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【書籍化&コミカライズ決定】最弱聖女でしたが「死神」になって全キルします  作者: 蒼月海里
8章 アリスの正体と死神の目的
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50 最弱聖女、怨敵を討つ

 振り返ると、にやついたスペンサーが鋼鉄の手を突き出していた。

「貴様、何をした!」

「裏切り者の団長殿を処分しようとしたのだ。貴様が私を斬ったように」

「貴様が断罪を語るのか!」

「自身には、その資格があるかのようだな! 傲慢なる聖女アリス!」

 スペンサーは、武器を持たずに馬上で構える。


 双方の間に、両手剣を構えたラルフとユーロンが躍り出た。

「アリス、その人は頼む!」

「あの大司教殿の依頼っていうなら、エミリオの居場所は大聖堂だな。邪魔するなら叩っ斬るぜ」

 二人を前に、スペンサーは大口を開けて嗤った。

「ふはははっ! そのなまくらで私に勝とうと!?」

「なまくらじゃない! 親が鍛え上げた剣だ!」

 ラルフはスペンサーに反論する。

「親が鍛えようとドワーフが鍛えようと同じこと。何故なら私は……」

「ラルフ、伏せろ!」

 ユーロンが叫び、ラルフが反射的に伏せる。


 その瞬間だった。

 突き出したスペンサーの手の平から、熱線が発射したのは。

「なっ……!」

 熱線はラルフの頭上を掠め、空気を焼き、背後にあった建物に直撃した。ドォンと派手な音とともに、石造りの建物に大穴が開く。

「なんだ……今のは……!」

「野郎……。あの作り物の手に、魔法兵器を仕込んでるってわけか」

 ラルフは驚愕し、ユーロンは舌打ちをする。

 スペンサーの手の平からは、いつの間にか発射口が突き出ていた。そこから熱線を繰り出したのだ。

「そのとおぉぉり!」

 スペンサーは高らかに笑う。

「デルタステラきっての錬金術師に作らせた特別な腕だ! 最早、武器など不要ッッ! 絶対神に逆らう愚か者どもをまとめて葬って、頂点までのし上がってくれるわーッ!」


「あのクソ野郎……! ウェントゥスの力さえ安定してたら、ぶっ飛ばしてやったのに!」

 ジギタリスは悔しげに呻きながら、アリスとともにアルベールを抱えて物陰に避難する。

「なんということだ……」

 アリスは呻く。

 なぜ、再びスペンサーが自分たちの前に立ちはだかっているのか。それは、アリスが彼を生かしたからに他ならない。

「す、すまない……。私の不行き届きだ……」

 アルベールは苦しげに謝罪した。

「いや、そんなことはない……!」

 アリスは、アルベールの怪我を治すことに集中する。しかし、王都がデウスの影響下にある今、簡単な治療魔法を行使するにも時間がかかった。


「ふははは! 我が国の錬金術は世界一ィィィ!!」

 一方、スペンサーは熱線を無差別に撃つ。殺傷能力が高く連射可能な熱線を前に、ラルフもユーロンも迂闊に近づけない。

 それどころか、容赦ない熱線は周囲の建物を次々と破壊した。店も、民家も、壁に大穴を開けて崩れていく。

「もうやめるんだ! 町が無茶苦茶じゃないか!」

 ラルフは叫ぶが、そんな彼に熱線が襲い掛かる。寸前のところで避けるものの、ラルフの背後にあった家の屋根に大穴が開いた。

「無駄だ。あいつに俺たちの声は届かねえ」

 ユーロンがラルフに告げる。

「でも、このままじゃ王都に住む人たちの家が……!」

「だから、さっさとカタをつける。熱線の発射口は一つ。一度に二箇所を狙うことはできない」

「ということは……」

 どちらかが囮になり、その隙にどちらかがスペンサーを斬ればいい。

 ラルフはユーロンが言わんとしていることを理解し、自分が囮を引き受けると言おうとした。


 しかし、その前に柳葉刀を抜いたユーロンがスペンサーの前に躍り出た。

「やれるもんなら、やってみな! お前さんが俺を貫く前に、その腕を叩斬ってやるぜ!」

「ユーロン!」

 金髪を躍らせながら、ユーロンが囮役を買って出た。スペンサーは熱線を発射するものの、ユーロンはひらりと避けてかわす。

 力が半減しているとはいえ、ユーロンは魔王。聖騎士団の分隊長が敵う相手ではない。

 しかし、ユーロンにスペンサーを討たせるわけにはいかない。魔王が人間を殺したとなれば、この先の和平が結べなくなる。デウスの力が強く、太陽が封じられている以上、アリスの蘇生魔法を保険にすることもできない。

