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プロローグ

俺は29歳病院住みの童貞無職だ。

だが皆が想像するデブニートとは違う。俺は1ヶ月前ステージ4の末期がんを患い、余命3ヶ月と宣告されそのストレスと薬の副作用のせいでデブニートからガリニートへランクアップしたのだ。わかりやすく頬がこけ、あの見事な三段腹も消え失せ骨が浮き出て見えるようになった。

医者から告げられた余命はあと2ヶ月あるが1週間ほど前から体調が急激に悪くなることが続いており、もうそんなにも生きながらえることが出来ないような気がしている。

おそらくこれは10年以上親の脛を齧り続け何もしてこなかった俺への天罰なのだろう。

俺は昔から無駄に自尊心が高く驕り高ぶっていた。

小学生の頃は自分は周りとは違う特別な存在なのだと思い込み周りを遠ざけ孤立した。俺は勉強や運動その他諸々人並み以上に出来たのでそれが自尊心の後押しになっていたのだろう。


だが中学生になり俺は入学祝いにおばあちゃんからパソコンを買ってもらった。それが俺の人生を捻じ曲げるとも知らずに。俺が小学生の頃勉強が出来た理由は放課後遊ぶ友達もおらず暇なので勉強をしていたからだ運動もその他も同じ理由。


だがパソコンがその全てを塗り替えた。今までインターネットの世界に触れてこなかった俺は見事にネトゲやユーチューブにどハマりし学校から帰ってはネットに入り浸った。俺に精が通ったのもその頃だった。

ネットに学校以外の時間全てを捧げた俺の成績はみるみる落ちていき、通知表は2と1のオンパレードとなり成長期に寝なかったことで身長も満足に伸びず160前半だった。


そんなことを続けていると中1の10月あたりから学校にも行かなくなりFPSゲームを一日中やっていた。

親はまだ俺が優秀なままだと思っており、俺がアジア一位になるからと言うと馬鹿の一つ覚えのように金を差し出してきた。


中3になると自堕落な生活を続けたことにより体重が80キロになり、163センチ80キロのいかにもな不登校中学生が完成した。


修学旅行には一応行った。そこで俺は同じ班だった170センチの女子と183センチの男子に挟まれ自尊心を踏み躙られ激しい劣等感に苛まれた。あれは今考えても屈辱的で当時の俺には耐えられなかった。耐えられなくなった俺は班から一人抜け出しアニメイトに行くという蛮行を行い先生が東京中を大捜索するという大事件を引き起こした。

そんな問題を起こしたので俺は3泊2日の旅行を1日で日帰りさせられた。

だが俺はそんなバカなことをしでかしたのにまだ俺は周りとは違う特別な存在なんだという勘違いをしていた。

中学卒業後俺は通信制高校に進学した。だがそこで事件は起きた。俺の人生を決定的に変える出来事が…

俺の通っていた通信制高校には俺のような不登校で勉強も運動も出来ないやつが多くいる。まあ一般的だ。

だがその中に中学で問題を起こしまくったヤンキー集団がいた。そいつらは中学で暴走族となり先生をリンチしたり女子生徒に手を出したりしていた地元でも有名なヤンキー集団だった。

通信制高校にも登校日というものがありその日は必ず出席しなければならない。俺はその日行ったら1万やると親に言われ渋々荷物をまとめ高校に行った。


俺は高校前に着くと足を止めた。校門にはバイクが何台も止まっており校門を塞いでいた。周りを見てみると俺の同級生らしき人達が困った顔をしていた。そこで俺は俺が一言言ってどかせてやろうと考えた。バカだ。しかしその時の俺はまだ自分が特別な存在だと思い込んでいた。

そして俺はデカい声で言った。


「すみませーん!通りたいのでどいてくれませんかー?」


まともなやつならこれでどいただろう。俺も見下しているとはいえ初対面の奴らに高圧的に出るほどクズじゃない。しかし俺が相手取ったのは真性のクズだった。

そこからは思い出したくない。俺の自尊心やアイデンティティは全て踏み折られた。高校生時代の記憶はここで終わっている。


引きこもった俺はちゃんとプロニートの道を歩んだ。

毎日ネトゲ、アニメ、漫画、そして保健体育の実技の予習をした。

成人式にはもちろん行かなかったし同窓会にも行かなかった。(そもそも誘いなど来ていない)

