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「エル?目覚めたかい?」
目を覚ますと心配そうに私を覗き込む夫のベルージャがいた。
「気分はどう?何か食べれそうかい?」
私はモソモソと起き上がると彼に手を伸ばす。
彼は私を確かめるように抱きしめ、軽く口付けすると抱き上げてソファーへと移動する。
いつからだったかしら?
私を軽々と抱き上げれるようになったのは・・
「今日は何か食べれそうかい?」
同じ質問を二回もした。
私はクスッと笑って、
「スープなら飲めそうだわ」
と答えた。
ルーは近くにいたキャスに声をかけるが、自分が取りに行くと言い出し廊下へと出て行ってしまった。
カイ達がサルーン国へ行ってから、急に体調が悪くなった。
行く少し前から変だったけれど、心配させたく無くて無理をした。
その無理がたたったのか?
あの日も王太子夫婦に呼び出され、ディナーを共にしようとベルージャにエスコートされ、椅子に腰掛けようとした瞬間・・急に目の前が真っ暗になりそのまま倒れてしまった。と、後になって王太子妃のフランソワ様に聞かされた。
フランソワ様とは公爵家と侯爵家の関係でしかも年も同じだからか?色々と比べられて来た。
フランソワ様の指示で二日程王城で泊まったが、王太子専属侍医の診断で帰宅の許可が降りた後ベルージャと屋敷へ帰宅した。
直ぐに体調も戻ると思ったのに、その日から寝込む事が増えてしまい、彼を不安にさせている。
「今日は暖かいわね・・」
「体調が良ければ少しお庭へ行かれますか?」
誰も居ないと思っていたから急に声がして驚いた。
振り返ると心配そうにしているキャスが扉の前で立っていた。
キャスは私の輿入れと同時に雇い入れたメイドだ。
私との相性も良かったので、ベルージャに頼んで専属にしてもらった準男爵令嬢だ。
「心配かけたわね・・」
本当に・・
涙声で聴き取りにくかったけれど、気持ちは伝わってきた。
その後、何種類ものスープを持って来たベルージャと一緒に朝食を済ませた私は、軽い部屋着に着替え庭へと足を向ける。
庭の東屋までベルージャにエスコートされながら、ゆっくり歩く。
色とりどりの花が咲き始めていて、暖かくなったんだなぁ〜と実感した。
「そう言えばギルから手紙が届いたよ!結婚したい人が出来たって。僕達にも会って貰いたい!って」
「そう!楽しみが増えたわ!ところでルー?私の容態のことは・・」
「言ってないよ!!言うと心配かけるからね・・」
本当は伝えたいのだろう、でも私の気持ちを優先してベルージャが一人で悩んでいる姿を見ると私も辛くなる。
私はベルージャを抱きしめると優しく頬に口づける。
実は王城の侍医に妊娠を疑われた。
「まだ早いから確かではありませんが・・」と。
でも、私たちは分かっている。
彼に子を成す力がない事を・・
その事を知ったのは、王太子妃が決まった日の夜会。
ジェネヴェクト殿下と一緒にいた彼を見た貴族が、影で話していたのを耳にした。
だからこそ、私の今の状態が何の病なのか分からない。
分からないから下手に薬も飲めない。
今日は調子良いがきっと明日からはまた、ベッドの中から起き上がれないのだと思う。
「エル・・愛してるよ」
今にでも泣きそうな顔で伝えてくる。
「私も愛しているわ。ベルージャ・・」
私はルーに抱きしめられたまま、意識を失った・・