表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/59

30 最弱聖女、助け舟を得る

 ユーロンは色眼鏡を外し、金の瞳で手配書をつぶさに見つめる。

「生死は問わないって書いてあるな。こいつは、相当なおかんむりのようだ。まあ、国王直属の聖騎士団に一発お見舞いしたし、わからんでもないが」

「私が、聖騎士団――すなわち王国から指名手配になるとは……」

 聖女だったアリスは、自ら教会を去り冒険者となった。しかし、それが一転して指名手配犯になってしまうとは。

「まずいな。お尋ね者になったら、冒険者ギルドの資格も剥奪だ。っていうか、アリスはこれから――」

 ラルフは緊張した面持ちで、アリスを見やる。


 張り詰める一行に対して、アリスは驚くほど冷静だった。

「命を狙われ続けるということか」


「冗談じゃない!」

 叫んだのはジギタリスだった。


「あいつら、無罪のマスターを処刑して、マスターを慕ってた人間を皆殺しにしようとしたのよ! それが、聖騎士団に逆らったからってアリスを指名手配するなんて、横暴じゃない!」

「本当だよ……! あまりにも理不尽だ。何のための、誰のための聖騎士団なんだ……!」

 ラルフもまた、握りしめていた拳を震わせていた。温厚で聖騎士団に憧れていた彼もまた、アリスのために怒っていた。

「どうすんだ、アリス。このまま、お尋ね者として生きるのか?」

 ユーロンが問う。


 しばしの沈黙の後、アリスは答えた。

「王都で、聖騎士団に直談判する。この指名手配は不当であり、解除するように、と」

 どうせ、彼らの不正を暴くために王都に行くつもりでいた。

 ジギタリスのマスターの遺品を回収し、ユーロンが和平のきっかけを得るべく動くというのなら、用事が一つ増えたところで構わない。


 アリスの凛とした表情を見た三人は、ふっと肩の力を抜いた。

「こんな時まで真面目よねぇ。聖騎士団を粛清パンチでふっ飛ばすつもりがないなんて、出来た聖女様だわ」

「正当な取引をしようとするのはアリスらしいや。俺は、アリスを手伝うよ」

 ジギタリスは苦笑し、ラルフは目を輝かせる。

 そしてユーロンは、いつものように口角を吊り上げた。

「面白いじゃねぇか。手伝えそうなら手伝ってやるぜ」

「頼もしいな。魔王が味方とは」

「まさか、元聖女様に歓迎されるとはな」

 軽口の応酬。その場の空気が和やかになる。


 しかし、そんな一行のもとに人影が差した。

「あんたたち……!」

 アリスたちは振り向く。

 するとそこには、昨日刺身を振る舞ってくれた東方の料理人がいた。その顔面は蒼白で、指名手配のことを知っているのは明らかであった。

「お客さん、アリスって名前でしたよね……」

「いかにも」

 誤魔化しても無駄だと思ったアリスは、正直に答えて料理人の出方を窺う。人を呼ぶようならば逃げようと、視線だけを辺りに巡らせて逃走経路を見出そうとする。


 だが、料理人は騒ぐことなく、声を潜めて手招きをした。

「大変なことになってるみたいですね……。うちの大将が教えてくれました。よろしかったら、うちに来ませんか?」

 アリスたちは顔を見合わせる。

 彼女らがいたのは、まさに大衆食堂の裏手であった。余所者お断りの店なので冒険者たちが来辛く、人気が少なかったのだ。

「すまない。しばしの間、場所を借りても構わないだろうか」


 アリスたちは頷き合うと、料理人とともに大衆食堂の裏口へ入る。

 そこには、従業員用の休憩所があった。休憩所の一角では、大将と呼ばれた食堂の主人が難しい顔をして座っている。

「あんたら、えらいことになってるな」

「申し訳ない……。町を騒がせてしまって……」

 うつむくアリスに、主人は首を横に振った。

「いいってことよ。それよりも、こんなんじゃ船に乗れねぇだろ」

「ああ……」

 アリスは頷く。

 王都へは内海を渡らなくてはいけない。陸地を往くと遠回りになるし、道中では危険が多い。だが、アリスがお尋ね者になってしまったため、元々乗るつもりだった船には乗れないだろう。

 では、どうすればいいのか。

 アリスたちは選択を迫られていた。リスクを承知で陸路を往くのか、別の船を用意するのか。


「だったら、うちの漁船を使え」

「なっ……」

 アリスたちの暗い道に、光明が射す。

 主人も料理人も、白い歯を見せて笑った。

「だが、私は指名手配犯で……!」

「訳ありなんだろ? あんたと話をして飯を食っているところを見たら、どう考えてもお尋ね者には見えねぇ。手違いか訳ありかのどちらかだ。俺は、自分の目を信じてあんたに手を貸そうと言うのさ」

 主人の大きな手が、アリスに差し伸べられる。アリスがその手を取ると、ぎゅっと力強く握手をされた。

 大きくて固い職人の手だ。そして、陽光のように温かい。

「有り難い。まるで、クレアティオのような慈悲深さと懐の深さだな」

「太陽神に喩えられるったぁ、光栄だね。まあ、無事に戻ってきた暁には、またサシミを食いに来てくれや」

「勿論だ!」

 アリスは力強く答える。それを聞いた東方の料理人は、嬉しそうに破顔した。

「悪いな。大事な漁船を出してくれるなんてよ」

 ユーロンもまた、主人に頭を下げる。

 魔王が人間の庶民に頭を下げるさまを見て、ジギタリスは驚愕のあまり、目玉をひん剥いていた。

「俺は、あんたのことも買ってるんだぜ」

 ユーロンが魔王だと知らない主人は、彼の肩をしっかり抱いて頭を上げさせる。

「俺のことを? そいつは嬉しいね」

「あんたの立ち振る舞いを見ていればわかる。あんたは高貴な身分だろう」

「どうだか」

 ユーロンは笑ってはぐらかした。しかし、主人は話を続ける。

「そんなあんたが一切偉ぶらずに腕相撲に応じ、こうして頭を下げてくれる。あんたはきっと、何か大きなことを成し遂げようとしているんだ。俺はそれの手伝いをしたいのさ」

「……その気遣い、心に留めておくぜ」

 ユーロンはやんわりと主人の腕をほどき、背を向けてひらりと手を振る。彼はその表情を、一切見せようとしなかった。


「照れ隠しかな」

 ラルフが小声でアリスに問う。

「そうかもしれないな。どんな顔をしていたか見たかったものだ」

「おい」

 頷くアリスに、ユーロンの刺すような声が飛ぶ。

「漁船で王都に行くんだろ。冒険者の連中がお前さんを見つける前に、さっさとずらかるぞ」

 有無を言わせぬ魔王の言葉。

 アリスたちは顔を見合わせると、にやりと笑って後に続いた。

途絶えかけていた道が繋がった。

次回、内海に出たアリス一行にまた一難が……!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