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あなたと私をつなぐもの

作者: しゅうらい

 深い深い森の奥に、魔女が住んでいるという噂がありました。

 その魔女は薬を作り、町に売り歩いているとか。

「さて、今日もうまく出来たわ」

「なー」

 私の名前はクリス。皆が噂している魔女です。

 そして、隣で鳴いているのはスゥ。私の飼い猫です。

「さぁ、今回はどんなラッピングにしようかしら」

 私がウキウキしていると、ドアがノックされる。

 開けるとそこに立っていたのは、長い金髪を首の辺りで結んでいる、長身の男性でした。

 彼はこの国の第1王子であるエール王子です。

「エール王子、今日はどのようなご用件ですか?」

「用が無いと、来てはいけないのかい?」

「そういう訳では……」

 私がためらっていると、エール王子が抱きしめてきた。

「君に会いにきたんだよ」

「エール王子……」

 私はうれしくなり微笑む。

 私とエール王子は恋人同士です。

 でも、これは誰にも知られてはいけない秘密なのです。

「なー」

 スゥの鳴き声が聞こえて、私は慌てて体を離す。

「クリス?」

「会いにきてくれて、うれしいです。少し外を歩きませんか?」

「あぁ、そうだね。今日はいい天気だし、行こうか」

 すぐ準備を整えて、私たちは森を抜けて見晴らしのいい丘に来ました。

「ここからの景色は、いつ見ても変わりませんね」

「あぁ、僕はこの景色が好きだな」

「でも、もうすぐこの景色は失われてしまうのでしょう? 戦争が近いと噂で聞きました」

「そんな事はさせないよ。君のいる森にも近づかせやしない!」

 エール王子は、真っ直ぐな瞳で私を見つめてくる。

 私は照れてしまい、目をそらしてしまう。

「すてきなお心です。私も微力ながら、あなたの無事をお祈りしております」

「ありがとう……そうだ、君に渡したい物があるんだ」

 エール王子はそう言うと、ポケットから指輪を2つ取り出しました。

 その1つを、私の薬指にはめたのです。

「エール王子、これは?」

「この戦争が終わったら、僕と結婚してほしい」

 あまりのうれしさに、私は涙が出そうになる。

 それをぐっとこらえて、もう1つの指輪に手をかざす。

「どうか、私の愛するエール王子をお守り下さい……」

 指輪はほのかに優しく光る。

「ありがとう、クリス……」

 それから私たちは、他愛のない話をしながら歩きました。

 私の家で少しお茶をして、エール王子は城に帰りました。

 しばらくして、隣国との戦争がはじまりました。

 幸い、私のいる森は、半分焼けただけですみました。

 多分、エール王子が守ってくれたのでしょう。

 そして私は、2人で来たあの丘にやってきました。

「エール王子、あなたは今どうしているのかしら……また、会いたい……」

 私は、首に下げていた指輪を握りしめる。

「わぁっ!」

 すると、後ろから声が聞こえました。

 振り返ると、少年が転んでいたのです。

 私が駆け寄って手を差し伸べた時、その少年の顔を見て驚きました。

「エール王子……?」

 その少年は、エール王子にそっくりだったのです。

「エールは僕の兄上だよ。僕はファール」

「ご、ごめんなさい。よく似ていらっしゃったものだから……」

 私は内心ドキドキしながら、ファール様の手を引く。

「ありがとう、お姉さん!」

 ファール様は立ち上がると、私の横に並ぶ。

「ファール様は、どうしてこちらに?」

「兄上がここの景色が好きだと言っていたから来たんだ」

「そうなんですか。でも、ここは少し変わってしまいました」

「そうだね。全部あの戦争が悪いんだ」

 ファール様は唇を噛みしめ、手を握りしめる。

 その手には、エール王子が持っていた指輪をしている。

「ファール様、その指輪はどうしたのですか!」

「これは兄上から預かった物だよ。僕の事を自分の大切な人が守ってくれるからって言って、渡してくれたんだ」

「なら、エール王子は……」

「あの戦争の傷が原因で、亡くなりました」

 私は目の前が真っ暗になり、その場にしゃがみこむ。

 すると、私の頭に優しく触れるものがありました。

 顔を上げると、ファール様と目があいました。

 ファール様は微笑むと手を離す。

「お姉さんに出会えて、よかったよ。じゃぁ、そろそろ僕は行くね」

 ファール様は帰っていこうとした時、ふと足を止めます。

「お姉さん、知ってる?」

 こちらに背を向けたまま、ファール様は話します。

「あの戦争は、兄上が隣の国のお姫様の求婚を拒んだから、起きたって皆噂しているんだ」

 言い終わると、静かにファール様は振り向く。

「兄上の大切な人って、お姉さんじゃないよね?」

 その表情は、先ほどの少年の微笑みではなく、冷たく無表情でした。

 私は言葉に詰まってしまう。

「ち、違います……」

 やっとしぼりだした声は、多分震えていたと思う。

 それを聞いたファール様は、またにっこりと微笑む。

「そっか、それならいいんだ。じゃぁ、またね!」

 ファール様が帰った後、私は力なくその場に座りこむ。

「なんだったの、あの子……」

 私はあの表情を、忘れる事はないだろう。

 あの戦争を起こした原因は、私にもあるのだから。

「あの子とも、長い付き合いになりそうだわ……」

「なー」

 スゥが迎えに来たので、私はゆっくりと立ち上がり、エール王子との思い出の丘を後にしました。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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