俺は高校での一件でPTSDになり家族以外の人と関われなくなり二十歳を迎えても親は就職しろなんて言わなかった。


そして何もせず13年間ニートを続け今その代償として病床に臥せっている。もう毎日明日には死ぬと思っている。死ぬと思って就寝し、生還の喜びを感じながら起床する。いつ死神が俺の命を刈り取りに来てもおかしくない。まるで死刑囚のような心境だ。


こんなことになるならもっとちゃんと人生を歩むべきだった。確かに辛いことはあったしあの一件は俺の心に深く傷を刻みまだ残っている。

それを言い訳にせず頑張れば良かった。もっとちゃんとした生活をしていればこんな早死にする羽目にはならなかったかもしれない。もっと見た目に気を遣えば彼女だって出来たかもしれないし童貞だって卒業出来たかもしれない。

死期を悟ったら最期に女襲って童貞卒業すれば良いなんて昔は思っていた。だが実際のところ死を目前にすれば人間は天国に行くため善行を積み地獄には行きたくないので悪行をしなくなる。俺もそうだった。天国と地獄の概念は確かに人間の自制心に働きかけていたのだ。


病院にはパソコンを持ち込むことが出来なかったのでここ1ヶ月は異世界転生ものの小説を読み漁っている。もう少しで死ぬしあまり楽しみは作りたくないと思っていたが異世界転生ものの小説は面白かった。俺みたいなキモオタが成り上がっていく姿がとても輝かしかった。俺も死んだ後異世界転生したら可愛い幼馴染を作りたいもんだ…

今日はもう遅いしあと五話読んだら寝よう…明日も生きてますように。


〜翌日〜


よし。生きてる。神様ありがとうございます。

ここ最近の起床時の習慣だ。神への感謝。これで天国に行けるなんて思っちゃいないが地獄には落とされないと思っている。

今日は体調も良いし良い日だ。窓から入ってくる朝日が気持ちいい。家ではカーテンは閉め切っていて明かりは一日中点けていたパソコンのみだった。だが病院は朝になると看護師さんが勝手にカーテンを開け、俺を朝日で叩き起こしてくる。最初こそ苦痛でたまらなかったが今はこの時間が好きだ。自然の光がこんなにも気持ちいいともっと早く気づいておきたかったな。


朝飯を食い終わった俺はいつも通り異世界転生小説を読んでいた。この静かな病室で日の光に照らされながら読む小説がいいのだ。至福のひとときというやつだな。ポテチとコーラーが欲しいところだが今はない。というかそれらを食うと短い余命がさらに縮まった気がしてきてそもそも食う気にならない。


「俺もやり直してぇな…」


そんな言葉が俺の口から溢れた。仕方のないことなのだ。異世界転生の主人公は大体前世は俺のようなクズのニートであり、死んで異世界に行って成り上がる。同じ立場の俺からすれば酷く眩しく羨ましかった。俺も異世界転生すれば…今度は他人を見下したりしないしもっと、もっと…クソ…


「死にたくねぇよ…」


余命はあと2ヶ月。いつ死んでもおかしくはないのだが。そんなことを考えているといつも涙がとめどなく溢れ、俺の遺伝子で黄ばんだベッドのシーツにボタボタと落ちて染みる…

ここにあの高校のヤンキー達がいたらキモオタエキスなんて言うのだろうな。あそこからやり直したら俺はどうなるのだろうか下手に出れば意外にもヤンキーに気に入られたかもしれないし他の連中と同じく校門の前に立ち尽くすかもしれない。もっとやり方があったはずだ。

