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21 最弱聖女、聖騎士団と対峙す

 アリスは獣道を指さす。

 そこには、山道に続いていた蹄の痕跡と轍が見て取れた。藪の小枝も切り落として間もないようで、辺りにチラホラと落ちていた。


「は……? まさかあいつら、俺たちのアジトに……?」

「急ごう」

 アリスは足早に獣道を往き、一同がその後を追う。


 荷馬車が通れるほど道が切り開かれていたため、皮肉にも先に進みやすかった。その間、規則正しい蹄の痕跡はずっと続いていた。


 やがて、視界が唐突に開かれ、曇天がアリスの目の前に広がった。

 山岳地帯の一角に、見晴らしがよく開けた場所があった。木を組んで作られた簡単な山小屋があり、日当たりのいい場所には小さいながらも立派な畑がある。


 間違いない。盗賊たちのアジトだ。


 彼らはここで過ごし、魔女の厚意を受け止めて社会復帰に努めようとしていた。

 だがその場所を、白銀の鎧をまとった高潔なる騎士たちが蹂躙していた。

「聖騎士団……!」

 アリスは息を呑む。

 彼らが自分たちとは格が違うことは、一目でわかった。

 曇天でも尚、わずかな陽光を反射して輝く鎧を全身にまとい、美しい栗毛の馬にまたがっている。スタティオで見たオーウェンたちは見当たらないので違う部隊なのだろう。

 格下の兵士たちは、一切の無駄がない動きで荷馬車から何やら樽のようなものを下ろし、岩肌に等間隔に設置していた。


 だが、統率が取れて美しい動きの彼らは、足元に一切目もくれなかった。そのせいで、盗賊たちの社会復帰の象徴たる畑が荒らされ、育ち始めた作物の青葉が踏みにじられているのである。

「な、なにやってんだ!」

 盗賊の男たちは声を荒らげる。

 突然の闖入者に驚くことなく、聖騎士団の中でも最も装飾が多い鎧をまとった騎士が振り返った。

 恐らく、彼がこの一団のリーダーなのだろう。他の作業をしている者たちは、闖入者に目もくれない。


「何者かな?」

 実に落ち着いたたたずまい。

 盗賊たちとの差は歴然だ。何せ、相手はあらゆることで一流の訓練を積んだ貴族の出身である。庶民のあぶれ者とはわけが違った。

「そこは俺たちのアジトだ! 勝手に何をやってやがる!」

「それは失敬」

 リーダーの男は馬にまたがったまま、アリスたちの前までやって来た。

「我々の緊急任務のため、この辺りは制圧させてもらった。本来ならば無償で差し出してもらうところだが、それはあまりにも理不尽というもの」

 リーダーの男は大袈裟に顔を覆いつつ、懐を探った。

「さしあたって、これくらいでどうかね?」

 彼は馬上から、チャリチャリと輝くものを放る。


 地面に落とされたのは、数枚の金貨だった。

 庶民の暮らしであれば、数ヵ月は働かずに暮らすことができ、社会復帰するにも充分な額だ。


 しかし、盗賊たちは目もくれない。尊大に放られた金貨を踏み潰した。

「ふざけんな!」

「金でどうにかできるもんじゃねぇんだよ!」

「やれやれ。このスペンサーの施しを受けず、感情のままに行動するとは。これだから庶民は狭量で困る。その金貨を受け取れば、貴様らの無礼やその他諸々を目零してやろうというのに」

 スペンサーと名乗ったリーダー格の男は、露骨に溜息を吐いた。


「……騎士殿」

 緊張した面持ちで、アリスが進み出た。

「ん? 少しは話が分かりそうな者だな。名を、何という」

「アリス・ロザリオ。パクスという村で聖女を務めていた者です」

「パクス? ああ、ひどく不便な田舎だと聞いているな。あんな場所に教会なんてあったのか」

 顎髭をさするスペンサーの無礼な言動に、アリスは頬を引きつらせつつも平静を装った。

「無礼を承知でお聞きしたい。彼らは一体、何をやっているのです?」

 アリスの視線は、樽状のものを岩壁に設置している兵士たちに向けられていた。その遥か下には、魔女の森と村が窺える。

 見晴らしがいいはずが、アリスはひどく不吉なものを見せられているような気がしてならなかった。


「火薬の設置だよ」


「火薬!? 炎神の力を借りずに炎属性のエネルギーを放出するという、錬金術師(アルケミスト)たちの秘薬……!」

 火薬という単語に、ジギタリスは息を呑み、盗賊たちすら慄く。

 魔法が発達しているこの世界において火薬は珍しく、製造できるのは一部の許可を得たアルケミストのみだ。魔法を習得していない者でも大きな力が使えるとし、近年注目を浴びているが、いかんせん、取り扱いに危険を伴うので導入が進んでいない。


