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44 最弱聖女、聖魔対決を見届ける

 肉薄する聖と魔。

 ぶつかり合う力のせいで、互いの刃が軋み合う。


「どんなに話し合おうとも、受け入れられないこともある! 話し合いで解決するのなら、この世界から争いは消えているはずだ!」

「それでも、話し合うことでどうにかなることもある! 交渉に交渉を重ね、妥協点を探り合うんだ!そうやって、各地で勃発する不要で不毛な争いを鎮めれば、助かる命もたくさんあるだろ! 全部の争いを止められないかもしれねぇが、一つでも減らせるかもしれない!」


 両者、一歩も譲らない。

 互いに弾き合い、再度、交えられる刃。その応酬があまりにも激しく、ラルフたちにはもはや目で追えないくらいであった。

「北の森の連中だって、お前さんが守りたい民だったんじゃねぇのか? そいつらを異端だからという理由で、お前さんたちは埋めちまっていいのか!?」

「くっ……!」

 ユーロンの剣撃がオーウェンをじわじわと圧す。

 魔王というのは伊達ではない。魔を滅する聖騎士団の副団長を、少しずつ追い詰めていった。

「それでも、私は国王様の理想を叶えたい……! どんな犠牲を払ってでも、多くの民が幸福を得られるという理想を!」

 オーウェンはたたらを踏みつつも、ユーロンと距離を取る。


 ステンドグラスから降り注ぐ光が、オーウェンを厳かに包み込む。

 彼は両手剣を目の前に掲げ、祈るように双眸を閉ざした。

「すまない、皆。避難をしてくれ」

「まさか……!」

 オーウェンの忠告に、聖騎士たちは青ざめる。

「な、何をしようっていうんだ!?」

 ラルフが息を呑む。

 一同の目の前で、オーウェンは神に祈りを捧げた。

 絶対的にして排他的な力を持つ、デウス神に。

「我らがデウス神よ! このオーウェン・バージェスの身と引き換えに、人類の敵である魔王を倒す力を!」

「ば……馬鹿、やめろ!」

 自らを犠牲にする宣言に、ユーロンは思わず取り乱す。


 刹那、ステンドグラスから降り注いだ光が、渦となってオーウェンを包んだ。

 今までの比ではない。

 見る者全てを圧倒する、絶対的で排他的な力の塊だ。

「魔王討伐は聖騎士団の悲願……! 多様を叫び混沌を齎す魔王は、ここで葬る……!」

 全身に聖なる力を纏ったオーウェンは、大粒の汗を額に滲ませながら剣を構えた。

 尋常ならざる気迫。

 しかし、聖なる力がオーウェンにとって大きな負担になっているのも明らかであった。

「武器だけじゃなくて全身付与!? あの量の魔力を人間がまとったら、死ぬわよ!」

 ジギタリスが悲鳴じみた声をあげる。

「あれは、聖騎士団の秘儀。一度発動したら、命が尽きるまで止められない……。副団長は、魔王と刺し違える気だ……!」

 聖騎士たちもまた、オーウェンの覚悟に慄くように目を見張った。

 誰しもが、手を止めてオーウェンを見守っていた。聖騎士もラルフやジギタリスも、もはや、手を出せなかった

「クソが……! そうやって命を粗末にするんじゃねぇ!」

 ユーロンは柳葉刀の柄をきつく握りしめる。

 オーウェンを斬ればオーウェンの命が奪われる。だが、オーウェンの攻撃を受ければ自分の命が危うい。それに加え、オーウェンもまた、身体の限界を超えた聖なる力に蹂躙されて命を落とすだろう。


 正しい選択は知っている。

 オーウェンを斬ることだ。それで、少なくともユーロンの命は救われる。

 だが、他にないのか。

 このような戦いを防ぐために、ユーロンは動いていたというのに。


「やるんだ、ユーロン」

 背中を押したのは、アリスであった。

「お前……」

 ユーロンは驚きのあまり、アリスを見やる。

 だが、アリスの真紅の瞳に絶望や迷いはない。確信のみがあった。

「私を信じろ。誰一人として、死なせはしない」

「……そうだったな」

 アリスには、それを実現するだけの力がある。ユーロンは思い出した。


「人類の敵である魔王よ、覚悟!」

 輝ける力を宿したオーウェンが駆け出す。

 その姿はまさに流星だ。

 美しく輝きながらも周囲を焦がし、自らもまた燃やし尽くそうとしている。

「こんなところで聖魔戦争とは不本意だが、まあいい。タイマンならば、誰も巻き込まねぇしな!」

 ユーロンは獰猛に牙を剥く。

 人の身ながら、その気迫と表情は竜そのものであった。輝ける流星を迎え討つべく、己の牙たる柳葉刀を閃かせる。

 聖と魔の軌跡が交差する。

 空気が止まり、全てが制止した。


 見守っていた一同は、息をするのも忘れていた。

「ぐっ……」

 呻いたのはユーロンであった。右肩が深く切り裂かれ、鮮血が溢れている。

「国王様、やりました……」

 オーウェンは感慨深げに呟く。

「ついに、魔王を討ち取っ……」

 そこまで言うと、オーウェンの身体がぐらりと傾く。それと同時に、白銀の鎧に無数の亀裂が入った。

「なっ……そんな……」

 勝負の行く末を見守っていた聖騎士たちが慄く。あまりにも見事な切り口で、崩壊するまで時間がかかったのか。

 切り刻まれた白銀の鎧は砕け散り、袈裟斬りとなった傷が露わになった。

「悪いな。手加減はできなかった」

 ユーロンが柳葉刀を納めると同時に、オーウェンの身体から聖なる輝きが失われ、彼の致命傷から血が迸ったのであった。

魔と聖の戦いは雌雄を決す。

その時アリスは――。

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