俺の変な自尊心がなければ…人を見下していなければ…クソクソクソッタレ…


「ん?」


俺がキモオタエキスを流しながら鑑賞に浸っていると、いつも静かなはずの院内が酷く騒がしい。

なんだ?言い争う声が聞こえる?悲鳴も聞こえる。

前の俺ならすぐに駆けつけて助けてやろうなんて考えたかもしれないが今は違う。できるだけああいうのには関わりを持ちたくない。関わりを持った分だけ後悔したのだから。


「やめてください!!誰か助けて!」


「誰か警察を!!」


おかしい。明らかに言い争いなどではない。何者かが病院を襲撃したのか?そんな甘っちょろい考えは次の瞬間消え失せた。


「キャアァァ!」


そんな声と共に俺の病室の扉の前で何かが倒れる音がして扉の下から血が染み出てくる。

おいおいなんかのドッキリか?そうだよなそうであってくれよ…

そんな儚い希望は潰え、俺の病室の扉が開く。

扉が開くと全身黒の服装で覆面を被っているといういかにもな感じのやつが血のついた日本刀を持って病室に入ってくる。


「あ…え…やめ…」


俺は声がうまく出なくなってしまった。動悸は荒くなり脂汗が額を駆け巡る。腰は抜けたし足は震えている。


「……」


覆面は何も言わずに日本刀を振り上げた。


「あ、あ、あぁぁぁ!!!」


俺は自分の命が死神に刈り取られる瞬間でさえ動くことが出来なかった。

冷たい銀線が俺の痩せ細った腹を切り裂きそこからは赤いキモオタ汁がが流れ出て体温が抜けていった…


「が…ば…」


俺は声も上げられずベットから崩れ落ちた。

覆面は俺の無様を確認すると病室を出ていった。


「クソ…が。死ぬ…のか、?」


俺は一人孤独で地べたに這い、流れ出る血を必死に止めていた。デブのままだったら脂肪が俺の防刃チョッキになってくれたのだろうか。しかし今の俺は骨が浮き出るガリで覆面の一刀で内蔵まで斬り裂かれた。


こんなのが最期なのか…?末期がんを患って余生を静かに過ごしていたら急に斬られ一人孤独に死ぬ…


「嫌だ…死にたく、ねぇよ。神様あんまりじゃねぇか」


10年以上の怠惰が呼んだ代償だとしても重すぎやしないか。生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。ああああああぁぁぁぁぁ…!!


視界が段々と狭くなってきている。先程まであった痛みはもう感じなくなりその代わりにとんでもなく寒い。走馬灯なんてのは…ないのか。まあ振り返ってもいい思い出などないのだが。


俺の視界は完全に無くなった。死んだのか。人が死んでも聴覚はしばらく残り続けるというがあれは本当だった。今誰かの声が聞こえる。何を言っているのかは分からないのだが。


「ᚠᛖᛚᚴ ᛋᛗᛁᛚᛖᛋᛋ!ᚠᛖᛚᚴ ᛋᛗᛁᛚᛖᛋᛋ!!」


はは…何言ってんだか死んでみると意外に落ち着いてるもんだな。


「ᚠᛖᛚᚴ ᛋᛗᛁᛚᛖᛋᛋ ᚠᛖᛚᚴ ᛋᛗᛁᛚᛖᛋᛋ!!!」


あ?なんだ?光ってる?うわっ!眩し!!

感覚を取り戻した俺が目を開けてみると、そこには金髪の美女がいた。

うお…!パイがデケェ…いやそもそもこの女デカすぎないか?俺を覗き込んでる?俺首だけにでもされちまったのか…?

すると女が声をかけ後ろから茶髪の男が来る

うわ…俺をいじめてきそうな感じのやつだ近づいてくんじゃねぇよ。

なんだよこいつやめろやめろ何してんだ。は?俺を片手で持ってるだと?え?あ?うわぁぁぁ!!

男は俺にキスしやがった。クソ!ファーストがDQN男だと!?許せねぇ…殴ってやるぜ。みてろ俺の部屋で八極拳の動画を見て鍛えた掌底を…


「うあーあーー!」


俺は気合いを出すために掛け声をあげようとしたが喉から出たのはなんとも情けない声だった。

しかしだ。おかしいな。こんなほぼゼロ距離俺が外すはずがねぇ。

何かに当たった手応えがねぇ。

俺は手の方を見てみるは?手、短くね。指も。

さっきからこいつらデカいなと思ってたが違う。これは俺が小さいのだ。おそらく今俺は赤ん坊だ。

つまりこれって…転生してる!?



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