“諸君、悪意を捨てよ”

 事実、当時の王国では武器を捨て、利益活動を禁止し、それでいて魔王が攻撃するまでは大きな問題を起こさない。どころか不満も飢えもなかった理想郷に近かったとされている。建国時期に至っては遥か昔以上のことはわからない。

カリスマがいたらしいが、一体どういう国だ。

「紀律伯の娘よ。どう思いますか」

「紀律伯の娘、我らに与しなさい。悪い事は起こりませんよ。ええ貴方が素直ならば」

「貴様等、脅しているつもりか」

だとすれば、かつて同じ場所にあった。その…なんとか、とやらの建国者は今のここを見て何を思うのだろうか。

あと、誰一人として私の名前を呼ばないのはどうなんだ?

 かつて戦働きで手に入れたからとやけに物騒な名前の地名が多いのはそのせいだろうか。


「そんなことはございません。傷血騎士侯の妻といえ、所詮は外のもの。事実、今の今まで政の席もありませんでしたがゆえ」

ふっふっふふふ

 嫌な笑いだ。早く帰ってなんか食べたい。

この都市国家では議会制を採用している。

採用しているっていうか変更する余地がない。

どんな形でも利権が生まれるから当然だが、ほっとけば腐るだろう。

 こほん、後ろで高位の使用人が仕切れと促してくる。

本家から来たという話だ。私は知らなかったが、家令が高位で傷血騎士侯の手のものだというから来た。

そしたら、なんか死んでいたのだ。

何か言われるから口には出さないが、離れに軟禁じみた形でいたし知るわけがないのである。

「あーそれでは、紳士の皆様方。今巷で暴力行為まで始めたカルトの対応についてですが…」

ふぁーあ

 欠伸が漏れた。

そういえば後継者指名されてないな。

 喫緊かといえばそうだが、この前はお茶会の日時設定だったし、その前はなんだっけか。

ちなみに私に子供はいない。妾の数も知らない。

どーするんだろうな。何もできないけど


「ーーーーおや、まだ終わっていないのかな。スパルニクス」

私が欠伸をして弛緩した議会が更に緩んだその瞬間、いつからいたのか大男がはいってきていた。

 ここは2階、地上階に通じていないバルコニーからだ。みりみしりと窓枠が悲鳴をあげる。

私はただ息を呑んでいた。ああ、誰かの手のものなのかな。と


ふうふう、言いながら張り詰めたタルのような異様な風体の男。しかし、何よりも異様なのはその頭

すぐにでも弾け飛びそうな男だった何より頭部だ。

ヒキガエルのように幅広い異常な頭部。

否であった。

男が自らの頭を隠す布を引き剥がす。

その広い顔にはイボの異様なまでに生え茂ったヒキガエルの顔があった。


 「ーーー急ぎすぎではないかね。フログニクス」

 使用人が唐突に切り出した。

有力者たちは目を吊り上げる。

「ふう、良いではないか。そもコチラも良い結果をえられた。たった一人安全を確保するだけで我らの行動を黙認すると…いつまで化けの皮をかぶっておるのだ?」

「無条件ですか。ワタクシより良い条件ですね」

「ほう?ではそちらは」

「結構日時は未定ですが、占領後に反対派で集会を行う事を承認させられました」

「大丈夫かね。それ」

ふうふう。という息を吐きながらタルのような男は不安げな声を出す。

 使用人の姿をした男が何かを返すまえだ

「貴様等、なんのつもりだ」

警備司令が声を荒げる。やたらと見栄にこだわる男だ。いうことを聞かせる場合は感謝状でも送ればいいってことくらいしか知らないが。

 使用人ーーースパルニクスなんて名前だったのかーーーはため息を一つ吐くとぼやいた

「まあ正直。もう少し煮詰めるつもりでしたが、兼ねてより聖女教から布教を行っていたこともあって十分ひっくり返るでしょう」

それでも短いですが、そう呟きながらも執事は続ける。

「き、」

「うるさいですねえ」

警備司令は口を利けなくなった。

 特に何かされたわけではなく。青ざめ引き攣った顔に唾液が滲んでいる。

何をされたんだ。

