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魔王のたぶらかし  作者: 暖炉炬燵
1章 意識に囁く者
13/18

エピローグ

「息苦しいなあ」

紀律伯の娘とだけ呼ばれる女はちょっと焦っていた。

いや、死を覚悟している。

息苦しいのだ。閉鎖的な建物の中、入り口が制限されて外に繋がる気配はない。

そうしてなんだか息苦しくなっていったのだ。

見逃されたのはすぐに死ぬからだろうか?


ちち

 ネズミだ。いいや、ネズミじゃない。

三眼の目を持つそれはおそらくは魔物だろう。

「えっと」

どうしよう。小さいしぺちんと潰せる?


 がっらがらがら

突然、壁の一部が壊れた。

すう、と埃っぽいけれども美味しい空気が入り込んでくる。

「ふうーはぁ」

救助だろうか?

血だらけになった手で安堵を思い胸を撫で下ろす。が緊張に切り替える必要が出てしまった。


 出口を塞いでいたのは蜘蛛、を半身としてごちゃごちゃとした瓦礫のような身体を持つ化け物

その半身の蜘蛛が唐突に声を発する。よく見れば見覚えがある顔だ。

「私ですよ。私」

「す、スパルニクス様、ええっとお元気そうで、あははは」

なんでやねん。

と思うほどに外見が変わっている。

「いやはや、あっははははは」

「あははははっ」

「裏切ろうとしましたね?」

「い、いえ。いえ、全く!」

「ははは、既に人から魔族に鞍替えした輩がよくいいますねえ」

瓦礫の腕が掲げられ、振り下ろされる。

すると、紀律伯の娘は殴打され、そのまま瓦礫が瓦解して蜘蛛の半身のみが残る。

もはやその女は下半身を瓦礫の中に埋め呻くしかできない。

「ふふ、半身は壊しました。そこで飢えて死になさい」

さて、蜘蛛の魔族は呟くと視線を外へ向ける。

壊れた道や道具が傷つけるのも気にせず身体を引き摺る。

 這いずりながら行く先には、獅子頭人身の魔王が倒れている。

死に損ないの自分では外から来た軍隊が来たら遅れをとるだろうと蜘蛛の魔物はここまで運んできたのだ。

「ええ、天佑です。全くもう少し知性があれば使ってやったと言うのに」

 蜘蛛の魔物は嘆く。

全ての準備と、同盟者との共同作戦の失敗をだ。

 天佑派の魔族とは、近年になって現れた一団だ。

世界情勢に介入し拉致犯罪を行う聖女教に協力し共同で動く事で有利に進めようと、主張するものたちだ。

実態が不明すぎるので不介入を主張する方が多いため、あくまで少数派として名前がつけられている。


 魔王の怪我の様子を確かめると蜘蛛の魔物はニタリと笑う。

「脳に、入れそうですね」

ぽろりと肉体の断面から落ちてきたのは一体の蜘蛛だ。

爪ほどのはるかに小さな蜘蛛

魔物の本体であった。

肉体に、眼球にあいた穴に着地すると小さくも悍ましい音を立てて肉の中に入り肉を掻き分け侵入していく。


 もっと脳へ掘り進めていく。

スパルニクスに支配された生き物は真っ当な状態に戻ることはない。

そりゃそうだ。脳を損壊するのだからよくて廃人だろう。


脳の近く。垂れた一部に取り付く。

さあ、あと少しだと意気込むと


肉が降ってきた。

 小さな魔物は踏み潰されたのだ。

な、何が起きた。

蜘蛛の魔物にはっきり分かるのは迎撃されたと言うことである。


目をぐるりぐるりと回し、ソレをみた。

臓器特有のテラテラした外観、しかし身体の各場所に固定されて然るべきはずなのにあるまじく動き回るそれには歯のない口がある。

「なんだ。その器官は!生き物にーーー」

 体内に潜入したものを破壊する“内臓器官”が食ったのだ。

内蔵器官は動かずにモゾモゾと動き始める。腹の中、消化液へと


 後には無力の魔王だけが残された。

ーーーーー

 モリビトが目を覚ました場所は牢屋だった。

牢屋と言っても鉄格子があって、石造りで窓もない。不潔な場所ではなく。


