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暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました  作者: 片山絢森
暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました
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20.閣下の距離と心の関係


    ***



「――できた」

 その声は唐突に響いた。


「できた……できた、できました!」

「本当か?」

「すごいよ、エリー!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねるエリーに、二人が目を輝かせる。飛び跳ねるのをやめると、エリーは握りしめていた手を開いた。

 そこには淡く輝く石があった。


「指輪の魔力付与、成功しました!」


 ここまで来るには長かった。

 途中で何度かくじけそうになったが、きらめく石を見ると気力が湧いた。

 毎日柔らかい布で拭き、そのたびに話しかけ、ついでに魔力を流していたら、ある日、唐突に反応があったのだ。


「日数に関係があるのか、それとも魔力の合計か。非常に興味深いな」

「どっちにしてもよかったね、エリー」

「はい!」


 あまりにも嬉しくて、ぎゅうっと胸元に抱きしめる。

 その時、そわそわしているアーヴィンに気がついた。


(あ、そうか)


「どうぞ、閣下」

 指輪を差し出すと、アーヴィンが戸惑った顔になる。


「ご覧になってください。閣下がお好きなだけ、ご自由に調べてくださって構いません」

「だが、これは君にあげたもので――」

「では、解析をお願いします。私では分からないので」


 どうぞ、と笑顔になる。

 アーヴィンはまじまじとエリーを見た。

 その顔が唐突に近づき、いきなり手を取られたかと思うと、頬に勢いよくキスされた。


「――感謝する!」


 ぽかんとするエリーをよそに、いそいそと作業場へ直行する。扉が閉まる直前に聞こえたのは、聞き間違いでなければ鼻歌だった。


「あーあ、さすが研究バ……んんっ」

 主がいないので、サイラスがちょっと失言している。


「大丈夫、エリー? ショック受けてない?」

「い、いえ、大丈夫です……」

 頬を押さえたまま、エリーが呆然と返事をする。


(いい匂いがした)

 触れた唇の感触よりも、その香りの方が記憶に残った。






 指輪の解析は、冠よりも時間がかかった。

 冠の詳細はすぐさま王家に伝えられ、引き続き調査するようにと命じられた。確かに、まだ不明な点も多いので、このまま国には戻せない。


 逆に指輪はアーヴィンが個人的に買い求めた品なので、割と気楽なものだった。

 所有権がエリーにあるせいか、覗き込んでも怒られない。今もアーヴィンの隣で、興味津々に見学している。


「閣下、何をしているんですか?」

「指輪の効果を調べている。《守護》と《幸福》は解析できたが、残りが難しいな」

「お守りでしたら、《防災》は?」

「それも考えたが、違った。《守護》にかぶるのでは?」

「それもそうですね。では、愛情関係はどうでしょう?」

「悪くない。結婚指輪と仮定して、《家内安全》も試してみよう」


 二人で意見を出し合っていると、なんだか楽しい。

 アーヴィンは特にこだわりなく、エリーの意見を取り入れてくれる。頭ごなしに否定したり、ののしったりはしない。仕事に慣れていないエリーが失敗しても、理不尽に怒られた事もない。

 もちろん、手を上げられた事も一度もない。

 アーヴィンのそばで仕事をするのが、エリーは楽しみになっていた。


(できるなら、ずっとここにいたいなぁ……)


「エリー、どうした?」

「あ」


 いつの間にか、アーヴィンの顔を見つめてしまった。慌てて首を振り、謝罪する。


「なんでもないです。すみません」

「構わない。ただ、君に見られると、時々妙な気持ちになる」

「妙な気持ち?」

「うまく説明できない。サイラスには一度も感じたことのない感情だ」

「それは……なんでしょうね?」

「不明だ」

「不明ですか……」


 彼に分からないものが、エリーに分かるはずはない。

 それで話は終わりだったが、アーヴィンは続けて口にした。


「その妙な感じが、私は嫌いではないらしい」

「な、なるほど?」

「だからこれからも見てくれて構わない。私もよく君を見るが、その時も同じ気持ちになる」

「なるほど……え、閣下も見てるんですか? 私を? なんで?」

「不明だ」

「不明ですか……」


 お手上げだ。


「だが、心地いい。むしろ見つめていてほしい。私も見つめようと思う」

 彼は真顔でそう言った。……ものすごい至近距離で。


「近い近い近いです」


 両手で押しのけると、しぶしぶ退く。

 なぜこの人はこんなにも近づくのか。そして語弊。語弊に次ぐ語弊。ついでに行動弊。


「さあ、残りの解析をしよう」

「そ、そうですね」


 赤くなった顔に気づかれないように、ぺちぺちと頬を叩く。

 作業はその日、遅くまで続いた。

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