13 最弱聖女、善き仲間を得る
その後、マリアンヌとポチを捕らえ、冒険者ギルドに引き渡した。
アリスとラルフの報告を聞き、ギルドは二人の証言をもとに調査したのち、適切に処理すると答えた。
一方、依頼はゴブリン騒動の解決だったので、主犯を捕らえたことと、近隣に住むゴブリンに敵意がないということが相俟って、依頼達成という判断になって報酬が支払われた。
ゴブリンの子どもたちは二人によって解放され、ゴブリンの巣へと送られた。
彼らは怪我をしていたり病気になったりしていたが、アリスが奇跡を行使することで健康な身体を取り戻した。
ホフゴブリンはアリスとラルフにぺこりと頭を下げ、他のゴブリンもまた、彼らが集めたであろう食糧や、見目がいい鉱石を二人にプレゼントしてくれた。
「なんか……不思議な気分だ」
ゴブリンからもらった、ちょっと歪だが透明度が高い水晶を眺めながらラルフが言った。
「どうしてだ?」
町へ続く街道を歩きながら、アリスは問う。
「ゴブリンは人間を襲うし、冒険者が駆除するものだと思ってたからさ。助けるのは初めてだし、感謝されるとは思わなかったっていうか……」
「人間もまた人を害する。だが、人間を駆除しないだろう?」
「そりゃそうだ。みんながみんな、そういう連中じゃないし」
ラルフはそう答えて、ハッとした。彼の気付きに、アリスは微笑む。
「ゴブリンだって、人を襲わない連中がいる。そういう奴らは倒さなくていいんだ。要は、相手の心がけ次第ということだな。そこに、種族は関係ない」
「ははっ、流石は元聖女様。説教が上手いな……」
完敗だ、とラルフは肩を竦める。
「最初は、アリスが元聖女様だということをちょっとだけ疑っていたんだ。なんでこんなところに、って思ってたから」
「それはそうだ。君の疑念は尤もだ」
「で、でも!」
ラルフは勢い任せに、アリスの手を取る。
「今は信じてる。ゴブリン相手に冷静な判断を下せた聡明さ、ゴブリンの子どもたちを癒す慈悲深さ。あれを見たら、聖女様だということを疑いようがない!」
「元、だがな」
アリスは、やんわりとラルフの手を解いた。
「……マリアンヌに使った魔法。あれと何か、関係があるのか?」
あんなもの見たことがない、とラルフは頭を振る。彼の真っ直ぐな瞳に、畏怖が見え隠れしていた。
「……君には世話になった。事情を、説明した方がいいかもしれないな」
「あ、ああ」
他言にしないことを条件に、道すがら、アリスはラルフに事情を語る。
盗賊団が村を襲おうとしたこと、あるきっかけがあって即死魔法を会得したこと。そして、即死魔法で盗賊団を全滅させ、自分は教会を去ったこと。
死神との出会いや時間の巻き戻しのことは、伏せておいた。アリスにもそれらの正体が全くわからなかったので、説明のしようがなかったのだ。
「即死魔法……。確かに、マリアンヌの鼻を一瞬で完膚なきまでに再起不能――つまり、即死させた。あれが普通の魔法ではないことくらい、フェンサーの俺でもわかる……」
「私は、奪われる者を守るために、奪う者を処す。この力は、そのために使いたいと思っている」
アリスは自分の手のひらを見つめる。今や、すっかり汚れてしまったその手を。
「すごいな、アリスは……」
「ん?」
ラルフの目には、やはり畏怖が滲んでいた。
しかしそれよりも、尊敬のまなざしの方が強かった。
「そんな強い力を手にしたら、マリアンヌやポチみたいになってもおかしくないのに。それでも、アリスは力が弱い人たち――いいや、人だけじゃなくて、魔物すらも救おうとしている……!」
「ラルフ……」
「元じゃない。君は真の聖女様だよ。君の高潔さは、卑しい連中の返り血で汚れても尚輝き続けるはずだ。俺はそんな君の手助けをしたい。君の旅に、同行してもいいか?」
日は傾き、夜になろうとしている空の下で、ラルフの瞳は星々よりも力強く輝いていた。
その美しさに、アリスは思わす息を呑む。気づいた時には静かに頷いていた。
「ああ。あてのない旅だが。君さえよければ」
「やった! 有り難う、アリス!」
「礼を言うのはこちらの方だ。君のように真っ直ぐな仲間がいると頼もしいからな」
アリスは手を差し出す。ラルフは嬉しそうに手を出すが、自分の手が泥だらけなのに気づき、律義にマントで拭ってから握手を交わした。
ラルフの手は温かく、頼もしい。ごつごつした剣士の手だ。
「あっ、そうだ」
見つめ合っているのが照れくさくなったのか、ラルフはパッと手を離して話題を変える。
「自分のレベル、タリスマンで見てみたらどうかな。さっき確認したら、俺はレベルが上がってた。ポチと戦って経験が詰めたんだと思う。アリスはどう?」
「ふむ」
アリスは自らのタリスマンを取り出し、自分のレベルを表示するよう念じる。そこに現れた表示を、さらりと読み上げた。
「1のままだな」
「嘘ぉ!?」
ラルフは目を丸くして、自分のタリスマンでアリスのレベルを測り、アリスのタリスマンを覗き込み、信じられない表情でアリスを見た。
「本当だ……。レベル1だ……。なんで……?」
「君のタリスマンでも同じということは、タリスマンが不良品というわけではないようだな」
「冷静過ぎでしょ! 君のことだよ!?」
ラルフは、混乱する頭を抱える。
「っていうか、君は盗賊団も全滅させてるよね。それなのに初期レベルのままっていうのはおかしい……。冒険に関する経験は、充分に詰んでるはずじゃあ……」
「タリスマンが判定する範囲の経験を、詰んでいないのかもしれないな」
「どういうこと?」
「タリスマンに内蔵された解析魔法は、主に戦闘経験を判断してレベル判定をしているようだが、私は詰んでいないとみなされているんだ、戦闘経験を」
「ああっ! そ、即死させてるから……!」
タリスマンが判断するのは、主にどれだけの時間戦ったのか、どれだけの技術を使い、どれだけ能力を向上させたかなど、その辺りだろう。
だが、即死魔法は一瞬で雌雄を決す。そのため、経験はゼロに等しいと判断されてるのだ。
「欠陥品じゃないか! アリスの強さを正当に評価できないなんて!」
ラルフは悲鳴をあげる。一方、アリスは平然としていた。
「即死魔法なんて使う人間はいないから、想定外なのも仕方がない」
「でも、アリスはずっとレベル1で最弱判定に……」
「ギルドの活動に制限がかかるのは由々しき事態だが、幸い、君という頼もしいパーティーメンバーがいる」
ぽむ、とアリスはラルフの肩を叩く。正しくレベルを上げているラルフさえ同行していれば、ギルドの制限には引っかからない。
「それはそうだけど……。納得いかないなぁ」
「私一人の基準に合わせてもらうわけにもいかない」
「そりゃあ、そうだけどさぁ。アリスの強さと尊さを誰もわからないなんて……」
ラルフは自分のことのように項垂れ、重い足取りでアリスについて行く。
「そんなことよりも、今日の夕飯はどうするかな。報酬が支払われたことだし、満腹になるまで食べられそうだ」
「マイペース……。まあ、お腹は空いたけどさ」
身体も動かしたし、魔法もたくさん行使した。アリスはすっかり腹ペコで、報酬で何を食べようかと悩んでいた。
アリスとラルフ、確固たる仲間のキズナが結ばれる。
次回、あの男が再び!?