木製の格子に、岩に寄って造られた急造りのものである。

隣にはボロのように丸まるローリーがいる。

抵抗したようだ。戦闘能力はないし、どうも相手は友好的では無かったのだろう。

随分、背の低い牢屋だな。ローリーはともかくモリビトは立てないだろう。


 牢屋は野営地のような場所で丘に面して設置されている。

見せ物小屋のように武装した人間からは遠い。

つまり、どこかの武装組織に捕まっている状態というわけだ。


 目を覚ましたことを受けたのか。

兵士の一人が動いていった。

 あの子はどうなったのだろうか?丁度死んでいたから抜け出せたとか?

そういえば、名前を知らないな。

 今考えると事ではないか。

だが、どうにも頭に血が回らない。出血と疲労だ。

いかにもだろう。長い間、格上と手合わせして2発も急所を外したし


 一人の男がやってきた。

どうやら付き人と見張りの服装を見るに、常備軍ではないようだが、その男に関しては礼服というわけではないが指揮官と一目でわかる格好をしている。

「初めまして、傷血騎士侯のゆかりの者だな?」

「いいや、違うけど」

彼は新興の貴族なので事実関係はない。

死んじゃったのかな?彼

「では、コレはなんだ?」

「…弓だね」

大弓だった。回収されているが別に証拠にはならないと思うけど

「知らんふりのようだな。いかにもコレについては民衆にはわからんようになっている。弩に代わり不要でもある。だが、同時にコレは過去の栄光よ。残っている大弓は精霊に返還された。使用禁止兵器である。どこぞの悪人が隠してなければ存在し得ない」

 聞いてないけど、不敵に大弓を渡してきた火の精霊を思い出す。

どうやら人間同士のやり取りに過剰な火力は不要ということなのだろうか。

魔物に通じないような気がするが

「お前ら、傷血騎士侯が人を滅ぼさんとする魔王と結び付き我らを害するためであろう」

思わず睨め付ける。

男は無表情、興味がないというより、どちらでもいい。

「ああ、功績が欲しいのか」

質問にだけ答えよ。と檻を蹴られる。

 事実と違えどもそれらしき人物でいいのだ。

だから、ローリーは反発したんだな。

「ーーーーー」

まだ、何か言っているが正直興味はなかった。

コレはきっと、結論がありきなのだから何を言っても無駄だ。


そう、考えたいことといえば魔王についてだ。

 アレは、あの魔王は何がやりたかったんだろうか。

魔王とは元来、何かしらの化身。その何かしらとは邪心だとか悪感情だとか言われる。

たしか、獅子頭の魔王は無力と言っていたか。


そういえば確かにあの湾口は軍があり港町でもあった。この国の繁栄を支える場所の一つであり、魔王との戦いにおける神話的心理の依拠先であったのかもしれない。

つまり、決してなくなることのない。或いは破れることのない。

実利的には仮に破れたとしても撤退し、再起を可能とする。平和の象徴だったと言える。

 そこの人間のあらゆるが逃れられずに死に絶え、魔物が徘徊し、そして決して勝ことのできない魔王がフラリとやってきたら?

きっと、肉食獣が出入りする場所で殺すことも出来ず怯えて生きることになっただろう。

 現に魔王は居ない。

例えば、目の前の軍隊の雇い主

彼らは自らの功績のために、ひいては富のため大仰に流布することだろう。

きっと、虐殺があったという以上に怯えられることはないのだ。

 人は偶然、無力感から逃げられた。


なるほど、モリビトは使命を果たせたのである。

 檻が蹴られた。

「聞いているのか!」

「聞いているよ。ところで要するに君はボクを下手人として殺したいんだろう。構わないよ」

「違うな。認めよ」

「代わりに、そこの女の子は淑女として扱い。それから、逃がしてあげてくれないかな」

 男の目は冷たい。何か間違ったのだろうか?

