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36 最弱聖女、有翼少年の決意を聞く

 ミラが他の住民と話し合い、エミリオは彼らの住まいに受け入れられることになった。

 いい環境とは言い難いが、また奴隷商に捕まったり、兵士に排除されたりしそうになるよりずっといい。下水道の住民の種族はまちまちであったが、弱い者同士で身を寄せ合う彼らに、種族の壁は関係なかった。


 アリスたちが外に出るころには、すっかり日が沈んでいた。

 夜の帳が下り、闇がお尋ね者のアリスの顔を隠してくれる。

「これから王都に向かうのも難しいだろうな……。まあ、この辺りの宿屋は深い事情を聞かないだろうし、厄介になるとするか」

 アリスたちがいるのは貧困街だ。壁とベッドらしきものが辛うじてある宿屋ならばあるだろう。そういった宿屋は、金銭さえ積めば泊めてくれる。


「なあ、お前さんたち」

 ユーロンはぽつりと呟くように、アリスとラルフに向けて言った。

「どうした?」

「いや、助かったぜ」

 兵士に手を下そうとした時の話だ。ラルフが代わりに兵士を気絶させ、アリスがミラを信じてユーロンを誘導しなかったら、過ちが起こっていただろう。

「たいしたことはしていない。お互い様だ」

 アリスはミラがしたようにサラリとそう言って、ラルフが大きく頷いた。

「お互い様……か。仲間みてぇだな」

「少なくとも私はそう思っている。志に同意するところもあるしな」

 アリスもまた、ミラやエミリオのような出自のものが迫害されることが耐えられなかった。彼らにも、陽の下で生きる権利があると思っていた。

 ユーロンが、彼らも平等に生きられる世界を作りたいというのなら、アリスもまた手を貸したかった。

「……悪くない」

 ユーロンは、仲間という言葉を噛み締めるように頷く。

「旅仲間を作ったことは、あまりなかったのか?」

「まあな」

 ラルフの問いに、ユーロンは肩をすくめた。

 ユーロンもまた特殊な出自。

 だが、彼は上手く隠している。ならば、積極的に人と深く関わるのを避けていたのだろう。

 他の兄弟と上手くやれていないのも、彼の主張だけでなく出自ゆえなのかもしれない。

 アリスは、ユーロンの孤独を垣間見た気がした。

「ほら、行くぞ」

「あ、ああ」

 ユーロンはさっさと宿を探そうとする。


 しかし、アリスたちがその後に続こうとしたその時、声が掛かった。

「待ってくれ……!」

「エミリオ……」

 一同が振り向くと、そこにはエミリオがいた。息せき切ってやって来たのか、肩を揺らしている。

「頼む! 僕も連れて行ってくれ!」

「だ、だが……」

 危険な旅路だ。戦い慣れていない少年を巻き込むのは気が引ける。

 アリスはユーロンの方を見やる。

 エミリオの気持ちが向いているのは、ユーロンだ。彼に決断を任せようと思った。

「僕はあんたの役に立ちたい! 少しでも早く、僕たちのような異端が堂々と生きられるように……!」

「ずいぶんと懐いてくれたじゃねぇか。さっきはあんなに、ツンケンしてたのに」

 ユーロンは肩をすくめる。

 エミリオは、気まずそうに顔をそらした。

「最初は……信じられなかった。何か下心でもあるのかと思ってた……。俺のために怒ってくれた人は、初めてだったから……」

 ユーロンが彼らしくない行動をしたのは、エミリオの親が嘲笑されてからであった。そして、エミリオにとって、自分の親を庇ってくれた人間は初めてだったという。

 会ってからわずかな時間しか経っていない関係。それでも、お互いに信じるに足りる。


「だったら、待っててくれ」

「えっ?」

 予想していなかった言葉に、エミリオは思わず聞き返す。

「俺がこれから向かうのは王都だ。俺にとっちゃ敵地だし、お前さんにとっても危険な場所だ。だから、連れて行くわけにはいかない」

 ユーロンにぴしゃりと言われてエミリオはうつむくが、話には続きがあった。

「その代わり、お前さんは俺の居場所になってくれ」

「ユーロンの……居場所……?」

 エミリオが鸚鵡返しに尋ねると、ユーロンは深く頷いた。

「王都で事が済んだら、またここに戻ってくる。その時に、元気な顔を見せてくれりゃいい」

「それだけでいいのか……?」

「それがいいのさ。同じ混ざりモン同士、元気でやってるのを見ればやる気が湧くからな」

「そっか……」

 同じ、という表現が照れくさかったのか、エミリオは恥ずかしそうに目をそらす。

 そんな彼の肩に、ユーロンの手が優しく乗せられた。

「だから、お前さんは待っててくれ。俺もいい報せを土産にできるようにするからよ」

「わ、わかった」

 エミリオは素直に頷く。

 温かい絆が結ばれた瞬間だった。アリスたちは、その様子を温かく見守っていた。

「それじゃあ、また……」

「ああ、またな」

 ユーロンが立ち去るまで、エミリオは一行を見送っていた。


 アリスはユーロンの横顔を見ると、ふっと笑みを漏らす。

「エミリオと別れるのが、寂しいと思っているんじゃないか?」

 アリスは今までの反撃と言わんばかりに、ユーロンのことを小突く。

「馬鹿言え」

 ユーロンは名残惜しそうな表情を隠すように、さっさと宿を見つけるべく歩を速めたのであった。

少年の想いを受け取る魔王。

彼らの旅路の先に待つものは――。

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