6
会場の方から大歓声が聞こえてくる。はずなのに、私の耳には自分の心臓の鼓動しか聞こえてこない。
「突然こんな事を言って驚かれると思う。でも、自分の中で貴女以外の女性とは一緒に居るのも辛く・・」
「・・」
「イヤ、違うな。貴女と一緒だと居心地が良く、とても安心出来るんだ。それに・・!」
私はクーカス卿が話している途中で彼の手を握っていた。
その行為がはしたない!と言われるかも知れない。それでもなぜか彼に触れたいと思ってしまった。
彼は私の手を握り返し、片膝を付いた。
そして私を見上げると
「エルディアナ・フォッド侯爵令嬢。どうか私の手を取って欲しい。貴女の耳に入っているとは思うけれど、私に子が授かる可能性は低い。だからこそ、それ以上に貴女を愛すると誓います。」
クーカス卿は真っ直ぐ私の目を見て言葉を伝える。
私も彼の目を真っ直ぐ見つめる。
「エルディアナ嬢、どうか私の手を取って欲しい。」
私の手を握る彼の手が震えている。
きっと自身の身体の事を考え、後継の事を考え、そして私の事を考えただろう。
それでも私の手を離すことが出来ないと、そう思ってくれた事が嬉しかった。
「初めて貴方様を見かけた時から私、貴方様のことが気になっていましたの。最初はもちろん身体のことが心配で。でも、貴方様と過ごす時間がとても楽しく・・」
そう、私も貴方と一緒に居る時間がとても心地良くて、出来ることならずっとこの時間が続けば良いと思っていた。
「貴方様とずっと一緒にいたいです。ずっとずっと・・」
あまり表情が出ない娘と言われていた。
感情を出さないように躾られていたから、顔にも態度にも出さないように気をつけていた。
彼は立ち上がり胸元から取り出したハンカチで、そっと私の涙を拭いてくれた。
私は人前で泣いた事など無かったから驚いてしまう。
「ありがとう、エルディアナ。君の泣き顔は僕だけに見せてくれる?可愛すぎるから・・」
「そんな事を言うのは貴方様だけですよ?でも、貴方様と一緒に居たら私もいっぱい笑顔が出そうですわ」
泣いているのか?笑っているのか?
私たち二人は陛下の発表そっちのけで肩を寄せ合いながら、星が輝く夜空の下で先の未来の事をずっと話していた。
次の日、ベルージャ様と私は二人揃って殿下とフランソワ様の所へ挨拶へ行くと、二人はニマニマと笑っている。
二人して臣下の礼をとると、
「堅苦しい挨拶は要らないから、まずは座って」
と言われ二人掛けのソファーへと腰を下ろした。
「まずは王太子となられた事、誠におめでとう御座います。並びに御婚約も決まりました事嬉しく思っております。」
ベルージャ様と共に頭を下げると、
「ありがとう、君たちの姿は会場に無かったけどね」
「何でも私たち以外にも良い雰囲気のカップルがいたと聞きましたわ。」
ニマニマと微笑む二人が怖い・・
だが、昨夜の事を話すととても喜んでくれた。
「ベルージャは僕の片腕だから本当に嬉しい。」
「クーカス卿がエルディアナ様のお相手なら、お互い結婚してもお会い出来ますわね」
二人が私たちの事を喜んでくれて嬉しかった。
残るはお互いの両親に挨拶へ行くだけだ。
「フォッド侯爵は二人を祝福してくれると思うが・・
ベルージャ!もし君の父親が何か言ったら私の名を出せば良い!」
「宜しいのですか?」
「当たり前だ!先ほども言っただろ?お前は私に取って無くてはならないと」
殿下はそう言うと 保険だ! と封筒を渡して来た。
だが、私たちが思っていたよりも両親たちは喜んでくれて、私たちの結婚は殿下たちよりも少し早い冬の終わりに執り行われた。
二人の結婚はフランソワの気持ちを汲み取り、早めに行われたのです。
「王太子妃になったら自由が無くなるわ!その前に貴女の友人としてお式に出席したいわ!」と。
フランソワの可愛いワガママを聞いた王太子が、王家と公爵家しか使用出来ない教会に手を回した。
その事がクーカス伯爵夫妻を喜ばせ、すんなり結婚式を挙げられたのです。