折角、スッキリしているのだが

「取引のつもりか?違うぞ。お前たちが魔王と共謀したのだ。その罪は変わらん。明日だ。明日貴様等を移送する」

困ったなあ。逃がしてあげたかったのに

そんな事を永遠と話しているといつのまにかローリーが起きた。

悲鳴を上げたからか檻を蹴られている。ああ、騒ぐから

蹴られればまた条件反射じみた悲鳴をあげた。

何度も、きっと何を答えても怒られるから意味がわからなくて最早頭が真っ白になっているんだろう。


長い時間を得て監視の目を残して司令官であろう男がどこかに行っしまう程になれば、ローリーは衰弱して丸まっている。

「おなか、空いたね」

「…」

 気が滅入っているらしい。

気づけば日の入りは終わっていた。

暗がりの中、呼吸が聞こえる。

暗い中から火の焚かれた陣中をみるとどうにも自分が世間から切り離されているようにも感じる。

意外にも目を覚ませばローリーがプンスカ怒って、探聖者がテントで苦労する。

ああ、それから少し前から共にいた少女ぼんやりと焚き火を突いている。

 捲し立てられていた間の話では明日には移送と聞いた。

行き先はどこかの砦か城塞都市か。

厳重になる事だろう。

脱出するならもう何かしなくてはならない。


でも、何かする気にはなれなかった。

血を流しすぎただろうか?それとも満足している。


 まあ、いいか。

「交代だ」

どこか高い声だ。

「そこで止まれ。俺は聞いていない」

見張りの声だ。

槍をかまえたのか。

重いものが落ちる音がして、高い声の兵士が戸惑った声を上げる。

「おいおい。何するんだよっ」

両手を上げるような動作から、何かを投擲した。

咄嗟に上げられた武器に弾かれてどこかに落ちる。

ローリーのところだ。

「それ、貸して」

咄嗟に言った。

「え、わかりましたわ」

なぜか困惑していた少女から受け取る。

おや?


