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暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました  作者: 片山絢森
暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました
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25.一息ついて

    ***

    ***



 そして、それから――。


 ジャクリーンは部屋から連れ出され、詳しく事情を聞く事になった。

 別邸とは言え、貴族の屋敷に侵入したのだ。本来なら厳罰を科されてもおかしくないが、エリーの身内という事で、事件は内々に収める事になった。ただし、無罪放免というわけではない。そちらはサイラスに一任された。


 曰く、「俺の方が適任だからね」という事だが、そうなのか。よく分からない。


 ロドス伯爵家からも話を聞く事ができたが、彼女を連れ戻す気はないようだ。むしろ、騙されたこちらが被害者だと突っぱね、完全に無関係だと言い切った。結婚の話は、もちろん立ち消えとなったらしい。そもそも、正式な届け出もされていない話だ。


 後ろ盾を失い、今まで魔力付与をしていたエリーを失ったジャクリーンには、これまでと同じ生活ができるはずもない。生活はぐっと苦しくなるだろう。


 その過程で、ロドス伯爵家から改めてエリーと婚約したい、お抱え魔力付与師になってほしいという誘いが来たが、エリーは丁重に辞退した。直接の責任がないとはいえ、あの過酷な生活環境を生み出した原因は、間違いなく彼らの無茶な注文だ。


 エリーが断るとは思ってもみなかったらしい。唖然とした後、大分食い下がられたが、アーヴィンが出てくると引っ込んだ。公爵家の地位は伯爵より高い。

 ほっとしていると、「エリー」と名前を呼ばれた。


「君の両親に連絡がついたが、会いに行くか?」

「うーん、そうですね……」


 正直、会おうと思えば会えたのだ。公爵家に引き取られてからも、その機会は何度かあった。そうしなかったのはエリーの意思だ。


 両親について、思うところはないでもない。

 あれだけ訴えたのに信じてくれず、ジャクリーンの言う事をうのみにして、自分を助けてくれなかった。ジャクリーンがよこす仕送りに目がくらんで、自分をあの家に置き去りにした。


 何度も手紙を出したのに、望む返事が返ってきた事は一度もなかった。

 家族としての情はあるが、会いたいかと言われれば返事は否だ。


「元気ならいいです。このまま離れて暮らしたいです」

「分かった、そうしよう」


 ジャクリーンからの仕送りがなくなれば、どのみち遊んで暮らす事はできないだろう。

 でも、それは自分が考える事じゃない。


「……ところで、閣下」

「なんだ」

「少々……距離が近いです」


 いつの間にか、アーヴィンがすぐ近くに来ていた。その距離が近い。果てしなく近い。


「問題ない。会話はできる」

「そういう問題じゃありません」


 互いの瞳に宿る星の色まで判別できる距離に、エリーが両手を突っ張ってよける。


「いくらなんでも近すぎます。行動弊がひどいです」

「なんだそれは」

「語弊の行動版というか、誤解を招く行動という……近い近い近いです」


 ずいっと顔を近づけられて、覚えのある香りが鼻腔をくすぐる。

 胸がどきどきするような、落ち着かない感じ。


(そういえば、あの時……)


 アーヴィンの顔が近づいてきて、思わず目を閉じてしまった。あれも行動弊の一種かもしれない。

 サイラスの声がかからなかったら、一体どうなっていたのだろう。


「エリー、どうした?」

「いえ、なんでもないです」


 思いがけずきっぱりと答えてしまい、アーヴィンが目を丸くする。

 それからなぜか、少しだけおかしそうな顔で笑った。

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