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【書籍化&コミカライズ決定】最弱聖女でしたが「死神」になって全キルします  作者: 蒼月海里
3章 魔女が住まう森と聖騎士団
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18 最弱聖女、粛清パンチが炸裂す

 魔女ジギタリスとは交渉決裂している。

 彼女は何度も雷撃魔法で、アリスとラルフを襲っている。

 魔女に奪われる前に、奪わなくては。


「ラルフ! 電撃は風属性魔法だ! 放つ前に空気の流れが変化する。気を付けろ!」

「了解!」


 アリスは、タリスマンでジギタリスのレベルを計測する。

 ジギタリスのレベルは40.パーティーレベルよりも遥かに高く、交戦非推奨の範囲だ。


 だが、逃げるという選択肢はない。逃げては真実が遠のく。

 それに、盗賊とは言え、囚われている男たちを放っておくわけにはいかない。


 彼らはすがるような目でアリスたちを見つめている。

 それはまさに、弱者の眼差しだ。魔女によって搾取され続けた彼らから、他者から奪う気力というものは伺えなかった。


 一方、ラルフは、次々と繰り出されるジギタリスの雷撃を避けながら両手剣を構えて猛進する。

 ジギタリスとの距離は、一気に詰められた。

「悪いな! 倒させてもらう!」

「なめんじゃないわよ! 小僧!」

 ラルフが両手剣を振り下ろすも、小さな槍で受け止められた。

 インプだ。ジギタリスの使い魔が、主を守ろうとしているのだ。

「くっ!」

 純粋な力であれば、ラルフの方が強い。

 両手剣を振り切ってしまおうと力を込めれば、槍の柄は容易に軋んだ。

「ギィ!」

「このまま、真っ二つにしてやる!」

 勇猛な意志と勝利への確信。

 それが、ラルフにとって大きな隙になった。チリッと鼻先の空気が電気を帯びる。

「ラルフ!」

 アリスが警告するが、間に合わない。

 ラルフの両手剣に、魔女の紫電が落ちる。ラルフは呻き声をあげ、たたらを踏んだ。

「くそっ……」

「アッハハハ! 苦痛に満ちた顔の方が可愛いじゃないの、ボウヤ!」

 ジギタリスは腹を抱えて笑いながら、ラルフに更なる追撃を加えようとする。インプもまた、両手が痺れて剣をまともに持てないラルフに襲いかかった。


 しかし、アリスが動く方が早い。

「クレアティオの代行、アリス・ロザリオが行使する! 生命の源を奮起させ、かの者の傷を癒せ!」

 ラルフの身体が、陽光の如く優しい輝きに包まれる。


 治癒魔法だ。

 焦げ付いていた表皮も、麻痺していた神経も、あっという間に癒される。

「助かる!」

 感覚が戻るとともにラルフは両手剣を握りしめ、大きく振りかぶった。

 繰り出される力強い剣撃。無謀にも突撃してきたインプを一撃のもとに斬り伏せる。


「チッ! クレアティオの治癒魔法ってことは、聖女か! どおりでお綺麗な考え方をすると思ったわ!」

 ジギタリスは忌々しげに舌打ちをする。

「私はもう、聖女ではない。その資格はないからな」

「ふぅん。その割には、豊穣神クレアティオはまだあんたに門を開いてるじゃない」

「それは、神の慈悲だ」

「ま、何でもいいわ」

 ジギタリスの前に、次々とインプが立ちはだかる。ラルフは迫りくるインプたちを斬り伏せながら、ジギタリスの懐に潜ろうとした。


 だが、次の瞬間、ラルフは全身が総毛立つのを感じた。

 静電気で髪が逆立ち、指先にチリチリとした痛みが走る。

「風の流れが変わった……! アリス!」

 ラルフはとっさに飛び退いた。

 彼は、紫電を帯びつつ残酷に笑う魔女の姿を見た。


「無駄無駄無駄ァ! 深緑の魔女が命じる!」

 ジギタリスは右手を掲げる。彼女は印を切り、帯電した大気を集中させた。

「風神ウェントゥスに従属する風よ! 標的を地べたに這いずらせるために、私に従いなさい!」


「呪文詠唱……! 伏せろ! 大きいのが来るぞ!」

 アリスはラルフに、そして、固唾を呑んで勝負を見守っている男たちに忠告する。

 空気が冷え、大気が震える。アリスもまた、近くにあった石くれの山に姿を隠した。

「ひれ伏せ、人間ども! 『紫電爆裂(エレクトリック・ボム)』!」

 紫電の塊が無数に生まれ、魔女の呪文とともに拡散する。

 地下室は真昼のように明るくなるが、それも一瞬のことだった。紫電の塊が壁や床に触れた瞬間、大量の電力を放出しながら弾ける。


「くっ……!」

 アリスの目の前で、石くれの山が弾けた。焦げ付いた臭いが鼻を掠め、石のかわりに焦げ跡が残っていた。

 こんなのを喰らっては、ひとたまりもない。

「うわーッ!」

「助けてくれーッ!」

 紫電に巻き込まれたり、崩壊した壁に押しつぶされそうになったりと、男たちもまた逃げ惑っていた。ラルフは物陰に隠れて伏せていたため無事であったが、彼の目の前にあったであろう石の壁は半分が吹き飛んでいた。