 なんだこれ、めんどくさい。まあいいか。そもそも、アレだ。なにか意見を通すための議会パフォーマンスかもしれないし


あっ

 顔を机に叩きつけられる。

私だけではない。


 ちらり、伏せた顔から目を動かせば多くの議員が同じように額付かされているのが見える。


 イボ顔のヒキガエルーーーフログニクスは視界の端で『服』を脱いだ。千切れたというべきか。

すると中からは鱗の様なイボのあるカエルのような肉体が現れる。

 身体を猫背にすると一つ、伸びをした。ああ、窮屈な姿勢だった。腰をいわしそうだと

異様な風体、異常な体躯はさもありなん。ヤツは人間はおろか人型ですらなかったのだ。


硬質な音が響く。

ブーツで机を踏む音

目を向けようとすると礼服の靴が見える。

 本家の執事だ。

「さて、皆様を拘束し冷たーい牢の中で長らくを過ごしていただく事は決まっております」

ブーツの音はずって響いていた。

壇上となっている上座を通り中座を通り下座の、とは少しズレた紀律伯の娘の席の机で止まった。

「奥様におかれましては、一つお願いがございまして」

「思い出した」

「つきましてはこちらの書類にサインと、それから民衆に向けて宣言を行っていただきたく。何?」

 夫の重用していた使用人。

人は上下を作り固まり落ち着くものだ。

 故に私は外のモノ、これに媚びることなど造作もない。

「何を、にございますか」

なにか特殊な力を持っているか。

本人そのものの顔をしているかは全てさておき

「あなた。傷血騎士侯の、家に仕えている使用人じゃないわね」

「ええ、…ワタクシ。魔物にございます。」

 ブーツが持ち上がり私の頭を踏みつける。

確かにソレは笑った。


ーーー

 路地、地下、やけに臭う水道

聖女教会とよおばれた場所は街の影になった半地下の入り口を持っていた。

内部から少し上がれば居住地らしき場所があり、光が幻想的に差し込んでいる。

 探聖者は同じ場所に所属しているらしきヴェイという男とどこかへ行き、ローリーもまたなんらかの集会へ行った


 モリビトは目の前でぼーぅとしている。

この怪しげな集団について詳しそうなローリーはどこかに出て行った。お祈りがどうとか言っていた。

あっち側だったな。そういえば

という事はここではたった二人なのか

「ところで」

モリビトは暫くして話し出した。

「君は」

ちらりと見渡しす。やがて納得が行ったように話し始める。

「ここを気に入ったかい?」

「落ち着かないです。貴方も何か気にしているみたいだし」

なんとなく気持ち悪い。

「そうだね。あの男は気持ち悪い。ところであの時の話をしよう」

「あの時?」

目の前の男の顔を見直す。

「舟墓の町での話さ。何せ大所帯だと二人きりの密談は難しい。いい機会だから聞いておきたい」

「ああ、魔王がどうのって」

「そう。君は何か覚えはある?それとも何知らない」

大きな鳥の精霊の姿を思い出す。

しかし、勝手に納得されたことだけが脳裏に過ぎる。 

「いいえ、私にはよくわからない」

「そっか」

再び、モリビトと目を合わせると

 私は、なんとなく抱えていた疑問を吐いてみる。

「そもそも、魔王が何かもよくわかっていない」

「人に害悪をなすモノをそう呼ぶ傾向にあるね。何かしらの種別なんだろうけどそれくらいしか分からない」

むしろ、とモリビトは続ける。

「僕としては君の知見に期待したいところだったんだけど」

「なんで?」

「君、どうやってあの泉までたどり着いたんだい」

泉?森のところか。

助けられた場所のこと

 たしか、その前は

「泳いで、泳いでたどり着いた」

「君はどこにいた。どこで生まれた」

「気付いたら島にいた。生まれは少なくともここじゃない」

「その島の名前は?」

「知らない。私が貴方の探している魔王の縁者と思っているなら、少なくとも私には分からない。私にあそこに流れ着いたという事実以上はない。そもそも、ここにいるのだって…」

 なんでついてきた?