「であえ!」

 見張りの大声が聞こえた。丁度のその時

ーーーーパッと火の手が上がった。

多分偶然だろうけど、撹乱はしていたという事だろう。

立ちあがろうとして、檻が小さいのに今更気がついた。

 まあ、いいか

交代要員だと思っていた兵士が走り出した。

突進する方向にだ。

 どうも男性にしては小柄すぎる。

そりゃそうだ。

 当然、見張りの兵士は槍を叩きつけるように振るい。

そして、殺した。

が、不死身の女は全く止まらない。そりゃそうだ。

相打ちで引き倒すつもりなんだろうし

血みどろになりながら突進の勢いのままに、見張りの兵士を引き倒す。

 だが、死んでいない。

見張りの兵士が槍を手放し剣を抜いた。振り上げ突き刺そうとしているが、腕を掴んで檻の方へ引き込み短剣を首筋に埋める。

動かなくなるまで動かさなかった。

「起きてる?」

ローリー?いいや、違う。

「起きてるよ。助けに来てくれたんだ」

「そうだね」

見張りの男から何かを出そうとしているが、どうにも見つからなかたらしい。

多分、木材を縛っているだけだろう。

すると、あっさり縛っていた紐を切り半ば解体する形で檻は破壊された。


 あとは娘の指示に従って脱出した。

どうにも少しづつ陣地を移している間だったらしい。

兵士なんて常に抱え込むのはひどく金がかかる。

だからなのか。

 案外、忍び込みやすかったそうだ。


 燃えている陣地からのびる道と、動いた先の方角を避けて移動する。

方角なんて分からないが

鬱蒼とした茂みの中を3人で永遠と掻き分ける。


 皮を裂く枝葉も気にはならなかった。

自由というのは楽しいものだ。

いつのまにか。

「廃墟、という事は咎人の街か」

 小高い獣道を通り見えるのは魔王の島に臨む湾口

そして海に面した街の跡

見覚えのある。でも初めて見る廃墟だった。

 どうやら南の方に出ているらしい。

「ふう、ここまでくればいいかな」

「どうだろうね」

「それで、コレからどうするのか当てはある?」

少女に聞かれる。

「使命の果たす。かな」

まあ、無力の魔王は仕留めただろうけど

ちらりと、沈黙を貫いていたローリーを見る。

「わ、私は一度国許に戻ろうと思います」

「いいよ。送っていく。それからまた決めればいい」

意を汲んでというか。まあ、ただの情で軽く答えた。

 君は?と二人の目が集中する。

「名前、自己紹介していなかったね」

何を、唐突に

いいや、そういえばやっていなかったな

「なんでか。疑問にも思っていなかったけど」

「ボクはてっきり探聖者の知り合いかとね」

「私はお聞かれにならなかったので」

 彼の言葉は不思議な言葉だった。

なぜか。あの声を聞くと当然の事だと思ってしまうのだ。

「私は鳩羽霞。山田とは顔見知り程度かな」

「ヤマダさん?」

「探聖者の事」

 全くの無表情、大した事ないように言う。

ローリーも知らなかったのか。いや、そう言う話にもならなかったし、探聖者自体もローリーに興味はなかったようだった。実際にはそんなものだったのだろうか

「ボクはモリビト。この国出身で、他に個人名はないよ。だから今まで通りだね」

 笑って伝える。

別につけてはいけないなんて言われていないけど

「私はローリー。ローリーウェドラーです。出身は北の森の先にある湿地の国。宗教は、聖女教でした」

ローリーは最後だけ言い淀んだ。

「そう、二人は北に向かうんだね」

「そうだね。北には網を張っているし、少し困るけど」

「ああ、ごめんなさい。別に何か当てがあって言ったわけではないんです。遠回りでも全く問題ではありませんので」

ハトバさんは少しだけ考えると聞いた。

「これは、断ってもいいんだけど、私は人類に味方されない呪いがかかっている。それから、もう探聖者はいない。だから、全く断られてもおかしくはないんだけど」

肩竦めて苦笑いする。

「一緒に行っていいかな。何も当てがなくてね」

「ボクは構わないよ」

ローリーもまた了承する。

「そうでした。モリビト“様”」

ん?二人して困惑する。

「ありがとうございます。戦火の騎士様、このローリーはご恩を忘れません」

丁重に淑女のカーテシー…

「驚いたな。また、野蛮とか言い出すのかと」

ローリーはそこで何時もの笑いを浮かべる。

「これで借りは手打ちですね。野蛮人」

「口の渇かないうちから」

何人も肩をすくめる

 それから、ローリーはカスミに向き直ると言った。

「それから、全ての人と敵対する呪いでしたか?そんな呪い私は知りません。だって買い物をして旅をした友達で仲間でしょう?もちろん、私は刺してしまいましたが、神にいいえ、“友”に誓って私の意思ではありませんでした。赦していただきたく思います」

 きょとんとカスミはしていただろう。

そうだねと、頷く。友とは戦いたくはないものだ。例え戦うことがあったとしても


どこか。まばらに3人は日常を取り戻した。

 そのまま、いつものようにモリビトが先頭に立ち、でもいつもよりも険しい藪の中を進んでいく。

ローリーは呟いた誰にも聞こえない二人が前に出た後に

「でも、探聖者様と一体どういう関係だったのでしょう」

「ローリー?」「いたっ」「いえ、枝で手を切ったみたいです」

カスミは手元の道具を見せる。

「軍用の医療キットがここにあるよ」

「後にしよう。もう少し離れてから」

旅は続く人の心に不安を抱えて

作ってみると意外と難しいものですね。

一章完かな。と思います。

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