表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました  作者: 片山絢森
暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました
12/33

12.本当の付与者


    ***



「……それはまた、前向きなんだか、後ろ向きなんだか、ですね」

「どう見ても後ろ向きだろう。逃げられる気力が湧いたのはよかったが」

「それで、その魔石は?」

「これだ」


 アーヴィンがざらりと机に広げる。

 エリーに渡したのは、形も属性も様々な魔石だった。


 魔石にも相性というものがある。魔力付与は繊細で、場合によっては反応すらしない。属性にも敏感で、少しでも違えば弾かれる。ここにあるものはどれもそれなりに気難しく、扱いにくい魔石だ。

 エリーの得意分野が分からないため、自分に合うものを選んでもらえれば、といった程度の気持ちだった。

 まさか、そのすべてに魔力付与できる人間がいるなど、想像した事もなかった。


「さすが、天才魔力付与師と名高いジャクリーン・ブランシールの身内……といったところですかね」

 魔石を確認していたサイラスが口笛を吹く。


「すごいな、完璧に付与できてる」

「それだけじゃない」

 アーヴィンは魔力計を放った。


「それで見てみろ」

「え、これって……え、えっ?」


 魔力計とは魔力を測定する器具の事だ。元になる魔力を1として、どれだけの魔力が付与できたか確認できる。


 通常の魔力付与は、1.2から1.5。

 1.8もあれば上級付与で、どんなに工夫しても2が限度だ。それを超える事は絶対にない。少なくとも、現状では。

 だが――これは。


「128……え、百倍、以上?」

「こっちは147だ。残りの石も、100を下回るものはない」

「……魔力計が壊れましたか、閣下」

「壊れていない。私も試してみたが、正常だった」


 そこで二人の男が黙る。

 エリーの行った魔力付与は、極めて高度なものだった。


 魔力付与ができる者は「付与師」、あるいは「付与術師」と呼ばれる。彼らは魔力持ちのおよそ一割ほどで、その力は高く評価される。それだけでも高度な技術なのに、エリーはその事が分かっていない。それほど姉の才能が突出しているのか、それとも――。


「エリーの言葉を信じるなら、ジャクリーン・ブランシールには彼女以上の才能があるという。だが、どうも腑に落ちない」


 店主であるジャクリーン・ブランシールの噂は聞いていた。

 ここ数年で驚異的な売り上げを誇る魔力付与の工房。その実態は、たったひとりの天才付与師の存在だと言われている。

 最初は平民と侮られていたが、その活躍は目覚ましいものがある。


 赤い髪をした妙齢の美女で、上級貴族とも親交がある。何より素晴らしいのが彼女の持つ魔力付与の才能で、その天才的なセンスは他を圧倒する。今では王族さえも興味を持っていると言われており、アーヴィンも名前だけは知っていた。

 ただし、気になる点もある。


「どう考えても、ひとりでできる作業量ではない。複数で行ったとすれば、完全別作業になるだろう」

「大量の付与師を使って、自らの魔力不足を補っている――ですか。で、その中のひとりがあの子だと」

「あの量の納品数が事実なら、相当数の付与師がいたはずだ。それも、極めて有能な」

「そんなに有能には見えませんでしたけどね。小さかったし」

「魔力持ちは見かけによらない」


 あっさり答え、少し黙る。コツ、と指の背が机を叩いた。


「だが、現時点で確認できた魔力はひとり分だ」

「そしてそれは今までに行ってきたジャクリーン・ブランシールの仕事と、ほぼ一致している」


 ここから導き出される結論はふたつ。

 彼女がとんでもない天才か、逆にとんでもない詐欺師かだ。


「普通に考えれば、ジャクリーン・ブランシールがずば抜けた才能の持ち主ってことですけどね。天才付与師って噂とも合致しますし」

「だが、そうなるとエリーが倒れていた理由の説明がつかない」


 限界まで魔力を搾り取られたあげく、用済みとなって捨てられた。はっきりとは口にしないが、状況からそう見るべきだろう。

 だとすれば、ジャクリーンがエリーの魔力を奪っていた事になる。


「さすがに仕事量が多すぎたとか?」

「調べた限り、ほぼ毎日夜会に参加している。手が足りないようには見えなかったそうだ」

「エリーがしていたのはお手伝いレベルとか?」

「あそこまで魔力を搾り取られてか? しかも、彼女の魔力量は普通じゃない」


 どう考えても、簡単に魔力欠乏を起こすような体質ではない。


「……というと?」

「つまり――」

 コツ、とアーヴィンは指で机を叩いた。


「実際に魔力付与を行っていたのはエリーだった。違うか?」


 そして魔力枯渇を起こしたと見るや、あっさり見限られて捨てられた。

 それも執拗な暴行を加えてだ。

 シン、と二人が沈黙する。


「エリーの回復が早かったのも、魔力量が多いなら説明がつく。魔力枯渇を起こさなかったのも、彼女自身の能力のおかげだろう」

「確かに、あの回復速度は異常でしたね。むしろあっちが天才だと言われた方がしっくりきます」

「同感だ。そして、彼女の魔力は以前に手に入れた魔導具のものとよく似ていた」

「なるほどなるほど……って、うわぁ……」


 サイラスが呟いた後、ぞっとしたように身震いする。


「……ジャクリーン・ブランシールの行方はつかめたか?」

「王都にあるロドス伯爵家で暮らしているようです。ロドス伯爵は魔導具に造詣が深く、ジャクリーン・ブランシールの才能を高く買っていたとか。息子のアランも同様です。また、魔石を使ったアクセサリーを売る商人とも付き合いがあるため、その関係で囲い込みされたのではないかと」


「あの力が本物なら、何を()いても手に入れたい能力だからな」

「ゆくゆくは結婚の話も出ているようですが、なぜかその後、話が動いた様子はありません」


 エリーを捨てた後、ジャクリーンの行方は分からなくなっていた。

 身を隠したのかとも思ったが、単に仕事をしていなかったせいだろう。

 エリーの話によれば、貴族の妻になると言っていたらしい。それはサイラスの情報とも一致する。

 だが、いつまでもそのままでいられるはずがない。


「貴族が平民を妻にするなら、相応の理由が必要だ。もしくは愛人かもしれないが、彼女を手に入れたい理由はひとつ」


 彼女の持つ魔力付与の才能をひとり占めにしたい。そして自らの利益とする。

 だとすれば、彼女を働かせない理由がない。

 エリーがいなくなってからひと月近く。そろそろ動きがあるはずだ。


「取り戻しに来ると思うか」

「どうでしょうね。いらなくなって捨てたわけだし、可能性は低いと思いますが。八つ当たりするためなら……まあ、なんとも」

「私も同意見だ。しばらくは警戒を怠らないように」

「了解です」


 彼らはひそかに頷き合った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