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【書籍化&コミカライズ決定】最弱聖女でしたが「死神」になって全キルします  作者: 蒼月海里
3章 魔女が住まう森と聖騎士団
18/59

17 最弱聖女、魔女と遭遇す

 次第に話し声が大きくなり、それが苦悶に満ちていることが伝わってきた。

 それとともに、一定のリズムで金属音が聞こえる。やがて、階段が終わって開けた場所に出て――。


「な……、これは!」

 ホールのように天井が高く広々とした地下室。岩盤を切り崩して作られたそれは、木造の骨組みに支えられている。


 そこに、男たちがいた。

 罠に掛かっていた男と同じく簡素な服装で、岩壁に齧りついてハンマーを振るっていた。

 彼らはタガネが打ち付けられてひび割れた石片から輝けるものを選別し、ねこぐるまに乗せて奥へと運んでいく。


 作業をしている男たちを見張るのは、槍やら鞭やらを持ったインプだ。インプは極卒のごとく男たちを責め、ひと時たりとも手を休ませようとしなかった。

「古城の地下で採掘をしていたのか‥…」

「あれは魔石だ」

 息を呑むラルフに、アリスが言った。

「魔石って、魔力を含んだ鉱石だよな。魔法道具に使ったり、武器の魔法耐性を上げる時に使ったりするやつ。希少だし高額なんだっけ」

「ああ。この辺りの地質は、魔石が含有されていて魔力が高いのだろう。だから、先人は城を築いたのかもしれないな。魔石が地中に埋蔵されているならば、城内で儀式をしやすい」

