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開幕―場末の酒場―

少し短めですがキリが良いのでここまでで3わめです。

奇妙な推定非人間を前にシルヴァレットが取った行動は―。


先手必勝、即発砲であった。


それで良いのかヒーローという気もするが(そもそもつい先程までメンテに出そうとしていたのにいつ回転式拳銃の安全装置(セーフティ)を外したのか)、つまるところ行動の責任というのはその行動によって何らかの結果が生じたときにしか問われず、そしてこの発砲は責任を問われる行動にはなり得なかった。すなわち、


「な…外したのか?」


一発たりとも命中しないのである。


初弾、二発目まではまだいい。シルヴァレットとて軍人や警官の類ではなく、由緒正しい訓練を受けているわけでもなければそのガン・テクニックは独学で磨いた実践射撃術である。時には命中しないこともあるだろう。だが流石に12発発射し切って全弾命中しないというのはおかしい。おまけに銃弾が外れるたびにどこからともなくステレオタイプな「モノがすり抜ける音」のような音が聞こえてくる。であれば一連の現象は眼前の奇妙な―背広の男に習って「化け物」とでも呼称したものか―化け物の仕業であることは明明白白である。


人間を害そうとカウンターに近付いてきていると思しい化け物に対し、「まさか…」シルヴァレットは現状リロードを繰り返し命中しない弾丸を放ち続ける他に術を持たない。己の無力を「早すぎる!」悟ったシルヴァレットは人々を連れて酒場から撤退することを視野に入れ始め「さっきからブツブツ何を言ってるんだユーベル!」


危機的状況にも関わらず―だからこそかも知れないが―ぶつぶつと何かを呟き続けるユーベルにとうとう痺れを切らしたかのように怒鳴るシルヴァレット。焦っているところに集中力がかき乱れるようなことをされ、かなりトサカ(この場合ハットというべきかもしれない)にきている。


そんな“作っている”キャラが大分怪しくなって来るほど声を荒らげているシルヴァレットの様子も知らぬとばかりにユーベルはその懐から縁日で売っているような浮かれたデザインの、シルエットだけはアサルトライフルに見える玩具を取り出すと、


「シルヴァレット!これを使え!」


何故か投げ渡すでもなくバーカウンターにそれを置いた。するとカウンターの内側にいるマスターが分かっていますとばかりに鷹揚に頷き、シルヴァレットの方へアサルトライフルらしき玩具をバーカウンター沿いにスライドさせた。


「あちらのお客様からです。」


何の違和感も感じていない様子でそれを受け取るシルヴァレット。様式美である。


「これを使えばいいのか?玩具にしか見えんが…」


「いいからそれであいつらを撃て!」


有無を言わせぬ気迫のユーベルに従って引き金を引くと、先刻弾丸が外れる際に鳴っていた「モノがすり抜ける音」とタメを張るくらいには莫迦莫迦しい音色で『ピチューンピチューン』と光条が銃口から飛び出し、化け物を貫いた。化け物は一瞬硬直し、そしてその身を塵へと転じさせる。明らかに尋常な人間の死に方とは思えない。非人間が確定した瞬間であった。


ひとまずの安寧を得たと判断したシルヴァレットは塵の確認もそこそこに再びレストルームへと赴いた。ハットを取り、マスクを外して…ヒーローもなかなかどうして大変だ。


変装を解除したヤスターがトイレから出てくる。さすが酒飲みと言うべきか、あれほど逃げ惑っていた人々は机に座り、何事もなかったかのように数刻前の光景が再現されている。ヤスターもついさっきそうしたようにユーベルの隣に腰掛けると、化け物退治に一役どころか千役ほど買っていたアサルトライフルらしき玩具、いや、玩具らしきレーザーアサルトライフルを差し出しながら口を開いた。


「ありゃ一体何なんだ…まともな人間じゃねえことに違いはねえだろうけどよ…

 ユーベル、これ、返しとくぜ。ありがとよ。」


しかしユーベルからの返事はない。まさかのぶつぶつ続行である。


「まさか…ありえない…しかし実際…観測結果に誤りが…」


化け物は最早おらず、なればこそ先程と比べてかなりの心理的余裕を持ってヤスターがユーベルに再度話しかける。


「ユーベル?」


「シル…じゃない、ヤスターくん、大事な話がある。ついてきてくれ。」


「大事な話ぃ?ひょっとして告白とかかぁ?」


何を言い出したこの無職とお思いの読者もいるかもしれないが、誰がヤスターを責められようか。古来より異性から大事な話があると言われればあまねく人類種が想像するものは告白イベントに決まっている。この中で異性に大事な話と言われて少しでも期待しないもののみ彼に石を投げよ。

そもそも彼は戯言として軽い声音でこの言葉を口走っているのだし。


それはそれとして化け物が出現してからというもの何やらかなり焦っているらしいユーベルがそんな与太話に付き合うはずもなく、一切の言葉を返さずに10月札の鹿のように(シカトというやつだ)いそいそと酒場から出てしまった。


一連のやり取りを聞いていた酒場の呑兵衛たちがヤスターに可哀想なものを見る目を向ける。


ヤスターは周囲の視線を受け、ユーベルへの呆れときまりの悪さ、そして若干の恥ずかしさをブレンドした溜め息をつくと、


「無視かよ。はいはい、行きゃいんだろ?」


気怠げに歩き出し、酒場を後にした。


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