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魔王のたぶらかし  作者: 暖炉炬燵
増殖戦役
15/16

魔王の警句

 死体の臭いにローリーが顔を顰めているのが見える。

多分それだけではない。

一時の宿から出ると酷く無遠路な視線を身体に感じる。

あれだけ、見かけが違ってわかるものなのかね。

 戦場であることは勿論だが、連れ出される間に何体かの獣のような体躯のオークに囲まれて何かしらの体液を撒かれた。端的に不潔、あと臭い。

それだけならば山賊や盗賊のようなものだろう。

だが、そんなことよりオークは明らかにサイズの合っていないボロの服を着ている。人間用の大きさに見えるが

 撤退前、モリビトのついでに二人とも兜を頭に“乗せた”オークの前に出される事になった。製鉄技術がないのだろうか。

 どうも、モリビトはあれから相当戦ったらしい。

使えると判断されているのか文字通り唾がかかって湿っている。

よく見ると表情も引き攣ってるし

立場のあるオークなのか。既に唾を飛ばしながらモリビトに何かしら語りかけていた。

「戦況は劣勢ダ。奴らは大昔、オークの王が健在だあったコロ。攻め込み王を殺した」

「オークに王様がいたんだね」

モリビトは感心したようにうなづき出した。まさか、すんなり受け入れてる?

「偉大なるオークの王は平和に精強に野蛮なものたち相手に栄光を持って治めていタ」

勿論事実かは知らないよ?。

「ある時ダ。魔王が島に現れ、突如としてオークの尊厳と栄誉ある民を襲ったノダ」

オークは拳を地面に叩きつけ嘆く。

「その古来より今までは細々と平和であっタ。舞行もまたそうダ。だが、最近になってまたやってきたノダ。これでは、我らの栄光の象徴たる舞行もできヌ」

 モリビトはオークの目の前でなんどか、うなづく。

ようやく、モリビトは話を進めた。

「我々は森の先に行きたいんだけど」

オークは一つうなづくと言った。

「そうか。確かに森を抜ける旅人も多い。だが、…」

そのオークは一目だけ目を逸らした。

どこを見た?別のオークだ。

「道が倒壊しているのダ」

ちらりとモリビトがこちらを見る。

意見を求められてる?

あとで調べないと

 とは思ったが

「まあ、それならしょうがないんじゃないかな」

「英雄殿に私は聞いている。非礼だ情婦無勢ガ」

ぴしゃりとオークは言う。

 虚を突かれた。

情婦ではないけど、まあいいや。

「僕もそう思うよ。道がないなら仕方がない」

モリビトが言い直す。

理解したのだ。“そういうモノと”

このまま矢面に立ってくれるだろう。

最近元気がなかったローリーが少しばかり顔を顰めているくらいだ。

「分かっタ。英雄殿の手が得られるならばこれほど喜ばしいこともなイ。そうだ。余計な世話だろうがオーク族に伝わる警句をしよう。女は是を妨げる邪悪な魔獣ダ」

「そう。ありがとう」

 モリビトはさっくりと流した。

「うむ。では先遣隊を出す。それから、暫くしたのちにここを出ヨウ。して、どちらも貴公の情婦カ?」

「うん。そうだよ」

モリビトはにっこり笑うと一片の濁りもなく嘘を吐いた。

ローリーがどこか物凄く嫌そうに近づく。

 さっきから女性陣に向けてはその手の話しかしてないしそりゃそうなるか。


ぶく、ぷく、プツっ

その時だった。

 ぞっと、背筋を寒気が通る。

オークの視線、なるほど気色が悪い。

だがそうじゃない。ソレは遥かに恐ろしいもので、移動している。

オークの兵士が武器を振るった。それには当たらなかった。


 辺りをさっと見回す。

すると、肉塊だ。とてつもなく頑丈な鎧蟲の中身。

肉の塊が、次々に他の肉塊を吸収し迫ってきている。

今度は大き過ぎるのだオークの兵士が武器を振るえば当然のようにぶつかる。

数人、いいや10人だほど、それは全くの通用にせず突破した。


 すうっと、まるで蛇が移動するかのように、だが同時に酷く威圧感が、確実に害せると心の奥底に辛酸を滲ませる存在感のあるソレが迫る。

内側からは溶けているかの様に原型を保った肉塊がどろりどろりと流れ落ちていた。

 どこかおどろどどろしい声が、低く響く。

その声の対象は明らかに一行の3人だ。

「貴公らに問おう。豚と我、どちらにつくか。選択の機会を与える」

「無駄な話ダ。略奪者ガ」

しかし、一行の誰よりも早く立ち上がったのは豚の頭を持つオークだった。

「果たして、どうかな。お前達が思うほど意見が一致しているようにはみえないが」

兜を乗せたオークが何かを言おうとしたが、肉塊に呑まれた。

 肉塊の内側から溶かす様にあるいは噛み砕かれているかの様にすり潰されたその顔が覗く。

一瞬の出来事であった。

全てのオークが止まる。

豚に回答権はなし、かの魔族はそう言っている。

「どうだろうね。正直、通り抜けたいのだけど」

「では行くが良い」

「一度手合わせしている以上は簡単には信じられないかな。それに」

それにの後はモリビトは続けなかった。だがおそらくは使命だろう。

 魔王を殺せ。そう望まれるから生きていると

「そうか。であるならば時間をくれてやろう。存分に選ぶがいい。弱きものよ」

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