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38 最弱聖女、太陽神の信者と遭遇す

 王都の前で止めて欲しい。

 御者に事前にそう伝えていたため、御者は王都が見える丘の上で馬車を止めてくれた。

 ユーロンが御者に支払いをし、馬車は港町に戻っていく。まるで、王都から逃げるかのように。


 丘の上からは堅牢なる城壁に囲まれた王都が窺えた。

 中央には堂々たる城が建っている。城は飾り気が少ない代わりに威厳に満ちていた。


 デルタステラの国王はまだ若いが、贅沢をせず質素な暮らしをしていると聞く。

 聡明にして厳格。しかし、民を慮って政をするため、支持は厚かった。

 特に、魔族の侵攻に対して目を光らせており、聖騎士団を結成したのも現王の功績だ。聖騎士団は各所に赴き、冒険者が手を焼く災害規模の魔族を鎮圧し、人々に平穏と平和を齎している。

 というのが、表向きの話であった。


 聖騎士団に無実の主を討たれたジギタリスは、王都を忌々しげにねめつける。彼女の主人の遺品は、聖騎士団が持ち去ったため王都にあるという。


「あの立派な建物は大聖堂かな」

 ラルフは、城のすぐそばに建つ荘厳な建物を見やる。

 武骨な城とは裏腹に、大聖堂は豪華絢爛であった。

 芸術品と見紛うほどの装飾があちらこちらに施されており、遠方からでも煌びやかなステンドグラスが窺える。天を貫くほどの尖塔がいくつも並び、国王がいる城をそっちのけで権力を誇示しているようにも見えた。


 アリスは眉間を揉む。

「凄まじい自己主張だな。王都の大聖堂は格別だと聞いたが、これほどまでとは……」

 郷里に置いてきた愛しき後輩であるミレイユが見たら、どんな感想を抱くだろうか。

「ずいぶんと新しいじゃねぇか。最近、改修でもされたのか?」

 ユーロンが色眼鏡を外し、目を細めて大聖堂を観察する。

「やはり、絶対神とやらと何か関係があるのだろうか……」

「かもしれねぇな。何やら、胡散臭いことになってるかもしれねぇ」


「あの……」


 突然、背後から声がかかる。一同は一斉に振り返った。

 またもや、頭からすっぽりとフード付きのマントを被った人物だ。どうやら女性のようで、辛うじて覗く双眸は一行を警戒しているかのようであった。

「皆さんは、王都へ?」

「そうだとしたら?」

 アリスは問う。

「王都は今、出入りが厳しく制限されています。門番に身分を証明するものを求められるかと……」

「身分を証明するなら、冒険者ギルドのタリスマンなんかはどうかな?」

 ラルフは自分のタリスマンを掲げる。そこには、個人情報が刻まれているのだ。

「冒険者ギルドのタリスマンであれば問題ありません。全員が、それを出せればの話ですが……」

 フードの人物は声を潜めたまま一行を見やる。

 アリスはタリスマンを持っているがお尋ね者だ。ジギタリスはそもそも魔族だし、ユーロンに至っては魔王である。

 ラルフ以外、城壁の向こうに行くことは叶わないだろう。

 ラルフもそれに気づいたようで、慌ててアリスたちを見やる。

「え、えっと、荷馬車を借りようか。ほら、三人がそこに隠れればいいし」

「門番は荷も改めます」

 フードの人物は、ぴしゃりと言った。

「それに、お前さんが門番を欺けるとも思えないしな」

 ユーロンの痛恨の一撃に、ラルフは「ぐぬぬ」と呻いた。正直者のラルフでは、門番を上手くあしらえないだろう。

「君は何が言いたい。我々に話しかけてきたということは、用があるのだろう?」

 アリスはフードの人物に尋ねる。


 フードの人物は、一行の一挙手一投足をつぶさに眺めた。まるで、アリスたちがどのような人物なのか見極めるように。

「皆さんは、そんなに疚しい人たちなのに、どうして王都に行こうとするのですか?」

「真実を、確かめるため」

 アリスは一点の曇りもなく、即答した。

「真実?」

「絶対神デウスを知っているか?」

 デウスの名が出た瞬間、フードの人物はヒュッと喉を引きつらせる。だが、辛うじて声を絞り出した。

「はい……」

「我々はその神に不信感を抱いている。私たちはそれぞれの目的があって王都に入ろうとしているのだが、いずれも一つに繋がっているのではないかと私は思っている」

 魔女を殺したのは聖騎士団で、アリスを指名手配したのも聖騎士団。そして、魔族を討伐して回っているのも聖騎士団だ。

 その聖騎士団は、絶対神デウスの意匠を掲げている。

「君は、何か知っているんじゃないか? だからこそ、我々に声をかけてきたんだろう?」

 アリスはそう言って、フードの人物の目の前で自らの姿を隠していたマントを取る。

 すると、フードの人物はハッと息を呑んだ。

 無理もない。指名手配されている人物が目の前にいるのだから。

「私はアリス・ロザリオ。冒険者にして元聖女であり、人間と魔族、全ての生き物に平等に光を届ける太陽神クレアティオの敬虔なる信者だ。デウスがクレアティオのご意思に反し、弱者を虐げる存在であれば、私は許容することはできない」

「あなたも――クレアティオの……」

「も?」

 アリスは、フードの人物の言葉を聞き逃さなかった。

 彼女は意を決したように一人頷くと、フードをするりと取った。


 緩やかにウェーブがかかった亜麻色の髪の若い女性であった。フードの下には純白の法衣を纏っており、太陽の意匠が施されている。

「まさか、聖女か……!」

「はい。私も太陽神様を信仰する者。そして、私たちは待っていました。王都の不穏な動きを探るための同志が訪れるのを」


 聖女はクレアと名乗った。

 どうやら、王都に通じる地下通路に彼女とその同志は潜んでいるらしい。アリスたちはクレアに案内され、地下通路へと向かった。

現れた王都の聖女。

彼女たちの身に何が起こっているのか――。

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