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 甘酸っぱい香りで目を覚ますと、目の前にフランソワ様が私を見下ろすように立っていた。

 ルーが呼びに行っている間に眠ってしまっていたようだ。

 

 私は慌てて起きあがろうとしたが、フランソワ様に押し戻されてしまった。


「エル、お食事は食べられていますか?」


 エル呼びをされる時は友人として接してくれる時。

 私は顔を横に振ると、


「固形物は何も・・スープも濃い味のもの、匂いのキツイものは・・」

「ではこちらは?」


  そう言って手渡されたのはオレンジやグレープフルーツなど、柑橘系のフルーツだった。


 起きた時に嗅いだのはフルーツの香りだったのか?


 起き上がりお皿を受け取る。

 吐いたら嫌だな・・と思いながらもフランからのお見舞いだ。一切れ口に運ぶと


「美味しい・・」


 口にする物すべてを吐き戻し、正直口に入れるのが怖かったのにフルーツが美味しいと感じた。


「食べ過ぎるとまた吐いてしまうから、少しずつ口にしてね?」

「どうして・・?」


 私が疑問に問うと


「私も同じ症状になったからよ?一年前に」


 そう言って笑顔で私の手を握る。

 一年前と言えば・・


「それは無いと何度も申しておりますよ?ルーの身体の事をご存知でしょう?」


 そう、ちょうど一年前。

 フランは懐妊した。

 悪阻がひどく、王宮医師や専属料理人が食べる事が出来なくなった妃殿下のため、あの手この手を使ったとルーから聞いていた。


 確かに思い描かなかった訳ではない。

 でもその度に月のものがあり、心が砕かれた。

 だから期待しない事にした。


 後継者はカイかギルの子を養子にすれば良い。と


 幸いにも義弟とも義妹とも良い関係を築けている。

頭を下げれば頷いてくれるだろう。



 それでも、女として産まれたからには一度くらいはお腹に子供を入れたいと・・

 愛する人の子を産み育てたいと願ってしまう。

 義務ではなく、純粋に。


 「そう言えば、カイディアン卿がいまこちらに向かっているそうよ」

「・・えっ?」


 突然先ほどとは関係ない話題を持ち出して来たフランソワ様。

 私も聞いていない話題だった事で、思わず間の抜けた返事をしてしまった。

 もう直ぐこちらに戻って来る。とは、ルーから聞いていたけれど、まさかもうこちらの屋敷に向かっているとは・・


「ハイル子爵も一緒だと聞いたわ」

「シェリーちゃんも?」


 フランソワ様は頷いた。


「だからね、子供とは関係なく一度だけでも私の信頼する医師に診てもらって欲しいの」


 お願い。


 一国の王太子妃様にそこまで言われてしまっては、一臣下としては断る事も出来ず頷いた。

 三人が帰って来る。

 それだけでもう、元気が出て来た気がする。


 フランソワ様が連れて来たのはこの国ではまだ珍しい女性の医師だった。


「初めましてクーカス伯爵夫人。妃殿下専属医師のケイと申します」

「初めまして、エルディアナ・クーカスと申します。あの、よろしくお願いします」


 挨拶を交わした後、ケイ先生からの質問に答えた。ケイ先生の質問は多く、今まで診て頂いた医師とは全く違っていた。

 相手が女性だった事で私も安心したのか、ケイ先生の診察をいつの間にか受け入れていた。





 「兄上!何があったんだ?」


 屋敷に入るなり叫んできたのは一番下の弟のギルバイスだった。


「数ヶ月ぶりに会ったのに、最初の言葉がそれかい?ギル!」


 私が王太子殿下の専属医師と応接室でエルの診察を待っている時に、ギルが飛び込んできた。

 さすがのギルも王太子殿下の専属医師の顔を見て驚いた様で、慌てて臣下の礼をとった。


「侍医殿並びに兄上。ギルバイス・クーカスただいま帰りました」

「ああお帰り、ギル。まずは汚れを落としておいで。用意は出来ているから。その後で話すよ」


 ギルは素直に頷き、メイドと共に応接室から出て行った。

 ギルの事だからエルを心配してそのまま駆けて来たのだろう。


「ギルの馬にも栄養ある物を」


 扉の前で控えていた従僕に声を掛けた。

 明日にはカイとシェリーも到着するだろう。


「エルが素直に診察を受けていてくれると良いけれど・・」

「大丈夫ですよ、クーカス卿。ケイは我が弟子唯一の女性医師で、女性特定の病気には特に詳しいですから」


 侍医殿の言葉に、私は黙って頷く事しか出来なかった。




とうとうクーカス兄弟が揃います。

エルの病の原因もハッキリするよていです!

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