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魔王のたぶらかし  作者: 暖炉炬燵
1章 意識に囁く者
4/10

野営地

 ずぶ濡れの体がひどく寒い。

だが、人気のする場所、もといテントと焚き火の野営地を見ると、なんだかドッと疲れが湧いてきた。

「あ、クソ野人。一体どこへ行ってたんですか!探聖者様の護衛として、自覚を…って怪我人!?」

 髪の長い少女が驚いて声を上げる。

ちょっとうるさい。

「そうだね。ローリー。あと、僕は護衛じゃないよ」

「そんな事、どうでもいいんです。さっ、こっちです」

「わかったよ」

少女に連れられて設営済みのテントへと向かう。男は何故かついてきた。

眉を吊り上げて少女は言う。

「あと、殿方は席を外してくださいまし」

「うん?わかったよ」

モリビトは何か分かっていないかのように、ふらっと出ていった。

少女は引っ剥がすようにモリビトのかけた血だらけのマントを剥ぎ取ると、目を丸くする。

「なんてボロボロに…ごめんなさい。クソ野人が気を利かせなくて、探聖者様の護衛なのに…ふらふらふらと」

「っ」

 テキパキと救急箱を準備すると、水桶や手拭いを用意して応急処置を始めた。

消毒の綿が身に染みる。

ある種の痺れが治る頃、漸く処置をした少女の顔を見る。

ローリーと呼ばれていたか背が小さい女だ。

あとは、髪が綺麗な

「どうかなさいまして?」

「いえ、髪の毛綺麗ですね」

「ふふ、ありがとうございます。神様の贈り物ですわね。でも、汚れたり死んでしまえばい幾ら美麗な容姿でも意味はありませんのよ」

「そうだね。無事でよかった」

そうどことなく。なんというか全体的に小うるさい。

 ぱたぱたと動いて、てきぱきと治療をこなす。

いわば妖精のようだ。


 ふとローリーは処置され当て布で覆われて傷口を労るように撫でた。

不思議と痛く無かった。

「お大事にしてください。ヘタに傷を負ったらエキゾチックな美貌が台無しですよ」

優しい声に少し驚くと少女は数世紀を過ごした老人のような目をしている。

見た目にそぐわない年齢の老いを感じさせるある種の存在感があったのだ。


「さっ終わりましたよ。これもそれも全ては探聖者様のお慈悲があってこそ、ささ、挨拶してくださいまし」

パンと手を叩くと少女は言った。


入り口に影が差した。

「おお、おお神よ。貴女と出会えるとはコレは僥倖!まさしく神は祝福しておられる。コレでようやく我が願いも叶いましょうぞ

「はい?」

「探聖者様探聖者様、そのお方は初対面です」

探聖者と呼ばれた男は無視すると

「我が同郷。我が同胞、偉大なる御方よ貴方が救うべきものです。我が罪を量るには全て燃ゆる手。我が生涯、チリの舞う旅の栄冠となりましょう」


少女はすうっと目を剥いた。

「何をおっしゃいますか!森羅万象は全て探聖者様の為にあるのに」

「そう言うわけでもないんじゃないかな」

何を言いますか野蛮人!隣のローリーが吠える。モリビトが入ってきたのだった。

それも探聖者は些細なことと無視すると

「お待ちしておりました。貴女を、ずうっと」

ずいと、探聖者は接近してくる。

なにこいつ

視界の端でモリビトは肩をすくめる。処置なしと

「探聖者様、探聖者様!治療をしたのは私です。つまり、褒めてください」

ぴょこぴょこと、功を主張する少女。

 それより同郷で同胞だって?

