51 最弱聖女、聖騎士団副団長と再会す
大聖堂に近づくにつれて、プレッシャーがヒシヒシと伝わってくる。表皮を焦がすかのような感覚に、アリスは奥歯を噛み締めて耐えた。
「あの騎士団長、ガブリエラが天人だって言ってたわね」
ジギタリスは爪を噛む。
「エミリオもまた、天人の血を受け継いでいるそうだな?」
アリスは、エミリオの片翼を思い出しながらユーロンに問う。
「ああ。天人族は魔族の中でも別格だ。排他的で議会にも顔を出さず、独自のコミュニティを築いている。連中は秩序を重んじるから、他の種族と卓を共にするのも嫌う。加えて、自分たち以外は蛮族だと思っている節があるからな」
「……排他的なところはデウス教やガブリエラの主張と一致するな。しかし、そんな種族がなぜ人間の振りをして大司教などやっていたんだ?」
「人間は弱く繊細だ。大きな存在に救済を求め、信仰心を持つ。人間以外は、そこまで信心が強くねぇのさ」
親父殿が言ってた、とユーロンが付け加える。
「ユーロンの父親も東方の一部では神様扱いだったよな。その親父さんが言うなら、本当なんだろうな……」
ラルフは納得したように頷いた。
「確かに。私たちは神々に敬意は抱くけど、人間ほど熱心じゃないかもね。祭壇を作る習慣がある種族はいるけど、教会や寺院まで作らないっていうか……」
ジギタリスもまた、そう言った。
「ということは、ガブリエラの目的は信心を集めること……か? そして、最終的な目標は――」
デウス神を降ろすこと。
そして、その先は――。
考え込むアリスの行く先に、大聖堂の扉が立ちはだかった。扉は固く閉ざされ、侵入する者を拒んでいた。
「駄目だ……。びくともしない」
ラルフが扉を押すが、全く動かない。どうやら鍵がかかっているらしい。
「ぶっ壊そうにも、アンチマジックがかかってるわね。裏口から入れるかしら……」
ジギタリスは扉の前で頭を振り、裏口を見つけるために離れようとする。だが、その先で何かにぶつかった。
「わぶっ! な、なによ!」
「すまない。大丈夫か」
抗議する彼女の前に現れたのは、美しき騎士であった。
「あんた、聖騎士団のイケメン副団長……!」
「バージェス卿!」
アリスも目を丸くする。そこに立っていたのは、オーウェンであった。
「傷はもういいのか? 奇跡で塞いだとはいえ、無理は……」
「そんなことを言っている場合ではないのだろう? あと、私のことはオーウェンで構わない」
オーウェンいわく、王都の異変を感じて出てきたという。今は、他の騎士たちとともに倒れている住民たちを保護して回っているという。
「しかし、我々も原因不明の気にあてられて、思うように動けないのだ……。団長も見つからなければ、分隊長も見つからないし、国王様の指示もない。埒が明かないので、原因を取り除くべく調査をしようとしたのだが……」
「へぇ」
ユーロンは感心したような声をあげる。
「そんなに生真面目そうな奴なのに、王の指示なく勝手に動くとはな」
「どんな罰を受ける覚悟もできている……!」
オーウェンは、罪悪感にまみれた顔でそう言った。
「そう気張るなって。良いじゃねぇか。気に入ったぜ」
「ま、魔王に気に入られるとは……!」
「なに辱められたみたいな顔してんだ。お前さんも、こいつを開けようとしたんだろ?」
ユーロンは大聖堂の扉を小突く。
「ああ。鍵ならば私が持っている」
厳重な鍵穴に、細やかな装飾が入った鍵を差し込む。
そんなオーウェンに、ラルフがこっそりと耳打ちした。
「そうだ。団長さんは向こうで見つけましたよ。町の人たちを任せたんで、そのうち皆さんと合流するかと……」
「なんと……! それならばよかった。団長が町にいるのならば安心してこちらに専念できる。教えてくれて有り難う」
オーウェンは律義に頭を下げる。
スペンサーのことを敢えて伏せたラルフは、複雑そうな顔をしていた。そんな彼の肩を、アリスは優しく叩く。
「君のやったことは必要なことだ。彼のことは、後で私から話そう……」
「いや、みんなで話そう。目の前のことが片付いたら」
巨大な扉が、重々しい音を立てて開く。
エミリオを探す一行。再会したオーウェン。
扉の先に待っていたものとは――。




