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【書籍化&コミカライズ決定】最弱聖女でしたが「死神」になって全キルします  作者: 蒼月海里
2章 冒険者ギルドと新たな仲間と初仕事
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10 最弱聖女、聖騎士団と遭う

 町は相変わらず人通りが多かった。


 すれ違うのはアリスの知らない人ばかりであったが、今は隣に頼もしい仲間がいる。

「さて、と。アリスは装備を整える? 俺はこの町の武具店で顔が利くし、少し負けてもらえるかも」

「いや、恥ずかしいことに、私は今、一文無しなんだ」


「えっ」

 ラルフは目を剥く。

「聖女様が、一文無し?」

「元、だ」

「訳ありって感じかな……。なんか奢ろうか?」

「施しは受けない」

「ストイック過ぎるだろ! 逆に受けてよ! お布施をさせて!」

 ラルフが財布を取り出そうとするが、アリスは強引に懐へ戻させる。

「い・ら・んと言ってるだろう……! だいたい、今は聖女ではなく、君たちと同じ冒険者なんだ」

「でも、基礎的な装備がないと……」

「儀式用の短剣もロッドもある。それだけは教会から持ってきた。それに、アーマーはないがマントはあるしな」

「まあ、後衛は重たいアーマーを付けない方がいいまであるしね。それだけあるなら大丈夫か」

 ラルフは安堵しながらも、念のため、と大通り沿いにある武具屋の場所をアリスに教えてくれた。律義な青年である。


 その時であった。

「なんだ、あれ」

 大通りに人だかりが出来ているのを、ラルフは見つける。

 希望に満ちた表情の人々が囲むのは、白馬に乗った白銀の甲冑をまとう騎士たちであった。彼らが掲げる旗には、純白な六枚の翼が記されている。

 アリスは、それに見覚えがあった。


「聖騎士団……」

「えっ、あれが噂の!?」

 聖騎士団の名を聞いた瞬間、ラルフの双眸もまた、希望の光に溢れた。


 聖騎士団とは、アリスたちが住まうデルタステラ王国が組織した、対魔族特化部隊である。

 主に災害級の魔物の討伐を行う、王国の中でも選りすぐりの集団だ。

「騎士の中でもエリート中のエリートじゃないか。強いんだろうなぁ。憧れるなぁ……」

 ラルフは人だかりの最後尾から聖騎士団を見つめる。


 白銀の甲冑の騎士たちは、いずれも隙が無いたたずまいであった。憧れの眼差しを向ける民に手を振り返すような気さくな騎士もいたが、もし人込みから暴徒が現れても、かわすことが出来るだろうとアリスは踏んでいた。


 そんな中、小さい影が彼らに向かって飛び出した。

「あっ」

 人々が止める間もなく、その影は騎士たちの目の前に躍り出る。


 それは、幼い少女であった。


「無礼者!」

 騎士の一人が窘める。群衆の中から、母親と思しき女性が飛び出した。

「申し訳ございません!」

 母親は少女を抱きかかえ、騎士たちに頭を深く下げながら下がろうとする。

 しかし、少女は大地に両足を踏ん張り、騎士たちに何かを差し出した。


 それは、花だった。小さくも美しく、健気に咲いた白い花だ。

「なんだそれは。野山に咲く雑草ではないか」

「待て」

 胡乱げな表情の騎士を、他の騎士が制した。


 ターコイズブルーの瞳の、美しい青年騎士だ。

 騎士団の他の誰よりも若かったが、彼のまとう空気は獅子のように頼もしく、また、ひと際豪奢な甲冑は、彼がその一団の中で最も位が高いことを示していた。


「オーウェン・バージェス副団長……!」


 その美しい騎士の名は、オーウェンというらしい。

「我らの刃は王国の民のためのもの。その民を蔑ろにしては、聖騎士団の名に傷が付く」

 オーウェンは馬から降りて、少女に歩み寄る。


 母親は恐縮しきって震えていたが、少女は星のように輝く瞳でオーウェンを見上げていた。

「先ほどは失礼した、お嬢さん。我々に何か伝えたいことがあるのかな?」

 オーウェンは少女の目線に合わせるように膝を折ると、やんわり尋ねる。


 すると、少女は大きく頷いた。

「鉱山のワイバーンを倒してくれてありがとうございます! これで、お父さんも安心して働けます!」

「すいません……。うちの主人は鉱山の労働者だったので……」

 母親はか細い声で、娘の言葉に付け足す。


 どうやら、聖騎士団は近郊の鉱山に出るというワイバーンを駆除した後らしい。

 ワイバーンはドラゴン属の亜種で、一介の冒険者では手に余る相手だ。それが鉱山に住み着いたとなれば、働くことなどままならず、操業停止となってしまう。その上、鉱山から資源が採れないのであれば、それを原料とするものも作れず、経済的にも大きな打撃となるだろう。


 そこで、高い能力を持ち、集団戦が得意な聖騎士団が赴いたのだ。

「君の父親の仕事は、国家の礎の一つ。それを守るのが我々の仕事だ」

 オーウェンは、少女が差し出す小さな花を、静かにそっと受け取った。すると、少女は満面の笑みになった。

「君の心遣い、有り難く受け取ろう。この花にかけて、私たちは国民を守るよ」

「うん。騎士さま、がんばって」

 少女は歯を見せて笑う。

 少女の母親は、騎士への非礼に慌てていたが、オーウェンはまったく気にした様子もなく、花を収納袋に丁寧に入れてから馬に乗った。


 オーウェンは他の騎士から、「我々は貴族なので、庶民の目線で話さなくとも……」などと窘められていたが、耳を貸す素振りもなかった。

 その代わり、群衆に向かって高らかに叫ぶ。


「魔族に日々を脅かされる諸君!」

 オーウェンは騎士団の紋章が描かれた旗を掲げる。雲一つない青空に、それは驚くほどに映えた。


「魔族は卑劣で残忍で、我ら人類の栄華を妬み、文明の火を消そうと襲い掛かってくる。だが、我々、聖騎士団には神の加護がある! 必ずや、人の領域を侵す魔族を根絶やしにしよう!」