探聖者の姿を改めて見る。

男ーーーモリビトと比較するならば、落ち窪んだ瞳、クスリでもやってるかのようにコケた頬、皺がより、その顔はどちらかと言うと死骸のようで…

「あなたは?」

「…なんと、これは試練か」

衝撃を受けたように探聖者は慄いた。

 名前を聞いたつもりだったのだが

単に同郷といえば転生する前…いや、魔物でこの身体のスコルピアと知り合いだったのかもしれない。

「いえ、いえ、いかにも神のお導きのままに、“聖女”様としてお連れいたしましょうぞ」

あまりにも唐突な単語に思考が鈍る。

「それは、彼女をどうするのかと言う話でいいのかな?」

「ええ、私めが何者かは存じております。いかにもお任せいただければと!」

「はあ、何って」

何って、言われても私は…忘れさせてるとか言ってたか

「ご心配なく。全ては…」

探聖者が答えようとした。

「これだから野蛮人は!魔物に追われて身体をボロボロにされてそれも冷水漬けで体は冷え冷え、そんな方を前に今後の話なんて性急すぎます!ねえ、探聖者様」

探聖者は一瞬、何かを言いそうになってこちらをチラリと視界に入れた。

「い…、そうですね。彼女の事を思えば今は身体を休ませるべきでしょう。よくぞ言ってくれました」

ローリーは満足そうにうなづくと

「はい。これ」

「服?」

ローリーが上下の服を渡してくる。

「ええ、だってボロボロですもの。ダメージファッションと言うのでしょうか?妙に傷んでいる様ですけど、随分丈夫ですわ」

…そういえば、妙な格好だったっけ


ーーーーーー


 パチパチパチ、焚き火が音を立てて燃えている夜もふける頃

私はのそりと貸し与えられたテントから這い出てきた。

捻ると身体が軋む音がする。長く寝ていると体調が良くなったのだろう。

息が出る。

「もういいのかい?」

モリビトが何かしらの液体をマグカップに注ぐと差し出して来る。

「ええ、ありがとう」

自然と言葉が漏れた。

「それはよかった」

モリビトはそれ以上の言葉を言わずに、手伸ばしてぱちりと焚き火の火をかき混ぜた。

香ばしい匂いがする。肉か

「羊だよ。前に保管していたやつだね」

「“問題ない”ですね」

驚いて目線を向けると、ソレは暗がりに亡霊の様にぽっかりと浮かんでいた。

探聖者、そう呼ばれた男だった。

「ところで、どこへ行くんだい?」

どこへ?

 一瞬、虚を突かれた。

「どこへ?」

「うん。どこへ」

「まあ、暫くは共にいませんか?旅に目的がないこともありましょう」

探聖者が口を挟んだ。

「そういうものかい?」

モリビトは尋ねた。

その男はどこからか持ち出した杖で焚き火を掻き混ぜて微笑む。眠たいな。

「ええ、そういうものです。“私は慣れています”ですから、彼女に行き場所を示せますよ」

 なんの経験だろう?私の疑問は露と消えた。

「そっか。ならいいのかな」

 モリビトはどこか不自然にうなづいた。

「ええ、お任せください。私は、国なき教えに従う者。聖女様に仕える者でありますが故、摩訶不思議な人の世に悪なすものに対しては慣れていますので」


「なら、安心だね。それでどういう道筋になるのかな?」

「ええ、まずは大きな町に出ましょう。こういったてあいには互助会の様な情けの掛け合いが重要です。ならば余裕があるほうがよろしい」

「大きな街?咎人の街かな」

ふわふわした頭で、どこか異様で物騒な名前だと思った。

「ええ、魔物被害は多いのでそこからまた別の場所に、とも考えられますがね。まずは舟墓の町を抜けてあの街の友人に会いに行きます」

ちらりと、モリビトの目が私を捉える。

「でも随分と後ろ暗い印象のある街だけど」

「おや、そうですか。あの魔王が近場に住んでいる以上、襲われる時には襲われると思いますが」

「そうだね。いっそ、この子がここに居るのは他の要因かもよ」

ーー

「“我々は慣れてます”」

「そうだね」

 モリビトはなんの衒いも無くうなづいた。

そう言うものだろうか。

…妙に芝居がかっていてめちゃ怖いような

探聖者は私に気付くと“にこやか”に笑った

「私に任せてくださいませんか?」

 私は頷いていた。

何も、おかしくは無い。

旧来の友人が難題を請け負ってくれたかの様に

探聖者は大口を開けて羊肉に齧り付いた。

「ところで、君の宗教は羊肉は戒律で縛られてなかったかな」

モリビトはふと聞いた。

「ええ、”問題ありません“」

ーーー

「何も出来ないのだな?」

 嘲りが聞こえる。

「小さな世界の覇者であった餓鬼もボンクラと怪しい男頼りとは笑えるではないか」

誰だろうか?

 よくわからないーーー


「よくわからぬか。ならば、どうかね。愚かな娘、私にその身体の遍くを譲ると言うのは?優秀なお前も、無力となった。所詮は認識よ。場も変われば人も変わる」

何が言いたいんだ?

「如何かね?その生を魔王とするのは、快楽ぞ。無力を知らぬと言うのは」



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