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白い鹿

作者: 一ノ元健茶樓

 


 僕は、鹿である。

 角は大きく、身体も大きい雄鹿だ。

 今日も元気に山を走っている。


 けれど先程、崖から落ちて木に大きな角が引っかかり、宙ぶらりになり困っている。


 そこにオジサンさんが、来た。

 オジサンは、僕を銃で撃ち、僕の身体を家へと持って帰った。

 オジサンは、僕の肉を食べ皮を剥ぎ。

 角を切って町へと売りに行く。

 僕のお肉を干し肉にしている。

 オジサンは、ウサギ、鳥、イノシシ、他の鹿も取って来る。


 僕は、それをずっと、この家で見て来た。


 今日は、蛇と山菜や木の実を取って来ている。

 オジサンは、1人で町里離れた小屋に暮らし住んでいる。

 たまに若い男の人が、やって来ては話をしている。


 僕は、猟師の彼と一緒に住んでいる。

 けれど他の鹿やウサギ、鳥や蛇は、僕と同じ様にはならない。どうしてだろう?


 木の葉や紅葉が無くなり外は、白い世界に変わっていた。


 ある日、オジサンは、咳をする。

 苦しそうにしながらも、干し肉や木の実を食べている。

 オジサンは、ずっと寝ている。

 うなされ「恐ろしい…」と言いながら汗をかき、寒そうにしている。

 そこへ若い男の人がやって来た。


「大丈夫ですか?」

「はい」

「この薬を飲んで安静にしていれば大丈夫ですよ」


 そう言って微笑んで小屋を出て行った。

 震えながらもオジサンは、何かを飲んで、また干し肉を食べて眠った。


「寒い…」


 と言いなが苦しみ、うなされ汗をかき、布団の中で暴れている。

 僕は、そんなオジサンの頭に手を置いてあげた。


「固い…」


 と言いながら、何かをつかもうとしていた。

 僕は、大きな声で「オジサン!」と叫んだ。

 するとオジサンは、大きな声を上げて起き上がり、辺りを見回して一息つくと、水を飲んだ。

 窓から星と月を見て、眠りについた。


 オジサンが、咳をする事は無くなり、笑顔で町へと行った。

 僕も着いて行く事にした。

 町は、小さな提灯が並び、とても賑やかだった。


 町をウロウロとしてたオジサンは、仲間と会い話す。

 町は、お祭りで夜には、賑やかな音楽と踊りで楽しかった。


「こないだは大変だったよ」

「先生から聞いたよ」

「小心者!今日は呑もう!」


 そこへ若い男の人が、やって来た。


「元気そうですね!」

「ああ!先生!この前は、ありがとうございます」

「僕も、ここに失礼しますね」


「先生、こないだ薬を飲んで寝た日、三途の川を見ましたよ!」

「ええ?!本当ですか?」

「とても綺麗な岸辺が、突然、水でいっぱいになるんです。息も出来なくなって死ぬかと思った時、頭に何か当たるから掴んだら、鹿の角でした!藁をも掴む気持ちで持っていると、誰かに呼ばれる気がして…」

「それでどうしたんですか?」

「目が覚めました。近くには誰もおらず、すぐに寝て起きたら元気でしたよ」


 そう言って大きく笑うオジサンを見ていると僕は、身体が軽くなって空へと浮かんで行った。

 賑やかな音楽と踊りと、オジサンの笑う声、町の綺麗な明かりが、少しづつ遠のいて行く。


「あ、あと!白い大きな鹿を見ました!」

「川の中で?」

「そうです!川の中で、持ってた角が、大きな逞しい白い鹿になってたんですよ!」


 僕が見た最後の景色は、とても綺麗だった。








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