3.魔力欠乏
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――だが、その願いは叶わなかった。
「ちょっと、どうなってるの? まだ終わっていないなんて」
「す……すみません。すぐやります」
「いつもの半分もできてないじゃない。どうしてくれるのよ」
ジャクリーンの声に苛立ちが増す。
それは分かっているけれど、どうしてもうまく付与できない。エリーはふたたび魔力を込めたが、ちっとも反応しなかった。
「ポーションは飲んだの?」
「の、飲みました」
規定量のポーションはとっくに飲んで、今も体中が痛くて苦しい。もっと飲めと言われた分も、吐き気をこらえながら飲み切った。
それでも魔力は回復しない。体がぐらぐらと揺れている。
(気持ち悪い……)
「もしかして、サボるつもりなの?」
ジャクリーンの視線が鋭くなる。
「違います、そんなこと……」
「あたしに口答えするんじゃないわよ!」
乱暴に小突かれて、エリーはその場に倒れ込んだ。
「あんたの魔力がこんなもんじゃないことは、あたしがよーく知ってるのよ。調子が悪いふりをして、魔力を温存しようっての? 小賢しい真似をしてくれるじゃない」
「そんなことしてません、お姉さま……っ」
「お姉さまと呼ぶなって言ってるでしょ!」
蹴りを入れられて、エリーはその場にうずくまった。
調子が悪いのは本当だ。ここ数日、体が妙に重くて、魔力がまったく回復しない。それどころか減り続け、今はほとんど底をついている。
ジャクリーンが用意した怪しげな薬も、普段よりも濃度の濃いポーションも、すべて効果がないようだ。むしろ、それらが体の中で混ざり合い、とてつもない不快感がある。
「あんたがそのつもりなら、こっちにも考えがあるわ」
そう言うと、ジャクリーンが手をつかむ。
「やっ……」
何をされるか理解して、エリーは思わず身を引いた。
「あたしのために働けないって言うなら、動けなくなってもいいわよね?」
「……ああああああっ!!」
直後、すさまじい痛みが身体に流れ込んできた。
ポーションの苦痛も相当なものだが、それとはまったく違う。
全身に電流を流されて、体中をかき回されるような激痛。それが手をつかまれている間中、際限なく続く。
許して、違いますと何度言っても、姉は信じてくれなかった。
「ほんとに、ちが……魔力、戻らな……」
謝罪の言葉さえ出なくなっても「できる」と言わない妹に、ようやくジャクリーンは魔力を流し込むのをやめた。
「……本当に使えないの?」
「ご、ごめんなさ……」
ぼろぼろの姿を一瞥し、何やら考え込んでいる。その姿に奇妙なものを感じたが、激痛がなくなった事にほっとした。
「まあいいわ。今ある分は全部終わらせておきなさい」
「はい……」
倒れたままのエリーを置いて、ジャクリーンは家を出て行った。
ひとり残されて、ほっと息をつく。
(どうして魔力が戻らないんだろう……)
いつもなら、寝れば多少は回復した。
どんなに酷使されても、魔力が完全になくなる事はなかった。それなのに、今は何も感じない。
のろのろと立ち上がり、エリーは作業台に向かった。
どれだけ時間をかけても魔力付与はうまくいかず、最後には魔力切れを起こして倒れた。
その日仕上げられた品は、たった三十だけだった。