逆襲
街門だ。
結局、陸に続く門にやってくる事になった。
大した理由があるわけではなく魔物がいなかったからだ。
「随分と無駄な事をするものだが、今生のお喋りは済んだか?」
通りは随分と物が散らかっていた。
飲み物、肉、にキャンドル。それを運び暇を持て余していましたと全身で表現しているのは声をかけたその怪物だろう。
どこからか持ってきたソファに腰をかけているものがいる。魔王だ。
富の象徴とでもいいたのか?
ちらりと奥を伺うと無力の魔王から現れた魔物が這い回っているのが見える。
一つ決まっている事があるとしたらこの無力の魔王は撃破する事だけは決まっていた。
魔物が徘徊しているのとモリビト曰くローリーを放置していくことはできないのだ。
「場所が分からなかったの?」
人間の場所を把握しているであろう魔王が待っていた事を指摘してそう告げる。
「ハッ、気付いておるのだろう。我の視覚に我の聴覚に。人よりも優れ人よりも遠くそして精密に、お前たちの奸計など、知るのは容易い」
魔王は大仰に肩を竦めて獅子の顔に表情を作る。
「故にお前達は計画した。考えても無駄だ。攻撃が通るのだから、さっさと斬り込もうと…呆れたものよ」
馬鹿にしたように笑った。
勝機を組み立てることすらも放棄した大間抜けな人間だと
「理解するがいい。そして後悔して拝せよ。無力な貴様等は我が理解しきっているとしても下らぬ奇策に頼る他ないと」
魔王は立ち上がった。
そして進み出た。
対するのは私だ。
モリビトは下がったまま、遠巻きに移動し始める。
初動、短剣を構え…うっ
頭蓋が砕かれた。
意識を取り戻すと、石の床を感じる。
死にきらず再生したためだろうか。赤い血はまだ消えていなかった。
金属質な打ち合う音。
一方は槍と獣の爪。
モリビトが前に出ていたのだ。
彼は槍を手放し、どこかで拾っていたのだろう直剣引きながら血を付けた。
起きた事に気づいたのだろう。
急所はおそらく人型ゆえに人と同じ
獅子の彫刻の短剣を拾い上げ突貫する。
強烈な蹴りが飛んでくる。
少しだけ見えた。
モリビトの攻撃が腕を襲うが
「無意味だと言ったろう」
爪で摘むようにして止められている。
私はまだ死んでいない。飛び込むように入り膝を切り付ける。
魔王は跳ねて避けた。
が目で追える範囲だ。一度たたら踏むようにして、やはり避けるということを元々考えていないのだろう。
「なんというか。思ったよりも大した事がない」
「ほう?」
連撃、だが、既に慣れ始めていた。
頭蓋を掴む手は回避した。腹ごと背骨を割ろうとするのも転がり避けた。首の骨を砕かれたのは避けられなかった。
暗転する。
完全に死んだようだ。
覚醒する。
生き返った。
モリビトが相手をしている。
どうやら欠けた目の方を確保しているらしい。ちゃんと強いんだなあの人
確認した直後に、落ちていたテーブルを投げ込み叩き割れた瞬間に割り込む。
死んでも問題はない。或いはいずれ何かしら厄介な事を言われる恐れがあるとしても死ぬことが許されるモノが矢面に立つべきなのだから。
短剣を突き込む。
巨大な爪に腕が抉り取り切られる前に引っ込め再生される。
どんどん
安全圏が把握できてきた。
すうっと魔王の目が細くなる。
気に食わない。
言わずとも伝わった。
足が振り上げられる。軸から避けた。
隙だ。いいや、攻め込めなかった。
振り下ろされたのだ。
石でできた畳を砕き礫が散る。
両手で顔を覆い完全に死にきらないように身構える。
あ、
破滅の感覚は、驟雨のように打ちつけた石礫は腕はともかく足を砕いた。
巨大なうでが顔面をつかむ。
魔王は無言のまま振り上げた。
このまま死ぬだろうな。
思った直後、腕を振り上げ叩きつける。
激痛、を感じるまでもなく死んだ。
数十回、死んだろうか。
物心ついた折から何度も死んでいるとはいえこの頻度で死ぬのは久しぶりで、最多かもしれない。
私はともかくいつのまにかモリビトは息を切らしていた。
モリビトが仕掛けた。
迫る槍ーーーいつのまにか折れているに対し瞬時に叩きおとし反撃を見舞おうとする。
が、モリビトは当然のように避けた。慣れているのだ。
魔王はバランスを崩した。
いや、反撃に備えた。
だから、短剣を突き出した私の手は鷲掴みされていたのだ。
慣れだろうか。
その魔王に対して私は、顔を、まるで恋人のように寄せ。
唾を吹きつけた。
瞬時に地面に叩きつけられる。
案の定、死んだ。抵抗もする気力はなかったから当然か。
なぜ、そんな事を?
長時間の戦闘で苛立っていたのだろうか?
