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43 最弱聖女、聖騎士団と激突す

 ガブリエラはアリスとユーロンから目をそらし、神官兵と聖騎士団に視線をやる。

「大罪人と魔王の戯言だ。混乱を招き、この場から逃れるのが彼らの目的。耳を貸す必要はない」


 動けずにいた神官兵と聖騎士団は、ハッとする。聞き入っていた彼らはようやく、自分たちの立場を思い出した。

「大司教様! お下がりください!」

「早く避難を!」

 神官兵らは駆け付け、ガブリエラを礼拝堂の奥の扉へと誘導しようとする。


「待て!」

 ユーロンは後を追おうとするが、その前に聖騎士団副団長のオーウェンが立ちはだかった。

「魔王、私が相手だ!」

「テメェ、俺の話を聞いていなかったのか!」

 ユーロンは牙を剥いて一喝する。

 だが、オーウェンもまた盲目的にガブリエラの言うことを聞いているわけではない。彼の宝石のような瞳は戸惑いに揺れていた。

 彼は葛藤しているのだ。思い悩んだ末に、ガブリエラを守ろうとしている。


 いや、彼が守ろうとしているのは――。

「民よ! よりどころである祈りの場は我ら聖騎士団が守る! 安心して避難せよ!」

 オーウェンは恐怖に慄いていた人々にそう言い聞かせる。彼の背後に控えていた聖騎士団は、混乱に陥る人々を出口まで誘導し始めた。


「まさか、魔王が人間と変わらぬ姿をしているとは。王都侵入のために、本来の化け物じみた姿を隠しているというのか!?」

「生憎と、半端者だからこの姿しかなくてね」

 ユーロンはじりっと詰め寄る。

「どきな。あの女には問い質したいことがある」

「それはできない。大司教様は民の心のよりどころ。そして私は――」

 剣を構えたオーウェンが、ぐっと前のめりになる。オーウェンの両手剣が鋭く光り、殺気がピリリと空気を焦がした。


「ユーロン!」

 臨戦態勢にいち早く気づいたラルフが叫ぶ。それと同時に、オーウェンは地を蹴った。

「私は、民の平穏のために魔を討つのが使命!」

「だったら話を聞きやがれ!」

 オーウェンが振り被った剣を、ユーロンが腕で受け止める。

 ギィィンと重々しい音が響き、その硬質さにオーウェンは驚きながら飛び退いた。

「籠手か……!?」

「生憎と、素手だ」

 ユーロンが袖をまくると、黄龍の鱗が生えた腕が現れる。その異形な姿に、オーウェンは恐れを隠せなかった。

「やはり、魔族なのか……」

「それでも、半分はお前さんたちと同じだぜ?」

 ユーロンは皮肉めいた笑みを浮かべる。

「だが、半分魔族であることには変わりがない。異端はデウス教にとって不要な存在。そして、魔族は異端だ!」


 聖騎士団が人々を避難させたのを確認すると、オーウェンは剣を高らかに掲げた。

「デルタステラ国王は、デウス教を以ってより高みに昇ろうとしている。国家が強ければ、誰にも侵されることがない。一強であることが民の平穏に繋がるのだ!」

「一強、ね。そいつは、他の人間の国に対してか?」

「人間と魔族、両方だ。人類の他の国々とは、今は魔族と対抗するために手を結んでいる。しかし、思想が同じわけではない。魔族がいなくなれば、必ず分断が生じるだろう……」

