第一話 「終焉が渦巻く異世界」
補足の内容が人によっては不快なものになっています。読み飛ばしてもらって問題ないです。
ご不便をおかけして申し訳ありません。
末期がんで余命わずかになり静かに余生を過ごしていたら暴漢に襲われ死んだ俺は転生した。
それも異世界に。
俺が転生した場所は小さな村の普通の家庭だった。向こうのソファでいちゃついてるのが
俺の母親である金髪のデカパイ美女のエレナ・アルヴァンと俺の父親である腹立つイケメン茶髪のライオネル・アルヴァンだ。姓が同じなのは結婚しているからだと思うかもしれないが俺の転生した村はアルヴァン村という名前でそこに住む者たちの姓はアルヴァンで統一されているらしい。
そして俺の名前だが、『セリオス・アルヴァン』だ。カッコいいだろう。こればかりはライオネルのセンスを評価せざるを得ない。
最初こそ言葉がわからないので心配していたが1年も過ごしてみると大体分かってくるようになる。赤ん坊だから飲み込みや吸収が早いのかな。
まだ手足が短く身長も低いので少し前まで自分の足で歩き自分の手で何かをしていた俺からすれば少し生活し辛いものだ。ご飯は食べさせてもらわないとだし、水浴びも一人ではままならない。部屋からも一人で出ることはできない。
しかし美女の母乳を飲めるので全て帳消しだ。母親だからなのか俺のまだかわいいアソコには反応がないが。
暇な時間が多いのが玉に瑕だが前世と比べれば最高の生活だ。朝は日差しに優しく起こされ、美女の二種類のドリンクバーを堪能しまた寝て飲んで寝て…性を抜いた三大欲求をループしている。
体は赤ん坊だからすごく眠たくなるので一日15時間は寝ている気がする。
前世の俺は13時間睡眠をキメて俺が日本で1番寝てるんじゃないかなんて思ってたがたかが1歳の赤ん坊にそれを越されるとは驚きだ。まあ自称日本一睡眠時間が長いやつの意識が入ったすごく良く寝られる体なんだ。当然と言えば当然か。
夜はエレナとライオネルの本の読み聞かせがある。何回も読み聞かされているので内容には飽きているがこれのおかげで言語の理解が早まったことは事実なので我慢している。
「〜は海の城でもらった宝箱を開けました。すると中からは煙がたくさんでてきてお爺さんになってしまいました。〜」
浦島○太郎に酷似している。もしかして俺以外の日本出身のやつが俺の前に転生してこの世界に残したのかもしれない。
〜10分後〜
やっと読み聞かせは終わり。俺はおねんねの時間だ。
「セリ、今日はもうおねんねの時間だ。パパたちは少しお仕事があるから先に寝ておくんだぞ」
「セリちゃん。明日はママが読んであげるからね?」
「うーあーあー」
言語は理解しているがまだ喋ることができない。何かしらの発達が足りないのだろう。
エレナ達が寝室の扉を閉め第二の寝室に行った。
そう。今から始まるのは俺の兄弟作りだ。俺から抜いた三大欲求の性欲は俺の両親に還元されたのかな?
あ?何を言っているのか分からない?まあ耳を澄ましとけよ。この睡眠用ASMRを…
「あっあん!だめ!」
「まだまだ…!いくぞ!」
そーらギシギシ聞こえてきた。第二の寝室は俺のいる寝室の真上の2階にあるのでよーく聞こえてくる。
いいねいいね。これが1日の楽しみの一つでもあるんだよ…これを聴きながら眠りにつくんだ。
〜1年の月日が流れた〜
俺は2歳になった。
俺は言葉を喋ることが出来るようになった。
「お母さんぼくお腹すいたー」
「もーさっきお昼ご飯食べたばかりでしょセリちゃん」
「んふふーうそだよー」
こんな認知症のご老人にするような対応を受けることもできるようになった。ちなみにエレナ達は三食しっかり食わせてお菓子もくれるので実際に腹を空かせたことはない。
「エレナー!俺は本当に腹減ったぞー!!」
「もーあなたまで!!」
うんうん。夫婦円満だ。
「エレナ…美味しそうだな…」
「もう…セリちゃんが起きてるのよ?まだだーめ」
「ちぇっ」
今まで行為の音を聞き続けたことにより気付いたことだがライオネルは性豪であり絶倫だ。一度シてしまえば2時間はギシギシと天井が悲鳴を上げる。何度天井が崩れてきて潰されるんじゃないかと思ったことか。
2歳になると手足が発達しスプーンやフォークを持てるようになった。そして1日8回は飲んでいたエレナの濃いめのカルピスは1日朝昼晩の食後の3回になった。離乳食が食べられるようになったからだ。おそらく人参のペーストとおそらくパンのペーストとおそらく豆汁が最近の主食だ。
1歳の頃に比べて睡眠をそこまで必要としなくなってきたので空いた時間は本を読んでいる。早いうちから知識はつけておいたほうが良いしな。
自分で歩けるようにもなったから部屋から出るくらいはできるようになった。初めて入ったトイレは今までオムツ?にしていたので知らなかったがぼっとん式でめちゃくちゃ臭かったのを覚えている。エレナのブツが臭いわけないからライオネルのせいだな。おのれライオネルめ!!