「……やるしかない」

 ラルフは覚悟を決めた。

 不意打ちは彼のポリシーに反するが、そんなことを言っている場合ではない。

 これ以上、スペンサーを暴走させるわけにはいかない。そして、仲間の立場を危うくしてはいけない。

 ラルフはユーロンの反対側から、足音を殺しつつスペンサーへと剣を振り被った。

 狙うは、彼の鋼鉄の腕。切り落としてしまえば熱線は使えない。


 しかし、剣を振り被るラルフに、スペンサーの発射口が向いた。

 スペンサーが振り向いたわけではない。鋼鉄の腕の肘にもまた、発射口がついていたのだ。

「残念だったなぁ。熱線は二方向に飛ばせるのだ」

「まずい!」

 発射口にエネルギーが集中する。

 スペンサーに接近したラルフは勢いが殺せない。ユーロンが助けに入ろうにも、彼にも発射口が突きつけられている。

 万事休す。


 しかし、漆黒の風が吹いた。

「スペンサァァァ!」

 アリスだ。

 咆哮をあげて殺気を迸らせ、漆黒の大鎌を携えて疾風のごとく駆ける。

「なっ、き、貴様……!」

「貴様は! 私が(ただ)すッッッ!!」

「やめろ……待……」

 スペンサーの命乞いは、そこで終わった。

 即死魔法の大鎌が、スペンサーの身体の中心を走る。勝負は、一瞬だった。

「もっと、昇り詰めたかっ……たわばっ!」

 スペンサーの身体に大きな亀裂が走る。

 刹那、彼の肉体は四散。ゼロ距離にいたアリスが返り血を浴びる。


 スペンサーの鋼鉄の腕がガラクタ同然の姿になって転がった。足元に来たそれを、ユーロンは忌々しげに踏みつける。

「すまない。私がもっと早く、こうしていれば……」

 エミリオは攫われなかったかもしれないのに。

 そう言おうとしたアリスであったが、「いいさ」とユーロンが返した。

「過ぎたことは仕方がねえ。未来のことなんて誰も分からねぇんだ。奪われたものも、取り戻せばいい」

 ユーロンは大聖堂を見やる。


 一方、アルベールはジギタリスの肩を借りながら、よろよろとやって来た。

 アリスの奇跡で肩の傷は塞いだものの、完全に痛みが取れるに至らなかったようだ。時折、苦痛に顔を歪ませていた。

「シャンテル卿……」

「気にしないでください、皇女。本当は、私がその役目を負うべきだったのに、あなたの手を汚させてしまった……」

「私の手など、既に汚れています。だから、皇女という身分も相応しくない」

 アリスは自らの返り血を拭うと、大聖堂を見やる。

 暗雲は先ほどよりも分厚くなっている。デウスの力もまた、高まっているのを感じた。

「私は皇女でも聖女でもない。ただの冒険者アリス。何にも縛られず、己が見つけた己の使命を全うする者。今私がすべきは、無力なる者を助け出し、王都の人々を苦しめるものを取り除き、火種になりうるものを見極めること。弱き人々が、犠牲にならないためにも」

 アリスはそう言って、アルベールに背を向ける。

「なんと堂々として広い背中……。国王様もそうだったのです。弱き民が苦しまないよう、国を良くしようとしていたのに……」

「シャンテル卿、町のことは任せました」

 アリスは歩き出す。ユーロンがその隣に並び、ラルフがその後ろについて行き、ジギタリスもまた続いた。


 大聖堂に向かうアリスたちを、アルベールはただ見守ることしかできなかった。

スペンサー卿を完全撃破した一行。

大聖堂で待つものとは――。

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