時間的拘束と緊張感は理性を容易く壊す。つまり、なんと無くだろうか
覚醒する。
目の前に魔王の足があった。
暗転する。
覚醒する。
暗転する。
………
……
…
覚醒する。
あ、死んだな
槍の一閃が魔王の腹に刺さりかけた。
強靭な掌が掴み。そして鉄の武器は砕けた。
モリビトの仕業で、命拾いしたらしい。
「悲しいかな。宇宙を鳥のように舞い。極地をリビングの様に寛ぐこの我にも、まるで機械擬きの人間ども間では不徳とされる物がある。わかるか?怒りだ!」
前げりが、首をへし折ろうとかっ飛んできた。が、ギリギリ避けられた。
よかった。ちゃんと激昂していたらしい。
「…君さ。随分ハイペースだったけど」
「ごめん。眠たくて」
そうだ。いつのまにか明るくなっていた。
何度か夜になっていただろうけど、そんなものはどうだっていいだろう。
何せ、変化がない。
モリビトはちゃんと寝ていたのだろうか。
不健康だから寝た方がいい。といいかけたが言わなかった。危ない。
どんどんどん
と戦闘が続く中、重いものが降り注いだ。
魔王は、反応はしたものの避けず。
モリビトはどこかの影に隠れた。
私は手足を吹っ飛ばされて、抜け出そうとしたら更に顔面を破壊された。
最後に見たのは魔王の憎々しげな顔だった。
鉄球、もとい大砲だ。
どこか別の勢力らしい。
目を覚ますと、魔王が丁度、砲弾を投げ返し、吠えていた。
衝撃波は目覚めた直後の私を吹き飛ばし、更に移動し始めた魔物に轢かれてまた死んだ。
どうやら魔物で勢力を駆逐するようだ。
蘇ると、さっと駆け出し魔王の元へ行く。
が、魔王は頭部を項垂れている。
諦めた?まさか
“冷静になる。”“足をとめ考える。”“ソレ”はまずい。
飛び込む。
当然の反撃はすり抜ける。
「当たってないよ。どの口で勝ち誇っているわけ?ただの弱いものしか狩れない三下がさ」
時間がないが、それでも口は挟む。
「なんかいーーー」
魔王は無言のままグッと腕を振り絞り
ーーー
ーー暗転した?ーー
ーーーー
起き上がる。
直後に巨大な腕が胴を掴む。
獅子の顔と同じ高さまで上げられた。
「なるほどな。目的は“疲労”か」
そうだ。無力の魔王は人を超えている。
人の文明を上回り、膂力を上回り、知性ははるかに凌駕し、銃弾はおろか爆弾に破片、列車砲に電磁砲核爆に神の杖その全ては効きすらしない。
人類に対する絶対的な超越。
つまり、奴から人類への対策は不要である。
だが、人を土台にしている。
別に疲労しないなんて誰も言っていない。
勿論、人間を超える集中力を持つわけだが
時間による消耗、慣れない回避による消耗、激昂による精神的摩耗
だがそれも
「何度も蘇るとしても耐久自体は人間。さて、化生め。水に沈めてやる」
魔王は移動を始めた。
いつのまにかモリビトは姿を消している。
死んでしまったか?
轟音
握力が緩み私は投げ出される。
槍だ。
投げただけではそんな威力にはならないような破壊力。
精霊の力?
確かに生きていたらしい。
舟墓の町で確かにみた。
普及している弩よりはるかに巨大な弓の矢、というか羽がない。槍だ。
モリビトの仕業だったわけだ。
魔王の首に突き刺さりたたらを踏む。
二射目
頭蓋を貫いた。
振り返れば、巨大な弓をしっかりと構えている。
どうやらちゃんと血液は塗っていたらしい。
いや、むしろ。魔王を殺すため効率よくそして威力を持って送り込むための射出装置、どちらかと言うと投槍器だったのだろう。
後、2本の槍が足のそばに立っているのが見える。
使い方も知らないし、当然原理も、威力も知らない。だが、効果があった。おそらくは貫通力と威力の為に大型化した弓、それに伴って槍を矢のかわりに番えているのだ。
魔王の肉体が足をたわめ始めてる。
気づいた時には、行動を開始していた。
膝を踏み台にし、飛び込む。
飛び出した場所で短剣を突き刺しさらに上る。
それだけでは頭部にはたどり着けない。
足の指の間を緩めて、再生させる。
すると指を通して細長い刃物が現れた。
再生能力を利用した格納
そのまま突き刺し、引き抜いては登る
その不安定な足場に、はたき落とされる。
はたき落とされかけるが、右腕の短剣がぬるりと現れて掴み取る。
肉体の中に再生しないようにして保存するならばこのくらいがせいぜいだ。
だが、この魔王の太い首は断てない。
だから、胸に突き刺し、登るのに使った。
生えていた槍を掴んだ。
そして下と上、胸と首その両方を押した。
全身を使い引きちぎれろと
肉体に空いた2本の棒を動かした事で然るに、抉れる。
だが、決定打にはならない。
それでも大きくひるみ身動ぎした。
そのまま噛みつきが肉と骨を噛み潰し、めちゃくちゃに振り回された両腕が首や骨盤を粉砕する。
だが、しかし、確かに見た。
「爆ぜよ」
3射目が、眼球ごと頭蓋骨を貫くところを
巨躯の怪物がふわりと揺れ、反対に踏ん張ろうと揺れて、そして倒れるところを