いや、行き場なくて親切心を受けたからだけど

モリビトは息を吐く。

「悪いね。アレと関係ないなら僕からは何もないよ」

「そう。貴方はなぜ魔王について知りたがっているの」

どこか。距離が開いた。

目の前から遠くへと広がっていく感覚

望む答えではなかったのだろうか。

敵対的で冷たい気配、だから質問した。

「殺すため、人の為に願われたから」

「変だね。貴方一人でどうにかなるものなの?」

「どうだろうね。もしかしたら誰も覚えてないのかも」

「おぼえてないって?」

モリビトは遠く目を向けると呟くように言った。

「これからどうするのか決まったのかい」

「いいえ、特には神の存在は何よりも優先されます。なので、暫く私たちも滞在してますね」

 振り返るといつのまにか探聖者が入ってきていた。

にっこりと目を向けると探聖者は言う。

「それより、少し宜しいですか」

私に向き直ると探聖者は言う。

「何か用事?」

「ええ、ええ。貴方様にお話が」

 モリビトを伺うと既にぽけっとしていた。

問題はない。と言いたいのだろうけど、一言くらいあってもいいのに

 なんとなく落ち窪んだ不気味な顔を見て考える。

別に拒否する理由はないか。

「分かった」

私は立ち上がった。

ーーーー

 言われるがままに、ついていくと半地下の壁の折り重なった目立たない部屋へ通される。

中には訝しげな顔をする法衣の男、確かヴェイと呼ばれていた。

その真横には、もう一人

 もう一人?知らない男だった。

礼服というより、使用人が着るような言うならば仕事着といった印象だろうか。

何事?


「ええ、詳しい話をする前に聞いていただくべきかと思いまして、不躾ながらお呼び立ていたしました」

疑念に満ちたヴェイの顔が視界の端に映る。

お前は、なぜここにいるんだ?と今にも聞こえてきそうだ。

 探聖者は振り返り、両手を擦り合わせるようにして微笑む。

簡単なことですよとでも言いそうな。しかして、異星人を見ているような不安感を煽る笑顔

大きく手を広げて言い出した。

「この国、この街の税はどうにも過剰なようでこのモノたちは不満を持っているそうです」

さっと空気が変わる。

理解できない。本能が様子見を呼びかけているだけで今にも飛びかかりそうな気配をヴェイと身なりのいい男の二人が見せる。

なにか、聞いちゃいけないことのような

「彼らが袋のような大男をつけ回したところ、どうも領主自体は税務に興味がないようでした。いかなるものか。徴税官フログニクスも思うがまま!この地の民は皆、苦しみ喘ぐことになりましょう」

既に訝しげと言うよりも場の空気は凍りつき冷酷な対応を考えだしている頃合いだ。


「異教を捨て、改心させるいい機会にございます。神の意向をお示しになってこの地の愚昧な者共をお導きください」

 いや、何言ってるの?

困ったようにうっすらと笑う。

何を思ったのか探聖者は首を振る

「そういうのはいりませぬ。私が欲しいのは断言で御座います」

「できないです」

そりゃそうだろう。

「は?」

探聖者は真顔になる。

隅で備えていた二人は目配せしやがてヴェイは見かねて言う。

「お前、気をおかしくしているんだ。少しやすめ」

言葉を聞いた探聖者は手を上げかけるが、ヴェイは進み出てその手を掴んだ。

探聖者は息を吸う。しかし、やがて息を吐くと呆れたように言った。

「まあ、いいでしょう。蒙昧な家畜未満に何を言っても同じ事」

ヴェイは目を細めた。侮辱が気にさわったのだろう。部屋の隅の礼服の男もまた顎をなでる。

 出口に向きを変えさせると乱暴に押し出した。探聖者はむっと苛立ちをにじませる

「まあ、いいでしょう。所詮、貴方の魂胆など目に見えております。何をしても神の奇跡の前には無意味です。そう、今は忘れているのです。今は」

ヴェイは鼻で笑う。

「同門だからな。だが、聖女様こそが正しい教えのはずだが?」

 カランカランと部屋の隅に備え付けられていたベルを鳴ると何人かの人間が入ってきた。

ヴェイの指示に従い数人が探聖者を囲う。

男は不気味に笑う。探聖者は私に目もくれず部屋から出て行った。私は…どうすれば?

気付くとヴェイは厳しい目を向けていた。

直ぐに指を差し命じる。

「あの男は狂気に囚われた。その魔女を捕らえ縛りあげよ。私が審問する」

「く、狂うと、加護をお受けになったお方が狂うと、おやめ下さい。あなたまで狂ってしまえば我々はどうすればいいのですか」

ヴェイは首を振って言う。

「案ずるな。私はここ、聖女教会にて行うのだ。加護があらせられる事は当然の理である」

 一戦あるらしい。狂い出した探聖者、はともかくとして2人は無事だろうか?

