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【書籍化&コミカライズ決定】最弱聖女でしたが「死神」になって全キルします  作者: 蒼月海里
1章 悲劇と《即死魔法》と旅立ち
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0 最強魔王、王位継承す

 世界の生命は女神クレアティオが生み出した。

 天に輝くクレアティオが西の地平線へ姿を隠す時、密かな輝きを持ったエラトゥスが闇夜を照らす。

 それが繰り返される中、四柱の神々が世界を彩る。

 水神バーシウムがまどろんで海となり、地神フマニタスが作物や鉱物を育み、風神ウェントゥスが世界の隅々にまで祝福を行き渡らせた。

 そうして世界に数多な種族が生まれる中、炎神サピエンティアは弱き種族である人類に火の扱いを教えた。


 その結果、人類は真っ先に文明を持ち、他の種族の侵攻を防ぐべく城壁を積み上げ、世界は人類と人類以外の種族に分かれた。


 人類は人類以外を魔族と呼び、畏れ、蔑み、退けながら歴史が作られていった――。






「人間と我らの戦が増えている」

 薄闇に包まれた聖堂にて、年老いても尚力強く、厳かな声が響く。


 声の主は闇の奥にいた。

 かつて聖堂は、主のほとばしる生命によって眩いほど照らされていたが、その人生は黄昏を迎えている。


 落日を見守らんとしているのはただ一人の男。黄金の髪の美しい彼は、神妙な面持ちで主と向き合っていた。


「我らは、多様でいてそれぞれが強靭な種族の集まり。気の遠くなる年月を経て、ようやく議会を整え、議長を立てるに至ったが、その長がこの有り様よ……」


「議長じゃなくて魔王――だぜ。親父殿」


 男が皮肉めいた口調でそう言うと、闇の奥から生暖かくて強い風が吹いた。それは、主が鼻で笑った吐息であった。

「儂に王という器は似合わん。ドワーフ長がこしらえた王冠も、ついぞ被らなかった」

「なら、俺にもそいつは似合わないぜ。よりによって、今際の際に呼んだのが放蕩者にして末子の俺とは。魔王様も耄碌されたもんだ」

「お前が我らの領地のみならず、人間の領地にまで赴いてふらふらしているのは知っている。だが、お前に目的があることも知っている」

「……どうだかな」

 男はそっぽを向いた。


「多様な民が暮らすさまを見、多様な民と交わったお前こそが、次の時代を作るべきだと思っている」

「そいつは買いかぶりすぎだ」

 男は、間髪容れずにそう言った。


「儂は戦を望まない。だが、お前の兄姉は人間の侵攻に苛立ちを覚えている。あやつらが王となった日には、どうなるか想像がつくだろう?」

「……争いは嫌いじゃねぇが、無力な民を巻き込むのは頂けねぇな」

「今のままでは、大きな争いが起きる。無用な犠牲者を出さないためには、火種を一つ一つ潰すしかないのだ」

「そいつを、俺にやらせようっていうのかい?」

「儂がお前に王位継承した後、議会を開いて決を採って正式な王を決めても構わん。その際、儂のような穏健派が選ばれるかわからんがな」

「脅迫じゃねぇか」

 男は嗤った。選択肢などないのだ。


 だが、悪くはない。スリルを好む男にとって、課せられたものが難題であればあるほど、面白いと感じるのだ。

「息子よ、改革は一人では成し遂げられない。必ずや仲間を募るのだ。辺境の村に今、大きなひずみが生じようとしている」

「辺境の村に? そいつは、自分の目で見に行きてぇな」

 男が聖堂の窓の外を見やる。


 その瞬間、聖堂をわずかに照らしていた輝きが、完全に消えた。

「親父殿?」

 その代わりに、眩い流れ星が山の向こうへと軌跡を描く。まるで、道筋を示すように。


「……ゆっくり休みな」

 闇へ向かって弔いの言葉を添えると、男は振り返らずに聖堂を後にしたのであった。

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