〜8年の月日が流れた〜
俺は10歳になった。
俺は1つ不満を募らせていた。エレナ達は俺を外に出さないのだ。あるかは知らんが庭すらも。俺が何度外に出てみたいと言っても
「セリちゃんがもう少し大きくなったらね」
とか
「セリはまだちっちゃいんだ。お外は危ないんだぞ」
過保護にしても行き過ぎている。俺は10歳にして決心した。精神年齢は39歳だが。
今日俺は外に出る。もちろんエレナやライオネルの目を盗んでな。
外に出るのが好きなわけではない。俺のPTSDは前世から引き継がれてきてたまにあの頃を思い出しては発作を起こす。しかし俺は気になる。あの行為の音をいまだ隠そうとしない両親が必死こいて隠す"何か"を。というか俺はもう10歳。お外で走ってたくさん遊びたい年頃なのだよ。
〜夜〜
エレナとライオネルは寝た。今日は特別アレの時間が長かったしそう簡単には起きないだろう。
よし行くぞ。外の世界を見に。
俺は足音を立てないようにジャパニーズ抜き足差し足を駆使し玄関扉まで無音でたどり着いた。
扉を開ける…
キイィ…ここにきて初めて物音が鳴り焦ったがエレナ達が起きてくる気配はない。開けられたのは狭い隙間ができるくらいだったが今のこの体ならこの隙間を通ることができる。
俺は体を横向きにし顎を引いてぶつからないように隙間を通った。
俺は外の世界に出た。だがそんな俺を迎え入れたのは暗闇だった。まあそりゃそうか深夜だしな。
何も見えない。俺が何とか外の景色を認識しようと家の敷居を跨いだ瞬間だった。
「…!!!っ!」
強烈な何かが俺の体を駆け巡り、全身が痺れ、その場に倒れる。
バタンッ!!
そんなデカい音を寝耳に聞いたライオネルは飛び起きた。
「なんだ!?」
ライオネルはまだ起きていないエレナを見て安心の色を浮かべると同時俺への心配をする。
「セリ、パパが守ってやるからな。」
そんなことを呟き短剣を手に持ちライオネルは寝室を飛び出して1階に降りる。そして玄関の外で倒れる俺を目撃する。
「セリ!?セリオス!どうした!?」
ライオネル一瞬で俺を家の中に入れ扉を閉める。
すると俺はすぐに目を覚ます。
「う…お父さん、?」
ライオネルは俺の無事が分かり酷く安堵した表情を見せて次に厳しい表情に変えると俺に言う
「セリオス…まさか外に出たのか?」
「う…うん。だってお母さんやお父さんがお外に出してくれないから気になったんだ」
「ああ。そうだったのか…」
ライオネルの様子が明らかにおかしい。いつもの調子の良さそうな目はうつろな物になり額には汗が滲んでいる。
「セリオス。お外はな危険なんだ。家の中は結界が貼ってあるから大丈夫なんだ。」
「お外は何で危ないんですか?」
「そ…それは今日ちゃんとお部屋でおねんねするなら、明日話してやる」
俺は静かに頷き、ライオネルに肩車されてベッドに戻った。ライオネルは俺をベッドまで運ぶと何も言わずに部屋を出て行った。
あのいつも陽気なライオネルが明らかにおかしかった。俺やらかしちゃったのかな。明日捨てられてしまうのだろうか。
それにしても収穫はあった。ライオネルのこの発言だ
「〜家の中は結界が貼ってある〜」
結界!!魔術だ!はわわ!!確かに家の敷居を跨いだ瞬間俺は意識を失った。結界ってのは本当なんだろう。魔術か…この世界に来てからそれらしいものは一度も見てこなかったからてっきりこの異世界は魔術は存在しないのかと思っていたが違った。あるんだ。魔術。
もし俺が使うなら何魔術がいいかな。火魔術でファイアーボールや水魔術でウォーターボールは鉄板だし絶対使いたい。回復魔術とかも使ってみたいな。切断された腕が再生…カッコいい!!