まあ、街から出てしまうのがアンパイか

おずおずと近寄ってきた信徒をふらりと体を揺らして躱す。

よかった怖がっている。

さっさと移動しよう。

通路を振り返ると


「茶番ですねぇ」

初めからずっといた男だった。

 魔物?

その容貌をハッキリと見ると驚きが精神を支配する。

礼服を着て、半地下の採光窓から差し込む光で照らされたその身体は人間ではなかった。

 眉からした鼻より上にびっしりと付いた複眼、顎の下から生える剛毛、肩と横腹から蠢く黒い口角に覆われた腕は完全に人外。

半端な異形を晒した魔物がそこにいた。

単純に広い。腕が広く抜ける事がおそらくは困難。

困ったな。


信徒の一人が悲鳴をあげる

「す、スパルニクス殿、その体は一体!」

他のものもまた驚愕を見せる中、探聖者ヴェイだけは全く動じず舌打ちをした。

「始末せねばならなくなった」

「いいではありませんか。元よりあなた方の不手際、そして元よりここの支配者は私たちのはず」

「ああ、そうだったな。親愛なる隣人殿」

皮肉を呟くとヴェイは両刃の剣を抜剣する。

コイツもやるのか面倒臭い。

しかし、拍子抜けすることになった。

剣は信徒出会ったはずの男たちに振り下ろされたのだ。

「何をなさるのですか!」

 その言葉を空滑るように聞きながらも死体と断末魔が過ぎる。

余裕がなかった。魔物のスパルニクスを通り抜けるために恐れを消し、殺意を考案し、それでいて射程を警戒する。

だが、

「え?」

身体が動かない。

「勿論、サービスです。そうでしょう。我々は親愛なる隣人なのですから、ええ、共に利益がなければね」

 ふふふ

捕まっている?どうやって、身体を動かそうとする。

視線は動く。顔も動く。

 糸?

動かないと言うより線で動けない。

まるで引っ張られて制限されている。

皮膚に食い込む感覚、腕に数本、足に数本、腹を通り

締め付けが酷くなる。

「おっと動かないでいただきましょう。何せワタクシ、物事が上手くいかないとムシャクシャしてしまいまして、いやあ欠点って嫌ですねえ。貴方はどうですか。ねえ、なんとか言いましょうよ。あ、別の話題の方が良かったですか。くすくす、どうせ無駄なのに逃れる話とかあ?」

「スパルニクスよ。それを、先に処置する」

「処置ですか。いいでしょう」

「う」

直ぐに拘束箇所が変わり、腕を後ろ手に、両足と海老反りで繋がれる。


 視界が回転する。

ドアが開いた。部屋が暗い。


入ってきた扉ではない壁からだ。

「っ」

そのまま、壁だと思っていた場所に引きづり込まれる。

手というより腕を噛まされて声を出すことを禁じられた。

 ボロ布を纏った男だ。誰だ?

