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暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました  作者: 片山絢森
暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました
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3.魔力欠乏


    ***

 

 ――だが、その願いは叶わなかった。


「ちょっと、どうなってるの? まだ終わっていないなんて」

「す……すみません。すぐやります」

「いつもの半分もできてないじゃない。どうしてくれるのよ」


 ジャクリーンの声に苛立ちが増す。

 それは分かっているけれど、どうしてもうまく付与できない。エリーはふたたび魔力を込めたが、ちっとも反応しなかった。


「ポーションは飲んだの?」

「の、飲みました」


 規定量のポーションはとっくに飲んで、今も体中が痛くて苦しい。もっと飲めと言われた分も、吐き気をこらえながら飲み切った。

 それでも魔力は回復しない。体がぐらぐらと揺れている。


(気持ち悪い……)


「もしかして、サボるつもりなの?」

 ジャクリーンの視線が鋭くなる。


「違います、そんなこと……」

「あたしに口答えするんじゃないわよ!」


 乱暴に小突かれて、エリーはその場に倒れ込んだ。


「あんたの魔力がこんなもんじゃないことは、あたしがよーく知ってるのよ。調子が悪いふりをして、魔力を温存しようっての? 小賢しい真似をしてくれるじゃない」

「そんなことしてません、お姉さま……っ」

「お姉さまと呼ぶなって言ってるでしょ!」


 蹴りを入れられて、エリーはその場にうずくまった。

 調子が悪いのは本当だ。ここ数日、体が妙に重くて、魔力がまったく回復しない。それどころか減り続け、今はほとんど底をついている。


 ジャクリーンが用意した怪しげな薬も、普段よりも濃度の濃いポーションも、すべて効果がないようだ。むしろ、それらが体の中で混ざり合い、とてつもない不快感がある。


「あんたがそのつもりなら、こっちにも考えがあるわ」

 そう言うと、ジャクリーンが手をつかむ。


「やっ……」

 何をされるか理解して、エリーは思わず身を引いた。


「あたしのために働けないって言うなら、動けなくなってもいいわよね?」

「……ああああああっ!!」


 直後、すさまじい痛みが身体に流れ込んできた。


 ポーションの苦痛も相当なものだが、それとはまったく違う。

 全身に電流を流されて、体中をかき回されるような激痛。それが手をつかまれている間中、際限なく続く。


 許して、違いますと何度言っても、姉は信じてくれなかった。


「ほんとに、ちが……魔力、戻らな……」


 謝罪の言葉さえ出なくなっても「できる」と言わない妹に、ようやくジャクリーンは魔力を流し込むのをやめた。


「……本当に使えないの?」

「ご、ごめんなさ……」


 ぼろぼろの姿を一瞥し、何やら考え込んでいる。その姿に奇妙なものを感じたが、激痛がなくなった事にほっとした。


「まあいいわ。今ある分は全部終わらせておきなさい」

「はい……」


 倒れたままのエリーを置いて、ジャクリーンは家を出て行った。

 ひとり残されて、ほっと息をつく。


(どうして魔力が戻らないんだろう……)


 いつもなら、寝れば多少は回復した。

 どんなに酷使されても、魔力が完全になくなる事はなかった。それなのに、今は何も感じない。


 のろのろと立ち上がり、エリーは作業台に向かった。

 どれだけ時間をかけても魔力付与はうまくいかず、最後には魔力切れを起こして倒れた。

 その日仕上げられた品は、たった三十だけだった。

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