「んー、人間が逃げ惑う姿はいいわねぇ。癖になりそう」

 ジギタリスは恍惚とした笑みを浮かべ、惨状の中、支配者のごとき堂々たる姿でたたずんでいた。


 その反対側で、アリスは先ほどから一歩たりとも動いていない人物がいるのに気づいていた。

 ユーロンである。

 彼は地下室の入り口付近の壁に寄りかかり、魔女との戦いの様子を微動だにせず見つめている。気配を殺して、影のように。

 そんな彼が、口を開いた。


「アリス。即死魔法を使いな」


「だが、あれは……」

「魔女は死なない。だが、それはお前さんの即死魔法が利かないって意味じゃねぇ」

 ユーロンは断言する。


 それが真実か否か。

 そして、相手が何を目的としているのか。


 躊躇するアリスに、ユーロンは続けた。

「盗賊とはいえ、無力な連中をこれ以上危険に晒したくないだろ?」

「……そうだな」

 アリスは頷き、ジギタリスと対峙する。


 いずれにせよ、時間をかけていられない。

 長引けば、捕らえられている男たちに大きな被害が及ぶ。魔女は彼らが傷つくことに躊躇わないどころか、楽しんでいる節すらある。

 相手にどんな事情があろうと、弱者をいたぶる輩は許せなかった。


「ラルフ!」

「おう!」

 気を取り直したラルフが、拳を振り上げて応じる。

「行くぞ」

「お、おう……」


 ジギタリスに即死魔法を仕掛ける。


 アリスの殺気がこもった双眸を見て、ラルフは察したらしい。緊張気味に頷いてみせた。

「何をごちゃごちゃとやってんの。作戦会議なんてしたって無駄よ」

 ジギタリスは豊満な胸を張ってふんぞり返る。

「いいや、そうとも限らないさ。俺たちは冒険者。どんなにレベル差があろうとも、チームワークでお前に勝つ!」

 ラルフがジギタリスに向かって駆ける。


「何がチームワークよ! 馬鹿の一つ覚えじゃない!」

 使い魔は既に尽きたのか、インプが現れる気配はない。その代わり、ジギタリスは詠唱を始めた。

 無慈悲にして高威力の、先ほどの大魔法だ。


「それとも、黒焦げになっても聖女サマに治してもらえばいいってわけ!? だったら、威力を上げて消し炭にしてやろうかしらね!」

 ジギタリスの周りに風の魔力が集中する。ラルフは避けない。

 彼は見極めようと目を見開いた。


「消し炭になれ! 『紫電爆裂(エレクトリック・ボム)』!」

 ジギタリスが放つ紫電の塊。今度は拡散することなく、突進するラルフに集中する。

「うおおおおっ!」

「上手に焼いてやるよ!」

 眩い閃光が弾け、辺りが光に包まれる。


 床が、積み上げられた石が、あらゆるものが電撃に焼かれ、白煙が辺りを包む。

 ジギタリスの目の前の地面は、真っ黒に焦げていた。床に焦げた両手剣が突き立っているだけで、ラルフの姿は影も形もない。


 ざわ、と戦いの行く末を見守っていた男たちがざわめく。

 ジギタリスは満足そうに、そして残酷に微笑んだ。

「あらあら。本当に消し炭になっちゃったかしら。可愛い子だったから、多少は手加減したのに」

 勝利を確信するジギタリス。


 しかし、後衛にいたアリスの姿がないことに気付いた。

「聖女は……!?」

 白煙が漂う周囲を見回そうとしたその時、ジギタリスは、背後に気配を感じた。


「はっ……!」

「捕らえたぞ、魔女!」

 アリスだ。彼女は白煙に紛れてジギタリスの後ろに回っていたのだ。

「ばかなッ!」

 アリスが魔女を羽交い絞めにする。


 一方、両手剣のそばの瓦礫の山から、姿勢を低くしたラルフがひょっこりと顔を出す。彼は電撃から逃れて、無事だった。

「ボウヤは囮だったってわけ!? 電撃を集中させたのは、閃光と煙で目くらましをするためだったのね……! ボウヤは両手剣を避雷針代わりにして逃げ、その隙に――」

「そう。ゼロ距離であれば、お前も魔法は使えまい!」

「なめるな、小娘!」

 ジギタリスは身体をよじり、アリスの腕から逃れようとする。

 しかし、アリスはびくともしなかった。

「クソッ!」

 ジギタリスは悪態を吐いたかと思うと、後ろ手でアリスの髪を引っ掴む。

「うっ……!」

 アリスは思わず呻き声をあげる。その一瞬の隙をつき、ジギタリスはアリスの腕から逃れた。

「たかが十数年しか生きてない人間のガキが! このジギタリス様に勝てると思うな!」

 激怒したジギタリスは、しなやかな足で回し蹴りを放つ。

 標的はアリスの顔面。髪を掴まれてなす術もないアリスが避けられるはずもなく、魔女のキックを真正面から受け止めた。