死んだ男の目がコチラを無感動に覗き込んでいる。

ずる。ずると音を立てて私は引きづられていく。

「コチラで待たれよ。同盟者スパルニクス」

「その前にお返事をいただきましょう。我々としては直ぐにでもと言いたいところでして」

「構わんとも、だが万全を期したい。壊すだけだ。直ぐに終わる」

「まあ、いいでしょう」

無口な男と私を放置して、何事もなかったように男たちは話を続ける。


 扉が閉まり壁に戻る。

すぐに外の光は失われた。

ーーーー

死んだ目の男は気を使うでもなく乱暴に運び、何度も引きづられるように移動する事になった。

「痛っ」

「奴隷女がこの程度で喚くな」

 こいつなんて言った。奴隷?。

「お前…」

 反射的に不愉快を感じ呟いた。

 だっと、音を立てて壁に叩きつけられる。

「黙っていろ。このクソ忙しい時に…いや、お前。他に私に会う予定があるものはいるか?」

「…しらない」

 意図が理解できないながらも言葉を出す。

ヤバい。危ない。逃げ出さなくては

ヴェイは顔を顰める。

「ちっ、もう少し優しくしてやるべきだったか。まあいい」

ずるずると引きずられる時間が戻ってくる。

「所詮、この国の間抜け共よ」

 プッ

真後ろから笑う声が聞こえる。人をバカにした失笑だ。

やはり無力だな。卑しい奴め。思いもしない信じもしてなかった希望にすがるなど実に滑稽


 声に体を強張らせる。

すると、担いでいる男もまた暴れることを警戒したように緊張が走る。


くくく、積荷のようだな。人ではなく。ただ運ばれ、放られ、死体のように転がる。実に〝無力な物だ〟


「ついたぞ。ここならば誰も入ってこない。奴隷小屋だがな。丁度いい餌もいる」

 鼻で笑うような法衣の男の声が聞こえる。

いつのまにか床の材質が変わっていたのか底冷えする廊下を進んだところで

 明かりを見た。酷い匂いと共に

「さて、お客様には悪いが先にこっちの処置だ」

 肌が粟立つ。視線だ。情欲、羨望、あるいは恐怖。媚に諂い同情。

押さえつけられている現状から目を上げれば、たくさんの男がいた。


 皆一様に黙っている。

いや、数人口を開いているのを見た。

だが、何故だ?音がしない。


禿げた法衣の男は嗤って、“その器具”を見せた。

 私の顔は何かしらの固定具に縛り付けられて口を開かせられる。

「奴隷は舌を抜くもんだ。余計な事を漏らされたら困るってわけでね」

法衣の男は器具で舌を掴む。

「んぐっ」

暴れようとすると、掴んできた男に肘を叩き込まれ黙らせられた。

「ご安心を回復の奇跡はある。奴隷の舌は切り落としておきたい。一般のヒトモドキは文字を解する知恵はないんでな。同じヒトモドキでも自らの意思で従う信徒の方が価値は高い」

おい。と低く声をかけると死んだ目の男に抑え込まれる。

「さて、女は本国送りだ。最後に言うことはあるか?」

罵倒。

しかし、舌は引き出されていて何も言えない。

 愉悦を覚えたように禿頭のヴェイは笑う。

「くくく、まあ言わせねえよ。万が一も聴こえねえだろうがな。何せ、お前はこの後従順なメスになってもらう」

嘲りだ。弱きを甚振るのが楽しくて仕方がないと嗤っているのだ。

そりゃそうだ。危険ではなく完全に与える側となる畜生のような愉悦は所詮ケダモノである人間には堪えきれない愉悦だろう。

「まずはうどの大木どもに犯させる」

法衣のハゲは器具で奴隷を指差す。

浅ましいほどの欲望と抑圧の捌け口を求める顔と目が合う。

 ニチャア

「次に指を潰す。足を圧迫し、首で吊るせば、水に漬ける。眠たくなれば光を当てる。それでも犬みたいに騒ぐなら逆さ吊りだ」

悍ましい事を次々に告げる邪悪な悪魔に

 不思議と、ああ拷問の前準備なんだと理解ができた。

この世界であの初めに会った化け物が私に見せた通りだ。

私はアレの仮想上で何度も死んでいるのだから、ただ語られるだけの事が大したことになるものか。


 まずは恐怖を煽る。

彼らの場合は自白をさせるのではなく心を折るために、つまり抵抗されたくないと言う事だろう。


 だから、私は拘束器具をしっかりと観察すればいい。

ベルトだ。革製か。

身体を固定する。人間用の拘束具。

その固定方法は上半身ごと縛り上げる形だ。

だが、どうにも滑りがある。油だ。

血を弾くように?それとも革のメンテナンス?どっちでもいいしよくわからない。


 わかるのは私が、今の私は何故だか、怪我を恐れていないと言う事だ。

「では、尊厳とはお別れだ」

 法衣のハゲの顔は見えない。

だが、ナイフの振り下ろしだけはよく見えた。


 ブチぃ

切れる。


肉に食い込む指の握力。そうだ暴れたならば厄介になるだろう。

 だから私は身動きして、押さえつけられるタイミングで肩を突き出した。


壊れる感覚がする。

外れる程度か?

もがき、身体を丸めようとする。

反射的な行動で、また暫く蠢く。


 掴みが緩んだ。

「では、浅はかな猿どもよ。お楽しみの時だ」

足で台に引っ掛け

「何?」

するりと抜け出す。


 逃げる事を考えた私の足は気づかないうちに床の材質の変化を理解する。

戻っているのだ。

「ま、待て。クソ奴隷がっ邪魔だ。信徒に見られてはならん!」

走った。

扉を抜け、驚いている礼服の横をすり抜けると廊下を走った。


何人か見ている方もいるようなので報告させて貰います。

ストックが切れたので失速すると思います。

やってみると、意外と難しいですね。とはいえ、一区切りつくまでは続けるつもりです。


2/1、今更ですけどちょっと書き直しています。読んでる人がいたらごめんなさい

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