というか魔術があるなら剣術もあるんじゃないか!?アルヴァン村に伝わる魔剣とか…カッケェ!!襲ってきた敵を両断!!こうやって妄想してると止まらない。目が冴えてくるぜ…いや眠いわ。5歳だしなぁ…寝るか。明日ライオネルが外の世界を教えてくれるらしいし…
〜翌日〜
俺は昨日夜更かししたせいかいつもの日の出と同時に起きることは叶わず昼まで寝てしまった。
「ん…んん!」
体を軽く伸ばすと俺は足早にベットから降りライオネル達がいる部屋へと向かった。
「お父さん!今日はお外の世界について教えてくれるんでしょ?」
俺は興奮気味に扉を蹴破るように開けて部屋に突入した。
「え…?」
だがそこにはライオネルとエレナ。そして生まれて一度も見たことがなかった客人がソファに座っていた。見たところ老人で白い顎鬚をクルクルしていじっており仙人を想像するのが1番近いかもしれない。
「セリオス…外の話をしてやる。そこに座りなさい。」
「は、はい。」
え、なにこれガチ説教の雰囲気じゃん!ていうかあのジジイは誰だ?俺もしかしてあのジジイにとって喰われるのか?そうだ!エレナは?エレナならいつも通り優しい眼差しをくれるはずだ。
俺は期待してエレナの顔を見る。エレナはそれに気づくといつも通り優しい眼差しをくれた。
「エレちゃん別にお説教じゃないからそんなに緊張しなくて良いのよ。」
「う、うん。」
一呼吸おくとライオネルが話し始める。
「セリオス、まず外の世界の話から始める。」
「え、あのそちらの方は?」
俺は若干怖いと思っているのでとりあえずじいさんの素性を知りたかった。
「ああ、すまんな。この爺さんは…」
「よい、ライオネル自己紹介くらい自分でする。」
ライオネルが爺さんの自己紹介をする前に爺さんが手あげそれを止める。そしてふーっと深呼吸をつくと自己紹介をはじめる。
「セリオスよ、ワシの名はガルザス・アルヴァン。この村の"天識の瞳"を務める者じゃ」
「天識の瞳…?」
「ふぉっふぉっふぉまあ知らぬのも当然か。簡単に言うとお前さんの特殊能力を識別する特別な眼を持つ者じゃ」
「え!?特殊能力?僕にそんなものがあるんですか?」
「落ち着きなさい。一定の年齢になると皆一度識別しておくんだ。"救世主"を見つけるために」
救世主!!この爺さんサンタみたいな笑い方するからどっかから迷い込んだただの爺さんだと思ったがそんなすごい人だったのか!よっしゃ俺が救世主になってやるぜ!!さあ識別してみな!
「なにやらよほど興奮しとるようじゃが識別するのは話の後じゃ。」
「あっはいごめんなさいすみません。」
俺は顔を真っ赤にし早口で謝り、座り直した。
話が終わるのを待っていたライオネルの目を再び見るとライオネルが話をしはじめる。
「セリオス、外の世界はなもう、ないんだ。」
「え?」
ない?どういうことだ?じゃあこの爺さんはどっから湧いたんだ?」
「ああすまん!言い方が悪かったな。詳しく話すとこの世界は500年前に魔人戦争と呼ばれる人と魔物の大規模な戦争が起こったんだ。魔神クラスの魔物がうじゃうじゃいた。たが人類は魔物から模倣した魔術や新しく人類が編み出した強力な魔術を使い最終的に魔物達に勝利したんだ。」
「やった!と言いたいところですけど、それでなんで外の世界がなくなるんですか?」
「ああ。それはな魔人戦争終結から2ヶ月経ったある日急に空が割れてそこから終焉の魔神・アズラハルが降臨したんだ。そして世界に終焉をばら撒き世界の半分が終焉に飲み込まれた。そしてこのアルヴァン村はその終焉の中にあるんだ。だからこの村から出ることはできないんだ。」
「なんで…なんでそんなヤバいやつが急に出てくるんですか!?」
「詳しくは俺も知らんが、生き残った魔物達が召喚したとしか考えられんな。幸いその魔物達が瀕死だったおかげかアズラハルが世界に顕現したのは1分だったんだ。そのたった1分で世界の半分を飲み込んだんだがな」
とんでもねぇ…魔神…?終焉…?昨日魔術の存在を知った俺には衝撃すぎる単語の数々だ。1分で世界を飲み込んだとか…想像したくても出来ねぇな。というかなんで飲み込まれた中にこの村はあるんだ?聞いてみよう。
「アルヴァン村はなんで…そんな最悪の中に存在できるんですか?」
