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暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました  作者: 片山絢森
暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました
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8.目覚めた後で


    ***



 次に目を覚ますと、体が軽くなっていた。

 手を握り、そして開く。ぐー、ぱー、ぐー。

 何度か繰り返し、エリーは目を瞬いた。


「……手が痛くない」


 腕に触れ、肩に触れ、痛みが驚くほど軽くなっている事に気づく。そっと足を下ろすと、やはり痛みは消えていた。


 エリーがいるのは客室のようだった。

 大きなベッドが中心で、一通りの家具がそろっている。近くにはお茶の支度まで調えられていて、そばに着替えが置いてあった。


 手に取ると、軽い素材のワンピースだった。


 柔らかな手触りが心地よく、可愛らしいデザインだ。丈は膝より少し長めで、裾の辺りがふんわりしている。

 彼らが着るとは思えないから、エリーに用意されたものだろう。

 少し迷ったが、エリーは思い切って服を脱いだ。


 今着ているのは、合わせ目が心もとない寝間着なのだ。かがんだだけで色々見えてしまいそうな恰好のまま、あちこちうろつくわけにはいかない。

 裸の体を見ると、思った以上にズタボロだった。


(最後だと思って、心置きなく暴行したのね……。あ、でも、そっちもあんまり痛くない)


 さんざん痛めつけられたはずなのに、骨折などはしていない。

 もしかして、彼らが何かしてくれたのだろうか。

 着替えを終えると、エリーはそっと扉を開けた。

 廊下には人の気配がなかった。


「閣下……アーヴィン様? サイラス様?」


 おずおずと名前を呼んだが、返事はない。どうやら近くにはいないようだ。

 部屋で待っていようかと思ったが、エリーはすぐに首を振った。


(ひとりで待ってるのは怖い……。お姉さまがやってきたら、私、殺される)


 ジャクリーンが気を変えて、妹をもっと痛めつけようとする可能性は十分にある。

 もしそうなったら、今度こそ命がない。

 想像するだけでぞっとして、エリーは急ぎ足で歩き出した。


「アーヴィン様、サイラス様? どこにいらっしゃるんですか?」


 公爵家の割に、屋敷はそんなに広くない。下級貴族の別荘といったところか。そういえば、サイラスが別邸だと言っていた。閣下の仕事場だとも。

 あちこち迷いながら、エリーはようやく彼を見つけた。


「アーヴィン様……!」


 呆れるほど整った容姿を持つ青年が、エリーを見て振り向いた。


「どうした、何かあったのか」

「い、いえ……そうではなく」


 姉に見つかるのが怖くて、助けを求めてしまいました。

 ……などと言えるはずがなく、ふるふると首を振る。


「どなたもいらっしゃらなかったので、探しに来てしまいました。申し訳ありません、勝手に」

「構わない。昨日は言い忘れたが、この屋敷は好きに使ってくれて構わない。仕事場以外、どの部屋も出入り自由だ」

「仕事場……」

「魔導具の研究だ。今は魔力付与について調べている」


 そういえば、サイラスがそんな事を言っていたか。

 その関係で、ジャクリーンの店に仕事を頼みに行くところだったという。残念ながら店主には会えなかったがと言われ、改めてぞわっと鳥肌が立った。


(こ、この人……お姉さまに会うのか……)


 その時までには出て行こうと、内心で固く決意する。

 彼のいる部屋は自室のようだった。

 いつもは仕事場にいる事が多いそうで、どこにあるのかと聞けば「あそこだ」と教えられる。

 窓の外には、小ぢんまりとした離れがあった。


「魔導具の研究は危険が多い。君も立ち入らないように」

「分かりました」

「ところで、君に聞きたいことがあるのだが」


 じっと見つめられ、エリーはびくっと反応した。

「体調に問題がないなら、少々付き合ってもらいたい。――君の、好物は?」

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