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「エル?王太子妃殿下がお見舞いにおいでになっているけと、会えそうかい?」
眠りから覚めるとルーが声をかけて来た。
いつの間に寝ていたのだろう?
最近は特に眠気が強く気付くと寝ている事が多い。
相変わらず吐き気と眩暈も強く、ベッドから起き上がれる時間も少なくなっていた。
「フランソワ様が?少しの時間なら・・」
そう返事をすると、ルーは静かに部屋から出て行った。
フランソワ様は相変わらず私が懐妊したと思っているけれど・・
「そんなはず無いわ・・だって。」
そう言えば昔は体調を崩しているのはルーのが多かったわね・・
「クーカス卿?」
今日も妃教育の休憩時間に王太子専用の庭へ散歩に来ていた。
王太子専用の庭は、王太子妃専用の庭と違い花は少ない。
その代わり木がたくさん植えてあり、木陰で休むのが私の楽しみでもあった。
そんな庭の一番奥にある木の下で、苦しそうに息をしている一人の男性に声をかけた。
「ああ、また君か・・」
彼は私の方を見て、無理に微笑んだ。
私は周りに人がいない事を確認し、彼の側に駆け寄ると背中を上下にさする。
ここ数年前から手当てをしているのだ。
「こんな事で貴方様の痛みが無くなる訳ではありませんが、昔来ていた医者が誰にでも出来る治療と教えてくれまして・・」
「ああ、確かに楽になった気がするよ・・」
その言葉が嬉しくて、こうして会えば隠れて手当てをしている。
「そろそろ薬が効いてくるから・・」
早くこの場を離れた方が良い・・と、言われた気がした。
クーカス卿は鈍感だ!
なぜ私がここまでするのか気付かない。
もしかしたら気付いているのかも知れない。
それでも気付かないフリをしているとしたら・・
(ああ、私の方が気付いて欲しいと願っているのね)
自分の気持ちにハッキリと気付いた瞬間だった。
「ねぇフランソワ様、エルディアナ様。最近のクーカス様変わったと思いませんか?」
そう突然言い出したのはマネット様だった。
「クーカス様?どの辺りが変わられたと?」
「近衛にいる知り合いの話では、身体を鍛えにいらっしゃるのですって!それに、口調も優しくなられて」
気のせいか?フランソワ様がチラッと私を見たような・・
「何でも医師を変えられたそうよ?新しい医師が処方したお薬との相性が良かったらしく、発作も減ったと殿下も仰ってたわ」
「「えっ?殿下?」」
マネット様と声が被ってしまった。
クーカス様は何をどこまで殿下とお話されているのかしら?
もしかしたら先ほどフランソワ様が私を見たのも・・
でも確かにお薬を変えてから調子が良くなった!とは聞いていた。
そしてその医師を紹介したのも実はこの私だった。
[手当て]なる治療法を教えてくれた医師が、本格的にこの国に腰をおろしたい。と、我が屋敷に挨拶へ来た際にクーカス様の話をした。
クーカス様にもこの医師の話をして、お互いに会ってみたいと言われたため紹介したのだ。
(まさか今まで飲み続けていた薬が、逆に身体を悪くしていたなんて・・)
その事実を聞いた時のクーカス様はショックで顔が真っ青だった。
[それでも長年自分を診てくれた事は感謝しかない]
と、引退先まで紹介をしていた。
でも、新しい医師から告げられた一言に彼も私も息をする事を一瞬忘れてしまう程の衝撃を受けた。
「永年の間違った薬を飲み続けた作用で、卿は子種を失った可能性があります・・」
エルディアナは直接話を聞いていません。
診察後にお茶を運んだ際、扉を開けようとした時に聞こえてしまったのです。