「がはっ……!」

「アリス!」

 アリスがたたらを踏み、ラルフが駆け寄ろうとする。


 ぽたぽたっと鮮血が滴り、床にべったりと染みついた。

 アリスは自らの鼻の奥に熱いもの感じる。鼻血だ。

 自らの鼻血を見たアリスは、自分の中で何かがぷつりと切れたのを自覚した。


「これが、堪忍袋の緒が切れたというやつか……」

「ハン、やろっての?」

 ジギタリスは三角帽子を脱ぎ、挑発的に嗤う。

「聖女サマの顔面にお見舞いするのって、こんなに気持ちいいと思わなかったわ。その可愛い顔を、二度と見られないように整形してあげる」

 大魔法を連続で使ったジギタリスは魔力的にも限界なのか、それとも生来の嗜虐的な性格が疼いたのか、あるいは両方なのかわからないが、アリスに拳を突き出してみせる。


 一方、アリスは鼻を押さえたかと思うと、ゴキッという暴力的な音を立てて歪みを直した。彼女は軽い治癒魔法をかけ、鼻の内部の出血を止める。


「貴様は――私が(ただ)す……!」


 アリスは縮地のごとき勢いでジギタリスに突進する。

「やれるもんならやってみな!」

 ジギタリスはアリスを平手打ちで迎え撃とうとする。

 だが、アリスは避けようとしない。


 バチン、と痛々しい音が響く。

 だが、アリスもまたジギタリスの法衣を引っ掴み、自らの頭をジギタリスのおでこに打ち付けた。

「オラァ!」

「――っ!」

 ジギタリスの視界に火花が散り、一瞬、気が遠くなる。しかし、同様のダメージを受けているにもかかわらず、アリスの頭突きの追撃が来た。


 ゴッと鈍い音が響き渡り、ラルフと男たちが息を呑む。

「う……ぐぐ……小娘ェ……」

 軽い脳震盪を起こしているのか、ジギタリスの足元はおぼつかない。だが、彼女と同等のダメージを負っているはずのアリスは、物ともしなかった

「まさか……私に攻撃しながら治癒魔法を……!」

「継続治癒魔法。一定時間、少しずつ身体を治癒していく魔法だ。鼻奥の出血を治した時に自らにかけた」

「クソッ……痛みを感じないなんて……チートじゃない」

「痛みは感じるさ」

 アリスは間髪を容れずに言った。


「殴ったその時は、お前と同じ痛みを感じている。痛みが継続しにくいだけで、痛いんだ。その痛みで、自分がやっていることを自覚できる」

「……敢えて相手と同じ痛みを感じようとしてるわけ? ドMなの?」

「それが、力を揮うものとして必要だと思っただけだ」

「そう――」


 真っ直ぐと見据えるアリスに対し、ジギタリスは足元にたまっていた砂利を蹴っ飛ばした。

「なっ……」

「でも、私は痛みを味わうなんて真っ平御免よ! あんた一人で痛い想いをしな!」

 目潰しに怯むアリスにジギタリスが拳を振るう。


 継続治癒魔法は、アリスが説明したように一定時間しか効果がない。時間を引き延ばせば引き延ばしただけ、アリスの優位性は失われるのだ。

「ぶっ潰れな! クソ聖女ッッ!」

「やむを得ん! お前の言葉を信じるぞ、ユーロン!」

 ジギタリスの拳が迫るが、アリスは避けない。それどころか、一歩踏み出した。


 ゴギャァ! と痛々しい音が地下室に響き渡る。

 ジギタリスの拳はアリスの頬に、アリスの拳はジギタリスの頬に食い込んでいた。


「ク、クロスカウンターッ!」

 ラルフが思わず叫ぶ。


 両者まったくの同時にして互角。

 だが、歯を食いしばって踏み込んだのは、アリスの方が早かった。


「私の拳で――」

「ちょ、待っ……!」

 ジギタリスの頬に右拳を食い込ませたまま、アリスは即死魔法を発動させる。

「貴様を(ただ)す!」

「うぎゃああっ!」


 漆黒なる二重のパンチが炸裂し、魔女の身体は派手に吹っ飛ばされる。力なく二、三回地を跳ねたかと思うと、床を転がって壁にぶつかった。


 土煙がうっすらと漂う中、魔女の身体はピクリとも動かない。

「決まった……粛清パンチ……」

 ラルフは拳を振るった体勢のままのアリスを見やり、あまりの凄まじさに戦慄した。


 囚われた男たちもまた、魔女が倒れたというのに、誰一人として歓声を上げなかった。

 アリスへの畏怖の方が勝り、ただ無言で彼女の動向を見守ることしかできなかった。

鼻血!頭突き!!クロスカウンター!!!

これが魔法使い同士の戦いか……!?

女子同士のガチンコバトルを書くのは初でしたが、楽しすぎてハッスルし過ぎました。


次回、魔女の正体が明らかに!?

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