「それじゃあ、なぜ、今になって採掘を……?」

 ラルフは疑問を浮かべる。

「魔石を利用しようとしているんだろうが、その目的は――」

 そこまで言って、アリスは口を噤む。


 採掘している男の一人の様子がおかしい。

 ふらふらとおぼつかない足取りで明後日の方向へ歩き出したかと思うと、唐突に倒れ伏した。


 過労だ。

 男の顔色の悪さを見れば、アリスには一目瞭然だった。このまま放置していても危ないというのも分かっていた。

 しかし、それを見つけたインプは、更に鞭を振るおうとする。周囲の男たちも、報復を恐れてか見て見ぬふりをしていた。


「やめろ!」


 気付いた時には、アリスは飛び出していた。

 男たちが何者であったとしても、病人は弱者だ。強きをくじき弱きを助けるアリスは、見過ごせなかった。


「ギッ!?」

 突然の闖入者に、インプはギョッとする。だが、アリスが即死魔法の大鎌を生み出す方が早かった。

「弱者に追い打ちをかけようとする貴様らは、私が処――」

 インプに猛然と即死魔法を振るうアリス。絶体絶命のインプ。


 しかし、その間を切り裂く紫電が走った。

「なっ、雷撃魔法……!?」

 アリスはすんでのところで飛び退く。

 命拾いをしたインプはたたらを踏み、地下室の奥を見やった。


「警備の連中がやられたから何事かと思ったけど、こんな小娘が遊びに来てたなんてねぇ」


 毒々しくも美しい紫の髪を気だるげにかき上げながら現れたのは、蠱惑的な肢体の女であった。

 彼女は薄布でできた法衣を身にまとい、美しい貌から高慢を滲ませつつ、周りにいるインプに大きな扇で煽られながら悠々と現れた。

 頭には大きな三角帽子を被っている。伝統的なその帽子は、魔女の証だ。


「お前が魔女か……!」

 アリスは倒れた男を庇うように立ちはだかり、魔女を睨みつける。ラルフもすぐに駆け付け、アリスとともに魔女と相対した。


「そういうあんたたちは何なのよ。可愛い男女二人でデートかしら?」

「ラルフと私はそのような不純な関係ではない! ただの仲間だ!」

 アリスは即答した。

「ふ、不純……! ただの仲間……」

 ラルフはひっそりと傷ついていた。魔女はそれを見逃さなかった。

「……あらー、ワンチャンあると思ったのかしら。でも、そこの堅物で目つきが怖い女より、私の方がイイことできるわよ」

 魔女は誘惑的な眼差しをラルフに送る。初心なラルフの顔は反射的に赤らむが、彼は強い自制心を以って首を横に振った。

「不要! 俺はそんな目でアリスを見たこともないし、アリスが純潔を好むならば俺も純潔を貫く!」

「あらあら、フラれちゃった。まあ、私は堅物を落とす方が好きなんだけど」

 誘惑の視線はアリスに向けられる。次の標的はアリスだと言わんばかりに。

「ダメだ! アリスを狙っているなら、まずは俺を倒せ!」

 その間に、両手剣を構えたラルフが割り込む。その燃え滾る眼差しは、自分が狙われた時よりも明らかに強かった。


 まさに一触即発。修羅場の予感。


 一方、話題の中心のアリスはというと――。

「そうだな……。相手は簡単に間合いに入れてくれないだろう。前衛は君に任せて、私はサポートに回ろう」

「アリス……?」

 アリスは誘惑の矛先が自分に向いたことに気付かず、真面目に戦略を考えていた。もはや、色恋沙汰など眼中にないと言わんばかりだ。

「安心してくれ。君の背中は私が守る」

「た、頼もしいよ……」

 ラルフは行き場のない巨大感情を胸に、辛うじてそう返した。

「……苦労しそうね、あんた」

 魔女もまた、空回りをするラルフに同情的であった。


「そんなことより」

 アリスはその場に渦巻くなれ合いの空気を一蹴する。


「お前が森に住まうという魔女か。何故、男たちを奴隷のように働かせて鉱石を掘っている!」

「答える前に、一つ質問していいかしら?」

「なんだ?」

 魔女の問いに、アリスは訝しげに答える。

「あんたたちは何者? 王都の聖騎士団じゃなさそうだけど」

「我々は冒険者だ。依頼は、個人から受けている」

 アリスは遥か後方からユーロンの視線を受けながら、さらりと説明した。

「ふぅん。それで、私を討伐しようってわけ?」

「必要であれば」

 アリスの言葉に、魔女は鼻で嗤った。

「雇われごときの冒険者が、自分で判断とはねぇ。あんたたちに正義なんてない。金で動くくせに」

「我々は違う」

「へぇ」

 魔女はせせら笑うが、アリスは一切怯まなかった。

「ゆえに、我々の判断で奴隷のように働かされている人間を解放する! それを阻むのならば、お前を処さなくてはいけない!」

「はっ、面白い! あいつらが何者か知らないくせに!」


「盗賊だろう」

 間髪容れずに答えたアリスに、魔女はギョッとした。


「な、なんで知って……」

「もしかしたらと思っていたが、当たりだったようだな」

「あんた、私にカマをかけて……!」

 魔女は悔しげに唸る。

「彼らの仲間を森で助けた。そいつの身のこなしや身体つきは、ただの村人とは言い難かった。それに加え、解放されたにもかかわらず村に帰る様子はなかった。村人であれば、いくら囚われている仲間が心配とは言え、まず、自分の家や家族のもとに行くだろう」

 冒険者が魔女の元へ行き、仲間を解放してくれる可能性があるのなら尚更だ。


「ど、どういうことだ……?」

 目を白黒させるラルフに、アリスはやんわりと説明をした。

「山岳地帯には盗賊が潜んでいると言っただろう? そいつらが古城を襲撃して、返り討ちにあったんだ。古城の荒れた様子は、その時の名残だろう」

「魔女から有用なものを奪うつもりが、自分たちが労働力として囚われたってことか」

「恐らく」

 アリスは頷いた。

「そこまでわかってるのなら、どうしてあいつらを解放しようとするのよ。盗賊なんて、弱者から奪う例の最もたるものじゃない。あいつらが弱者の人権を認めないのと同じで、あいつらにも人権なんてないわけ。村や旅人も、盗賊がいなくなって清々してるんじゃない?」