 オーウェンの宣言に、群衆から歓声が上がる。

 オーウェンにあしらわれた騎士たちもまた、それによって気持ちが切り替わり、お互いに頷き合った。


 士気が戻った騎士団は、群衆の歓声を浴びながらその場を去る。彼らの背中が見えなくなるまで、群衆は誰一人として帰らなかった。


「いやぁ……、カッコいいなぁ……」

 ラルフはすっかり魅了されていた。

「確かに、あのオーウェンという人物、なかなかの器のようだな」

 アリスは、去り行く彼らをじっと見つめていた。いや、正確には、彼らが掲げる紋章を凝視していた。

「どうしたんだ、アリス。なんか怖い顔してるけど」

「む、失礼」

 アリスは、いつの間にか寄っていた眉間の皺を揉む。

「少し、引っかかることがあってな」

「えっ、何が?」

「彼らが加護を受けている神とは、どの神かと思ったんだ」

「おお、さすがは元聖職者……。やっぱり、六神の中のどれかじゃないか?」


 世界は六柱の神によって維持されている。

 太陽神にして豊穣神のクレアティオが世界を照らして生命を生み出し、従神エラトゥスが闇に迷う者を導いて死者を受け入れ、炎神サピエンティアが文明と破壊の炎を司り、水神バーシウムが恵みと惑わしの水を司り、地神フマニタスが食糧と資源を育む土を司り、風神ウェントゥスがそれぞれの神の加護と幸運を運ぶ風を司る。


 クレアティオを最高神とし、その補佐にエラトゥスが存在し、その下に四元素を司る神々がいるという構造だ。

 地域によって他にも神々がいるというのはアリスも知るところであったが、王国であるデルタステラが主要な六神以外を特別支持するというのも不自然だ。


「やっぱり、クレアティオ様とか?」

「いいや。彼女に三対の翼などない」

 アリスは、聖騎士団の紋章である六枚の純白の翼を思い出す。だが、それはどれの神にも当てはまらないものだった。

「言われてみれば、確かに……。何を象徴しているんだろうな……」

「まあ、本人たちに聞いてみないと分からないことかもしれないな。それか、もっと聖騎士団のことが浸透していそうな王都の人間なら分かるかもしれない」

 引っかかることがあるが、いつまでも気にしていられない。アリスはさっさと気持ちを切り替えることにした。


「それはともかく、聖騎士団の手を煩わせるわけにはいかないゴブリン退治だが」

「あ、それそれ。俺たちは俺たちなりに、無力な人たちの力にならないと」

 ラルフもまた、アリスに頷いた。


「おう。あんたらは冒険者か?」

 聖騎士団が見えなくなり、見物にやって来た人々が散り散りになる中、商人らしき男性が声をかけてきた。

「ああ、そうだが」

「ゴブリン退治って、もしかして、街道で行商人を襲ってる奴か? そいつを退治してくれるならありがてぇ」

 男性がゴブリン退治の話題を出すと、他の商人らしき人間もわらわらとやってくる。

「おっ、冒険者が受注してくれたのか。助かるぜ」

「ウチも派手にやられたものねぇ」

 商人たちは、件のゴブリンの被害者らしい。アリスとラルフは顔を見合わせると、彼らから襲われた地点やその時の状況を聞き出す。



「皆さん、大変でしたね……」

 口々に愚痴を漏らす彼らから聞き取りをしたラルフは、商人たちに同情の眼差しを送る。

「いやはや、ゴブリンの襲撃のせいで、どこも大損だよ。上手くやってるのなんて、マリアンヌ商会くらいだろう」


「マリアンヌ商会?」

 アリスが鋭く聞き返す。

「あそこはやり手だからなぁ。前会長が一代ででかい商会にしたんだ」

「でも、今は娘が取り仕切ってるんだろ? 噂によると、亡くなった前会長は親ばかで、娘はワガママ放題の贅沢三昧だったそうじゃないか」

 話によると、マリアンヌというのは前会長の娘の名前だという。


「商会に自分の娘の名前を付けるくらい溺愛してたんだな……」

 アリスはマリアンヌ商会のことを頭に留める。

 その後、商人たちはくだを巻き始めたので、アリスとラルフは聞き取りを切り上げてその場を離れる。


「えらい目に遭った……。時間があったら愚痴を聞いてあげたいところだけど、出発が遅くなるのも嫌だし……」

 ラルフはげっそりしていたが、自らの頬を叩いて気を取り直す。

「ゴブリンが出現するっていう区域、俺が知ってるところだった。以前、人食い熊を倒したところでさ。連中、熊の巣穴を再利用してるのかも」

「ゴブリンのサイズ的にも、再利用した方が楽だしな。有り得ない話ではない」

 ラルフに同意するアリスであったが、彼女はねめつけるように見つめていた。冒険者ギルドから参考資料として渡された、ゴブリンに襲われた行商人たちの詳細情報を。

アリスの彗眼があらゆる伏線を捉える!?

次回、ゴブリンの巣を見つけるものの、アリスは不自然な点を見抜き……?



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