 オーウェンは、魔族との戦いのその先を見ていた。その上で、彼は民を守るべくデウス神を信仰しようというのだ。

「ともにデウス神を信仰するならばよし。そうでなければ――」

「ぶっ殺すってか? それこそ野蛮な行為だと思うぜ?」

 苦笑するユーロンを、オーウェンは睨みつける。

「なんとでも言うがいい! 民を守るためならば心を鬼にしよう! そして、我が身を犠牲にすることも厭わない!」


 デウス神のステンドグラスを背に、オーウェンの剣が白く輝く。

 美しくもあり、排他的でもある絶対的な白だ。

「魔力が集中してる。あれ、ヤバいわ!」

 ジギタリスは魔女の姿に戻ると、剣に魔力を集中させるオーウェンの妨害をすべく魔法を使おうとする。

 しかし、民を避難させ終わった聖騎士団が、その前に立ちはだかった。

「どきなさい!」

「そうはいかない。異端な貴様らはここで排除する!」

 騎士がジギタリスに向かって剣を振るう。だが、ラルフの両手剣がそれを受け止めた。

 耳障りな金属音が響く。

「くっ……! さすがはエリートの聖騎士団! やっぱり強い……!」

「こいつ……冒険者のくせにできるな……!」

 両者は拮抗し合い、やがて、同時に離れる。

「ラルフ、あんた……」

「彼らは俺たちの声に耳を傾けてくれない! ここは、戦うしかない……!」

 ラルフは腹を括り、聖騎士団に対して前線に立つ。

「前は任せて。彼らの攻撃は防ぐから、魔法を頼む!」

「オッケー、ぶちかましてやるわ!」

 ジギタリスの周りに風の元素が集まり、空気に電撃が走った。高まるジギタリスの殺気に、ラルフは身震いをする。

「ただし、い、命を奪わない程度で……!」

「面倒くさいわね! わかってるわよ!」

 叫ぶと同時に、雷の魔法を周囲に解き放つ。電撃は聖騎士団の剣を的確に狙い、悲鳴とともに彼らの動きを一時的に封じた。

「今だ!」

 ラルフは目の前の聖騎士を峰打ちにしようとする。だが、後列で電撃を逃れた聖騎士が飛び出し、ラルフの剣を防いだ。

「くっ……! 電撃が届かなかったのか!」

「っていうか、この場所は魔法を使い難いんだけど!」

 ジギタリスが叫ぶ。どうやら、魔力が安定しないらしい。

「できる範囲で大丈夫! 俺が気合いで何とかする!」

 ラルフは諦めようとしなかった。ジギタリスも同じだ。すぐに次の攻撃に転じようとする。


 一方アリスは、襲い掛かる聖騎士団の相手をするラルフとジギタリス、そして、オーウェンと対峙するユーロンの戦況を見極めようとしていた。

 乱戦になっている以上、触れれば死ぬ即死魔法は使えない。

 それに、相手は聖騎士団だ。しかも、北の森の時のように悪戯に他者を傷つけようとしているのではなく、彼らもまた民を守るために戦っているのだ。


 あまりにも歯がゆい。

 アリスが得た力は絶対的であったが、無責任に振るうわけにはいかないものだ。ここで聖騎士団の命を一つでも奪ってしまったら、自分たちの立場が危ういどころか、ユーロンの和平を結ぶ目的も果たせなくなってしまうかもしれない。

 即死魔法がなく無力であった時も歯がゆかったが、力を得ても尚、同じ想いをするとは。


(私は、本来の役目を全うするしかない……!)

 気持ちを切り替え、治癒魔法で仲間を癒すことにした。多勢に無勢だが、治癒魔法を駆使することで戦況をひっくり返すこともできる。

 しかし、そんな最中、言いようのない悪寒がアリスの全身を貫く。

「いけない……!」

 オーウェンの剣に集中する魔力の輝きは、アリスが今まで見たことがないものだった。

 圧倒的にして絶対的な何かが、オーウェンの剣に集まっている。

「ユーロン、気を付けろ!」

 アリスが叫ぶ。ユーロンもまた、何かに気付いたのか警戒の色を濃くした。

 オーウェンは輝く剣を振るい、再び駆け出す。真っ直ぐ、ユーロンに向かって。

「いざ!」

 疾風のごとく早く、鋭い一閃。ユーロンもまた身構えながら、己の鱗で受け止める。


 響いたのは鈍い音。

 飛び散ったのは鮮血。

 ユーロンの黄龍の鱗は、輝ける剣によって傷つけられていた。

「な……!」

 オーウェンが剣を振り切る前に、ユーロンが飛び退く。真紅の血飛沫が宙を舞い、大聖堂の床に飛び散った。

「こいつは……まさか」

「聖属性付与! デウス教に帰依した聖騎士団の技! これぞ聖属性の力にして、デウス神の絶対的なる加護だ!」

 傷口を押さえるユーロンに、オーウェンが叫ぶ。


「聖属性……だと?」

 アリスはユーロンに駆け寄り、治癒魔法で傷を癒しながらもオーウェンの輝く剣を見やる。

 世界を構成するのは四元素による四属性だ。アリスが行使するクレアティオの奇跡は、その場に漂う四属性のいずれかの力を借りて発動する。


 聖属性なんて、聞いたことがない。

「……親父殿から受け継いだ鱗を傷つけたのは、お前さん以来だ」

 ユーロンは礼の代わりに、かつてアリスの即死魔法で傷を負ったことを明かす。

「だが、即死魔法は聖属性などではない。あれは恐らく……属性ではなく摂理に働きかけているんだ」

 アリスに力を与えた死神は、奪う力だと言っていた。世界を循環する力とは、また違うものが働いているのだろう。

「聖属性だなんて大層な名前を付けているが、あれも属性魔法なんかじゃねぇ。摂理に働きかける、排他の力だ……」


「排他の……力……」

 アリスは、言い得て妙だと思った。

 デウス教は異端を赦さない。思想の統一を謳い、特定の種族しか許容しない。

 絶対的で狭量で、排他的な存在だ。

「お前さんたちは、そいつで人間以外のみならず、デウス教以外を排除するっていうのかい」

 ユーロンはオーウェンに問う。

「それが、最終的に民の平和につながるのならば」

「だが、お前さんたちが排除する中にも、守りたかった民がいるんじゃねぇか?」

 ユーロンの言葉に、オーウェンは押し黙る。

「なあ、お前さんたちがぶっ殺してきた魔族もまた、こちら側の『民』だったんだ。俺たちは多様な種族の集まりだから、お前さんたちほど仲間意識が強くない。それでも胸は痛むのさ」

「それは……」

「不毛だと思わねぇか? お互いにお互いの大切なものを奪い合うってことが。俺も親父殿も、そいつに嫌気がさしたんだ」

 ユーロンは諭すように言った。

 しかし、オーウェンの決意は変わらない。

「仮に……人間と魔族で和平を結んだとしよう。だが、主義主張が対立し合った時はどうするのだ」

「その時は、じっくりと話し合うしかねぇよ。互いに妥協できるところまで、とことん」

「……それは理想論だ!」

 オーウェンが駆ける。ユーロンは傷が治癒したのを確認すると、アリスを守るように踏み出した。


「やってみなきゃ分からねぇだろ!」

 ユーロンはオーウェンを迎え討つべく、腰に下げていた柳葉刀を抜く。

 聖なる力を振るう勇猛なる騎士に対し、魔王が初めて武器を抜いた瞬間であった。

 オーウェンの輝ける剣をユーロンの刃が受け止める。重々しい音が響き、火花が散った。

ぶつかり合う魔王と聖騎士団副団長。

勝敗はいかに――。

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