表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/59

23 最弱聖女、聖騎士団分隊長と雌雄を決す

「ユーロン……」

「安心しな。お前さんは俺が守る」

 ユーロンは、アリスに背中を向けながら宣言した。

「ちょいと面倒くさい事情があってね。俺は反撃できねぇのさ。だが、盾になることはできる」

「……無理をするな」

「お前さんもな」

 ユーロンはひらりと手を振る。

 胡散臭く本心が読めない男だが、その背中は頼もしい。


「分隊長! こいつら、キリがないです!」

 ラルフたちの相手をしていた騎士が、悲鳴に近い声をあげる。

 技術も装備も、騎士たちの方が上だ。しかし、アリスの加護を受けたラルフや盗賊団たちの方が粘り強かった。

「妨害魔法は!? 聖女の術式を打ち消せば、あの忌まわしい結界も消えるだろう!」

「既にやってますが、全く潜り込めません! レベル1なのに、術式に全然隙が無い……!」

 騎士団の中にも、術者が数人いた。後方で何やらアリスの術式を妨害しようとしているが、アリスのひと睨みによって居すくんでしまう。

「聖女の技術はレベルでは測れんぞ! 油断するな!」

「してません! レベル30の術者が複数人で! 全力で妨害してもッ! まったく歯が絶たないんです!!」

「なーにーをーーーッ!」

 スペンサーはギリギリと奥歯を噛み締める。怒りと悔しさのあまり、こめかみに血管が浮かび上がっていた。


「レベル30の術者と言えば、相当な使い手だぞ……!」

 ラルフは騎士に応戦しながら、息を呑んだ。アリスに慄いているのは、ジギタリスも同じである。

「一人ならともかく、複数人の相手なんて私だってできない……。あいつ、実際のレベルはいくつなのよ……。あの妙な術式がこもったパンチで倒されたのも納得がいくわ……」

 レベル40のグリマルキンに恐れられるアリスは、結界を維持しながら、仁王立ちでスペンサーを見据えた。

「いい加減、諦めたらどうだ。お前たちがくだらない作戦を取りやめない限り、我々は諦めないぞ!」

 その姿は戦神のごとし。スペンサーと騎士団は、彼女の叫びに気圧される。


「ふっ……」

 スペンサーは唇を歪める。

「ふははははっ!」

「何がおかしい……」

「我々が! 貴様らを制圧する必要など無いッ! 何故なら、指先一つであの火薬を爆発させることができるからだッ!」

「なっ……!」

 スペンサーは下げていた道具袋から、何かを取り出す。

「それは……」

「遠隔着火装置! 火薬樽に直接着火するのは危険だからな。着火魔法を遠隔で発動させる魔法道具を持ってきたのだ!」

「王都にはそんな技術があるのか……! まさか、そいつを……」

「ご名答」

 スペンサーの親指が遠隔着火装置の起爆ボタンにかかる。

「隊長! それは我々が退避してからでないと……!」

「黙れ!」

 ざわつく騎士たちを、スペンサーは一喝する。

「貴様らも騎士ならば腹を括れ! 自分たちの身と任務、どちらが大事だ!」

「それは……!」

 騎士たちは言い淀みながらも、逃げようとはしなかった。動揺したのはむしろ、ジギタリスや盗賊団の男たちだった。


「あいつから魔法道具を取り上げないと!」

「……させるか!」

 先ほどまで戸惑っていた騎士たちが、迷いを捨てて行く手を阻む。スペンサーは、それを満足そうに見届けた。

「ふん。個々の正義などくだらない。お前たちのような無教養な庶民の無邪気な正義には反吐が出る」

「なんだと……!」

「弱者は何故、弱者だかわかるか?」

 スペンサーは憤る盗賊団たちに問う。

「弱い立場に生まれついたからだ……! テメェら貴族に理解できるものか!」

「馬鹿めッ!」

 スペンサーは吐き捨てる。

「それはなぁ、負け犬根性が染み付いているからだ! できないことに言い訳を探し、出自のせいにして底辺に甘んじている! 私はそういう連中が大っ嫌いなんだよ! 庶民から貴族に成り上がったやつもいれば、貴族から物乞いに落ちたやつもいる! 何の努力もせず、最初から最後まで強者のやつなんていないんだ!」

「くっ……」

「それなのに! 苦しい時は貴族や王様のせい! そんな連中、守る価値があるか!?」

 スペンサーの問いは、アリスに向く。

 アリスは答えなかったが、スペンサーはまくし立てる。

「私はそうは思わん! だから、強者の理に従い、弱者を切り捨てる! それが、よりよい世界を作るからだ! 負け犬どもの声を聞かなければ、絶対的な正しい世界になるはずだ!」

 スペンサーは起動ボタンにかけた親指に力を込めようとした。刹那、アリスは治癒魔法の結界を解除する。

 別の魔法に、集中するために。


「ユーロン、伏せろ!」

「はいよ」

 背後から叫ぶアリスに、ユーロンは何も聞かずに地に伏した。

「強者を絶対的なものとして崇める。そんな貴様こそ、私には負け犬に見える! 気に食わないものを憎む言いわけを探し、強き者に巻かれて思考停止する愚か者ッッ!」

 アリスの手に黒く輝くのは、即死魔法の大鎌だ。

 慈悲を捨てた聖女は、死神へと変貌する。


「貴様の根性、私が(ただ)す!」


 魔力の大鎌は、アリスの殺気とともに膨れ上がる。

 ただならぬ殺気にあてられて、一瞬だけ怯むスペンサー。その隙を、アリスは見逃さなかった。

 鋭利な大鎌は、スペンサーの左腕を一刀両断する。即死魔法の具現化たる大鎌に斬られたスペンサーの左腕は、再起不能なまでに弾け飛んだ。


 これぞ、粛清の一閃。即死を齎す一撃だ。

「うぎゃあああッ!」

「成り上がるだけが強さじゃない。素朴な暮らしの中にも宝を見つけることも、強さなんだ」

 スペンサーの手を離れた着火装置が、円を描いて宙を舞う。アリスはそれを慎重に手に取ろうとするが、血腥さが鼻先を掠め、影が阻んだ。


「なに……!?」

「負けるかぁぁ! 私は、私は正しく、そして強者なのだッ!」

 片腕を喪っても尚、スペンサーは着火装置に食らいつく。いななく馬を制御することも放棄し、落馬を物ともせず着火装置をもぎ取った。

 スペンサーは着火装置のボタンを逆さにしたかと思うと、そのまま地面に叩きつける。自らの身体もまた地に打ち付けられてただでは済まないというのに、受け身すら取らずに。


「こいつ……」

「は、ははは……。勝ったのは私だ……。私が強者だ……」

 地べたに転がり、血溜まりに身を埋めながらも、スペンサーは満足そうに気を失う。

 刹那、斜面に設置した火薬樽が爆破され、黒雲とともに派手な炎があがった。

「全員退避!」

 騎士団は一斉にその場から離れる。高台は地響きに見舞われ、大地に亀裂が入った。

スペンサーを倒したものの、次なるピンチがアリスたちを襲う!?

次回、ユーロンの正体がついに明らかに……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