49 最弱聖女、怨敵と再会す
「皇女……? 何を言っている……?」
「あなたの父親は国王様なのです。国王様と、学者であったマチルダ様との子です。しかし、民衆に公表する前に、あなたが災いを齎すという神託が下り、母娘ともに密かに処刑せざるを得なかった……!」
「な、何を言っているんですか、シャンテル卿! あなたが言わんとしていることが全くわからない! 私が国王様の娘? 忌み子であり処分されるはずだった話は大司教から聞きましたが、誰かが逃がしたのではないかという話に――」
「それが私です」
アルベールは力強くそう言った。
「当時、王子だった王の命令により、私があなたたちを逃がしたのです」
「あなたが……我々を……」
「アリス様……! 国王様はマチルダ様の訃報を知った時には嘆き、あなたの無事を祈っておりました。指名手配したのも、あなたが王都に近づかぬようにするためです。手配書の配布はマーメイドヘイブンまでとし、スタティオ以降には配布せぬよう密かに命じていたのです。人相書きを似せなかったのも、国王様の配慮ゆえでした」
アリスが王都に近づけば、アリスを恐れる勢力がアリスを排除しようとするだろう。国王は、彼らからアリスを守りたかったという。
「あなたを排除したいのは、神託を得た大聖堂です。しかし、手を下すのは聖騎士団の役目。国王様と秘密を共有している私が、聖騎士団の手があなたに及ばぬよう、密かに誘導しようとしていたのです」
「そんな……」
眩暈を感じたアリスは倒れそうになる。そんな彼女を、ユーロンが力強く支えた。
突然のことで呑み込み切れない。
自分が国王の娘であり、自分と母親を逃がしたのは聖騎士団の団長で、それは国王の意思であったこと。そして、国王はアリスの身を守るために、王都から退けようとしていたこと。
「……シャンテル卿、国王に会うことはできるか……」
「それが……」
アルベールは目を伏せる。
彼は見ていたのだ。国王が塩の柱にされるところを。
「会わせてくれ! 彼が父だというのなら、彼の口から直接話を聞きたい! そして、この惨状の説明を――」
「そいつは無理な話だ、重罪人よ」
第三者の声が割り込む。
聞き覚えのある声だ。
「お前は……!」
静かになった王都の街角に、馬の蹄が響く。
馬に乗って一同を見下ろしながら現れたのは、鋼鉄の片腕を持つ聖騎士であった。ピンと跳ね上がった髭と神経質そうな顔つきには、見覚えがある。
「スペンサー卿!」
「覚えていてくれて光栄だ。忌まわしき聖女アリス」
それは、北の森の村で断罪したはずの分隊長スペンサーであった。アリスが即死魔法で処した腕は再起不能になったのだろう。切り落として、鋼鉄の義腕にしたのか。
「クソ騎士……!」
因縁の相手を前に、ジギタリスの髪がぶわっと逆立つ。
「なるほどな。作り物の腕っていうのは、お前さんかい」
ユーロンもまた、柳葉刀を抜く。
「エミリオを攫ったのは知ってるぜ。どこへやった?」
「ふん。あの小汚い混血児のことか」
「余計なことは言わなくていい」
ユーロンがぴしゃりと言うと、スペンサーは口を噤んだ。
デウスの影響で力が半減しているとはいえ、ユーロンが内包する気迫は衰えていない。心の弱いものは、彼の鋭い双眸から漂う殺気だけで逃げ出してしまうだろう。
「あのガキは異端として処分するつもりだったが、大司教様が必要だとおっしゃってね。一体、何に使うやら」
「ガブリエラ殿の命令……だと?」
アルベールの目に恐怖が宿る。
アリスは、それを見逃さなかった。
「どうした……? 彼女が何をしようか、知っているのか……?」
アルベールは首を横に振りつつ、アリスに縋るように訴える。
「わからない……。デウス神を『完成』させようとしていること以外は……。だが、あなたたちに教えなくてはならないことがある!」
「な、なんだ?」
完成という単語が気になったが、アリスはまず、アルベールの訴えに耳を貸す。
「ガブリエラ殿は人間ではない! 彼女はデウス神のように純白の翼を持つ天人の――」
アルベールの言葉は、そこで途切れた。
何か圧倒的な力がアルベールの鎧を貫き、肩を焼いたのだ。
「ぐああっ!」
「シャンテル卿!」
肩を押さえて悶絶するアルベール。アリスが彼の手をやんわりと離させると、鎧には大穴が開いていた。
焦げ付いた臭いが鼻を掠める。
エミリオを攫ったのは、かつて魔女の村を埋めようとしたスペンサー卿だった。
再びアリスたちの目の前に現れた彼は、どうやらただならぬ力が……!?




