開ける世界
「ようこそ来たのう。小さき者よ」
目覚めるとそこは見覚えのない場所だった。
白いようでいて、黒い。星が浮かんでいるようでいて屋内、いや、野外特有の広さすら感じるようで感じないようにも思える。
…なんだここ
「案ずるではない。ただ認識できんだけじゃよ」
そう言ったのは人間、では無いような。
老人、それとも青年?女性のようでもある。
色は単色のようで極彩、なんとも奇怪な生き物だ
「この次元を悟るには程遠い。じゃが、小娘お前には才能がある」
「才能?なんだ」
小間使とか?天使とか?
いつの時代も自分が、そこまで優秀だった記憶はない。
「お主は小間使いとしては無能よ。儂の云う才とは転生者の事」
「転生?」
「そう。古くより輪廻の和を巡り別の何かに転ずる概念じゃ」
死んでないとできないはずじゃ
「覚えてはおらんかもしれぬが理解はできよう。お前は死んだ」
…理解できなかった。
額が痛い。
そうだ。喪失感だ。そこだけ空っぽになったような。
ああ、欠けているのだ。この身体は
いいや、欠けているのは身体だ。
一息つくとその存在は告げた。
「輪廻転生の理に従い貴公もまた人の世に還る。貴公は善行悪行を清算し木石、小動物の様に無力な物へと堕ちる」
堕ちる?
「ふうむ。見えるぞ。見えるぞ。お前の行き先が、お前はその辺の河川の底から削り上げられおる。身動きの取れぬまま、幼子に蹴られ砕かれ、細かくなって投げられて、痛ぶられて悪質な悪戯のように投げられて、おお人死にが出たのう。うむ、人の世の法に従い来世にも悪行を犯したとみなされて、また木石の道。おやその次は犬かのう?おお、狂犬病を患っておるわ。ほほ、碌でもない未来が続いておる」
なんだ。その救いようのない未来は
輪廻転生の話には詳しくないがそんな悪行を働いた覚えは…ないはずだ。
「思い出せまい」
確かにそうだ。何を現世でやったかなど覚えていないーーー
「例えば、そう」
首に縄がかかる感覚
「絞首刑」
ハムに掛けられた紐が肉を分ける様に、空へと広がる。
悍ましい重力が細い首以外に掛かる。
そしてあっけないほどに
ポキリと解放される……
「おえっげほっげほっ」
なんだいまのは?
ーーーいや、そうだ。殺された記憶がある。そう、あるのか?
「これから何度だってお前は死ぬだろう。人の死も、そして畜生の死も、草木の死も」
首の縛る縄の感触、首に向けられた剣の感覚、首を貶める木枠の感覚、見えない視界と向けられた冷たい眼差し匂い立つ嫌な匂い
背筋をゾクリと屍の温度が触れた。
「じゃが、否と願うならば未来を一つ提示しよう。お前の“才”を見込んで」
何を、させられるんだ?
臓器販売とか?何かの犠牲になれとか?いや、簡単などっかの駅でカバンを受け取ってこいとか…
て言うか。転生者の才?
「ちょっとゲームの世界に行ってほしくての」
「は?」
なんだそれ?
あれ?知ってる。“この化け物”が好むゲームだ。
「ほら、知らぬはずはあるまい。ゲームじゃよ。ゲーム、RPG。確認したぞ。やっておったじゃろう?」
「…はい」
確か、そうやった覚えがある。
「わかるかのう。いや、わかっておるじゃろう。楽じゃろう?ゲームの世界じゃ。好きじゃろうテレビゲームは」
唾を飲み込む。
テレビゲーム、よく覚えている。大昔からブームになっていて
あれ、なんのゲームの事だ?。
「じつはのう。ちょっと前にあるゲーム機が発売されて買い求めたのじゃが、人間側に干渉できずにいて今まで時間がかかってしまったんじゃ。そしたら何年か経って新しい国じゃろう?何度も何度も出遅れてしまうし、これならもう手当たり次第に引っ張ってこようと思ってのうーーーーー」
それからも、ゲームにかける思いの変遷を聞いた。やれ、作りが雑になるだの。中身が無くなってるだの。
よく覚えていないが要するに不満があると
「それで思う様になったわけじゃよ。ヤッベ、もっと高精度なナンカでやりたいってのう」
「な、なるほど?」
ファン制作をしようと、いや、ノウハウ無しにヤレると思ってやると大概失敗する奴だけど
「多分そんな感じじゃ。媒体じゃがーーーー異世界に本当に作ればいいと考えついたのじゃ」
…世界一つを作って、かつその通りに動かそうというのか。
神様だけに規模がでかい。
そして無闇に規模を大きくして失敗する奴にも見える。
しかし、どうやるんだろう。
あ、もしかして誘導せよとかそう云う?
「いや、先ほども告げた通り儂は人間界には干渉できん。むしろ王道は観測が容易、故に主格キャラクターにはむしろ近づかないでほしいのじゃよ。それよりも、頼みたいのは感覚器官としてじゃ。勿論、お主は輪廻から逃れられるし、なんなら良く知ったキャラクターで良く知った出来事で、栄光を掴む事も容易かろう。儂もいるしのう」
「な。なるほど、じゃあ」
なんとなく焦りながら何になるかをきめようとする。
「じゃが、しかし」
「干渉には制限があってのう。外から手を加えようとすると正確に入れてやれんのじゃよ」
制限って?
「つまるところ、誤差が出るのじゃよ。誤差が」
厄介な事を言い出した。
勿論、どの程度かはわからない。
「へ、へえ?ちなみにそのポイントのズレは現実にはどんな感じになるのですか?」
「なあに登録順…主要なキャラは近い物になりおるわ。案ずるではない。それでいつを狙うかじゃが、隠遁王女、森の女賢者、胡蝶姫あたりはどうじゃろうか」
女性ばっか。なぜに?
生きていた頃は…どっちだっけ?
「いや、女性は生理ありますし、三つの国の王子とか、山奥の村の勇者とか、賢者ローグとか、そんな感じのキャラとかがいいなーなんて」
「むう?そうか。どうせやるなら女じゃないかのう?」
現実、リアルでしょうに…男だったのか?
「ふむ。それもそうか。確かに身体の構造が大きく変わるのは致し方ないにしても仕組みが変わるのは厳しかろう」
ええと良かった。理解を得られた。
性転換は負担が大きい。
「じゃが、ランダム性はあるぞ。分かっておるな」
念を押された。