「それはな、この村は初代アルヴァン村村長が貼った結界の中にあるんだ。だがその結界も年々弱まってきてお前のような子供は外に出るだけで死んじまう。お前が今生きてるのは奇跡なんだ。家の中は更に強い結界が貼ってあるからまだ大丈夫。だから今まだ外に出さなかったんだ。説明もなしじゃ気になっちまうよな。ごめんなセリオス。」
「結界…なんで世界の半分を飲み込んだ終焉に対抗できる結界を初代村長は作れたんですか?」
「初代村長,ファンリス・アルヴァンは魔人戦争で全ての攻撃を跳ね返すほどの結界を貼り続けた大魔術師だからだ。人類側の勝利には不可欠の人だった。」
なるほど…大魔術師。だから結界を張って死後の500年もの間この村を守り続けているのか。いやじゃあまた謎が浮かんでくる。
「大魔術師なら、なんでこんなヤバいところに村を作ったんですか?大魔術師なら移動くらい出来なかったんですか?」
「それは…分からない。ファンリスの伝承はこの村に大結界を張りそこに残した村人達に家を守るための結界を貼る魔法陣を遺したところで終わっているんだ。」
「……結界を張った後、亡くなられたのですか?」
「分からない。だが伝承が止まってる以上そういうことなんだろう。俺は終焉の一撃でも貰って瀕死になって倒れた終焉に飲み込まれるはずだった場所に結界を張って死んだんじゃねぇかと思ってる。」
ライオネルの発言はファンリスさんには失礼なものだが辻褄は合う。終焉が顕現してその一撃を受けたファンリスは瀕死になった。そして倒れた場所には終焉に飲み込まれる寸前の人達。それを守って、死んだ。これなら…辻褄が合ってしまう。
これが本当だとしたらファンリスさん、いやファンリス様は大英雄だ。死に際に貼った結界が死後数百年経っても未だ俺たちを守っている。そして今その結界が弱まっているのか…いくら大魔術師といえど経年劣化は免れないわけか。
するとずっと黙っていたエレナが口を開く
「そういえばセリちゃん昨日家の外に出たんでしょ?本当になんともないの?治癒魔術を一応かけておくからこっちにおいで。」
エレナが手招きする。というかやっぱあるのか回復魔術。こっちでは治癒魔術と言うらしいが。
俺はエレナの隣に座るとエレナが俺に手をかざし、詠唱を始める。
「癒しの光よ、僅かな輝きで傷を閉ざせ」
エレナの手から黄緑色の気持ちのいい優しい光が発された。
「ルミナ・サルヴァ!」
次の瞬間俺の全身を僅かな全能感が駆け巡り、先の話で多少疲れていた俺の体を癒した。
「母さんありがとう。体の疲れが取れた気がするよ!」
「それはよかった。怪我をしたらすぐ母さんに言うのよ?」
「うん!」
すごいな治癒魔術。キメたことはないがアレをキメたような感覚に近い気がした。一瞬だけ全身を駆け巡った全能感。俺がどこも怪我してなかったからそこに還元されたのだろうか。
っと忘れていたな、話も終わったしガルザスに俺の特殊能力を見てもらう時間だ。
「ガルザスさん、外の世界の話も終わったし、そろそろ…」
するとガルザスは待ってましたと言わんばかりの顔をしてソファから立ち上がる。
「よっこいしょ…そうじゃな。ではセリオス、お前さんの特殊能力を識別する」
俺の特殊能力…やっぱあの終焉に打ち勝つようなやつだったりするのだろうか。異世界に転生したんだからなんかしらそういうのは持っているだろ。楽しみだ。
ガルザスはエレナの治癒魔術の時と同じく俺に手をかざし今まで彫りが深すぎて見えなかった眼が見え…俺の目を凝視する。
すごい綺麗な目だなダイヤの宝石みたいにキラキラしてる…こんなヨボヨボの爺さんについてるとは思えねぇ…失礼なことをいうと猿に鳥帽子の体現だな。
しばらくするとガルザスの眼が少し小さくなった。
「これは……!」
おっいい反応じゃねぇかやっぱ俺救世主だったのか??
補足
アルヴァン村の姓がアルヴァンで統一されているのは罪を気づかないようにするためです。アルヴァン村は小さな集落程度の大きさしかないので人口も少ないです。
そうなるといつか身内同士でのアレが起こってしまう可能性があると踏んだ何代目かの村長は姓をアルヴァンで統一しました。いまのところアレによる弊害はなさそうですね。
ライオネルはこのことに気づいていますが流石に5歳の息子に話そうとは思わなかったわけです。
まあ主人公の中には精神年齢34歳のおっさんが入っているので村の現状を知れば察するかもしれません。