「お前の言い分は間違っていない」

 アリスはまず、魔女の主張を肯定した。


「確かに、奪う者がいなくなって助かる者たちはいるだろう。それに、奪う者が奪われるのは当然の報いという見方もある」

「じゃあ、私のやることに口を出すんじゃないわよ」

「だが」

 アリスはぴしゃりと言った。

「より強者が――盗賊から奪われていない第三者が盗賊から奪うというのは、結局は盗賊たちがやっていることと変わらないと思わないのか?」

 アリスの主張に、魔女は一瞬だけ押し黙る。


 だが、すぐに重々しく口を開いた。

「……あんたは」

「ん?」

「あんたはそうじゃないって言えるわけ? あんたは私が使役したインプを殺した。あんたもやってることは変わらないじゃない」

「そんなわけないだろう!」

 反論したのは、ラルフだった。

「あいつらが俺たちに襲いかかって来たんだ! 降りかかる火の粉を払うのは当たり前だ!」

「ラルフ」

 アリスはやんわりとラルフを制した。

「……魔女の主張はもっともだ」

「アリス! あれは正当防衛だって!」

「インプの件だけじゃない。私は常に、自らが振るう力が本当に正しいかどうか、考えなくては」

 そう、アリスもまた自覚があり、葛藤していた。

 アリスは今、弱者を守るために奪う者と化した。しかし、自分が振るう制裁の大鎌は、本当に正しいのかと。


「だからこそ、見極めたい」

「はぁ?」

「お前が何を目的として魔石を採掘しているのかを。悪逆非道な魔女が暴れていて、聖騎士団が動いているという話だけは聞いている。だが、その裏に隠された真実を私は知りたい」

「真実ねぇ」

 魔女は肩を竦める。


「はー、正論ばっかりで嫌になる」

「どうした?」

「あんたを見ていると、お堅い聖騎士団を思い出すわ。あいつらって本当に――」

 魔女の右手に魔力が集中する。


 殺気を感じたアリスは叫んだ。

「ラルフ、避けろ!」

「ムカつくのよ!」

 魔女が放つ雷撃を、ラルフは後方に飛び退いて避ける。


 彼が立っていた場所は真っ黒になり、焦げ付いた臭いを漂わせていた。

「間一髪……! アリスが教えてくれなかったら死んでた……」

 先ほどまでの戯れなど嘘のように、魔女は殺気をまとい、敵意に満ちた目で二人を睨みつける。

「聖騎士団はきっと、この古城を襲撃しようとしている。だから、私は魔石を一つでも多く採取して、戦力を増やそうとしてるのよ!」

「聖騎士団と全面戦争をする気か!」

「当たり前じゃない。あんなムカつく連中、全員黒焦げか奴隷にして一生こき使ってやるわ!」

 魔女の溢れる魔力が静電気を発しているのか、長い髪は猛る獣のように逆立ち、怒髪天のごときとなっていた。

 魔女の気迫に圧され、前衛のラルフはじりっと半歩下がる。


「あんたたちはあいつらと似てる! 自分が正しいと思って高潔ぶって! そのお綺麗さにヘドが出る! この魔女ジギタリス様が、あんたたちに地べたがいかに苦いか味わわせてあげるわ!」

「お前の名はジギタリスというのか! 私はアリスだ!」

「様をつけなさいよ、小娘がッッ!」

 ジギタリスの雷撃が、律義に名乗るアリスに向けられる。

 それをラルフが両手剣で防いだ。「お、俺はラルフ……!」と遠慮がちに自己紹介をしながら。


「話し合えないのか!」

 アリスは問う。だが、ジギタリスは鼻で嗤った。


「無理ね。あんたたちみたいなお綺麗な連中と話してると、むかっ腹が立ってきちゃって。今すぐその口を封じてやりたいくらいだもの」

「だが……!」

「ごちゃごちゃ煩いって言ってんだよ!」

 ジギタリスは雷撃を放ち、アリスはなんとか飛び退いた。


「無理だ、アリス!」

 ラルフは気持ちを切り替えていた。

「そもそも、聖騎士団と対立し、インプを使役するような奴だ! 俺たちが助けたホフゴブリンたちみたいに脅されているわけでもないし、戦わなきゃ!」

「それは……」

 王都の聖騎士団は魔族を葬る者たちであり、王国デルタステラにおける正義。

 その正義が敵とみなした者は悪なのだ。


(果たして、本当なのか?)


 何かが引っかかる。アリスはまだ全てを知らない。

 それなのに、即死魔法の大鎌を振るっていいものか。


(いや、迷っている暇はない……!)

 アリスは腹をくくる。

新キャラの登場です!


次回の更新は金曜日!

ジギタリス戦の熱いバトルをお楽しみに!

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