 そんな火薬を、まさかこのような僻地で目にするとは。

「聖騎士団にソーサラーは多くない。火薬であれば、魔法を使う素質がない者も超常的な事象を発生させることができる」

「その話は……理に適っています。しかし何故、このような場所に火薬を設置するのです。これではまるで、山を爆破して森を――いや、森のみならず村までも土砂で埋めてしまおうとしているかのようだ」

 アリスの言葉に、スペンサーはしばらくの間沈黙していたが、やがて、ねっとりと口角を吊り上げた。

「さすがは聖女。察しがいい」

「森には善良なる魔女の住まいがあり、村には人々がいます。何故、そのようなことを!」

「そこに歪みがあるからさ」

 スペンサーは、何ということもないように答えた。

「歪み……とは?」

「魔女は下法を使っていた。魔族と交流し、魔族の知識を借りていた」

 魔族、と言われ、ジギタリスは身体を震わせる。彼女は自責の念に駆られているのか、顔色が優れなかった。

「仮に、それを歪みとしましょう。では、村を埋める理由は?」

「くどいぞ、聖女アリス」

 スペンサーは自分の顎髭の先をピンと弾いた。

「歪みに関わった者全てが歪みよ。あの村は悪しき魔女の恩恵を受けていた。魔族の穢れに汚染された土地なのだ。埋めてしまった方が得策だろう」

「……まるで、魔女の存在そのものを隠蔽するおつもりのようだ」

「フゥン……」

 アリスの言葉に、スペンサーは目をすがめる。

「何を言いたいのかな、聖女アリスよ」

「魔女が魔族と通じていたために処刑したという話、魔族は人類の敵という共通認識があるゆえに、納得しない者は少ないと思うのです。しかし、あなたたちは処刑の事実はおろか、魔女の存在すら抹消しようとしている。恐らく、魔族と通じていたこと自体はさほど問題ではないのです。問題なのは、その彼女が善良でいて周囲から慕われ、神格化されていたから――ではないですか?」

「ほう……?」

 アリスは盗賊の男たちをチラリと見やると、続けた。

「彼らは魔女に助けられ、生き方を変えようとした者たちです。彼女に何らかの異常が発生したと思うや否や、危険を顧みずに強敵に立ち向かうほどでした。村人もまた、魔女の悪しき噂に一切加担しようとしなかった。彼女は、周囲に慕われていたのです」

 村人たちはただ、森の中に入るなとだけ答えた。彼らはその原因が魔女だとは一言も言わなかった。

 それは魔女を慕い、悪い噂がでたらめであると察していたからなのだろう。

「聖騎士団は――いや、聖騎士団を動かしている王は何をお望みか。まるで、何らかの意図に反するものを排除していこうとしているようだ」

 聖騎士団の強行は不可解だ。水面下に陰謀を感じる。

 アリスはそれを見逃さなかった。

 そんな彼女の強き双眸を、スペンサーは静かに、そして冷ややかに見下ろしている。

「仮にそうだとして、聖女殿はどうする気かな?」

「そうでなくても、村を埋めることには反対します」

 アリスはきっぱりと言い放つ。

 スペンサーは鼻で嗤った。

「我らに盾突くというのか? それは、王都に牙を剥くということだぞ!」

 王都と聞き、ラルフや盗賊団の男たちはわずかに怯む。


 だが、アリスは微動だにしなかった。

「私は構いません。たとえ私一人であろうと、弱者を救いたい」

「俺も――村を埋めるのは反対です!」

 アリスの勇気に背中を押されたのか、ラルフもまた声をあげる。それに倣って、男たちも拳を振り上げた。

「俺もだ!」

「こんなの横暴だ!」

 男たちは口々に叫ぶ。だが、スペンサーは一喝した。


「しゃらくさいわ!」


 スペンサーの唾が飛び散り、辺りはしんと静まり返る。作業をしていた兵士たちもまた、アリスらに顔を向けていた。

「この辺り一帯を埋めることは、既に決定している。邪魔立てするなら、貴様らは全員、牢にぶち込むことになるぞ!」

 そこまで言って、スペンサーはハッとした。「いや」と口角を吊り上げる。

「反逆罪で、この場で処分するのがいいだろうな。その方が――都合がいい」

「……本性を現したな」

 アリスは忌々しげに吐き捨てた。

聖騎士団の横暴。怒るアリスたち。正義はどちらに!?


次回、聖騎士団との全面対決か……!?

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