止まった時計
アンブロシアに戻ったセイラは、祖父である皇帝と再開する。そして、セイラが今後歩んでいく新たな環境が決まっていくのであった。
リーシェは、アンブロシアのアルセンシア城の玉座の前に立っていた。目の前には、優しく微笑む皇帝アンゼルがいた。
「久しいな、そなたが生まれて初めて余と顔を合わせて以来であるな。メルティアと瓜二つ・・・あぁ、そなたは今まで何と呼ばれていたのだ?」
「リーシェ・・・です。」
「可愛い名前じゃな。不自由は無かったか?」
「はい、兄が大切にしてくれたので、不満はありませんでした・・・。」
アンゼルは、少し冷ややかに視線そらした。
「兄とはそなたを攫った大罪人ではないか・・・まぁ良い。」
「ラーズ兄様は、ご無事なのでしょうかでしょうか?」
アンゼルは、忌々しそうに舌打ちをするとリーシェにといただした。
「あの者は、大罪人・・・もはやそなたとは、関係のない存在だが・・・そなたは、あの大罪人にどの様な刑罰を望むや。」
リーシェは、愕然とした。確かに生まれ故郷であるアンブロシアから連れ去られ、母親や姉妹と引き離されたのは事実であり、家族との溝を作ったラーズは、憎まれて然るべき存在なのだ。
「・・・皇帝アンゼル様・・・お願いです。ラーズ兄様をお助け下さい・・・」
蚊の鳴くような声で、涙ながらに懇願するのであった。
「やはり、情が深いメルティアに良く似ているのだな。やむなし・・・大罪人ラーズは、戦闘奴隷・・・いや、研究室で実験体として、シェスターの指揮下に配置しろ。ラーズの母国フランジアは、直ちに制圧して、今後アンブロシアの属国としろ。」
「そ、それではフランジアの民は!!」
リーシェは慌てて声を上げるが、ルーナが制する。
「セイラ?大丈夫。お祖父様は、決して悪い様にはしないから安心して。」
リーシェは、口を閉ざした。
「リーシェよ、本日からそなたは、セイラ・メルラ・カルバリオン・ド・アンブロシアだ。そなたは、今後アンブロシアの第二皇妃として認める。皆も心せよ。」
玉座の間は、歓声で溢れた。
「ふむ、良い事を思いついた。」
皇帝アンゼルは、ニヤリと笑った。
「早速、セイラには手柄を挙げてもらう事にしよう。」
命令は下された。
セイラが、今まで住んでいたフランジアを征服し統轄するという指示がくだったのだ。セイラの配下にはシェスターは勿論、ファンタムを中心に強大な魔術師軍勢、新しく将軍となったマリベルなど錚々たる人選がなされたのだった。
「セイラよ、誰一人傷つけずこの任務を成し遂げる事がそなたの望みであろう?ならば、この位の人選は必要になるだろう。好きに使うが良い。」
アンゼルは、柔らかく微笑むと玉座から退いていった。
「流石、お祖父様・・・過保護ですわ。でも良かったね。セイラが5年も過ごした国だものね。フランジアはもう貴女の国よ。」
ルーナはセイラの肩を抱いた。
「うん。・・・」
「さて、お母様に会いに行きましょう。」
セイラは、ルーナに伴われ玉座の間をあとにした。
こうして、セイラの止まっていた時間は動き出したのであった。
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