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暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました  作者: 片山絢森
暴君な姉に捨てられたら、公爵閣下に拾われました
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11.エリーの能力


    ***



 アーヴィンが外の様子に気づいた時、日はとっくに傾いていた。


「ずいぶん集中してしまったな。……エリー? どうした?」


 隣の部屋が静まり返っている事に気づき、不思議そうな顔になる。

 魔力付与は声を出すものではないが、それでもさすがに静かすぎる。もしや、加減を間違えて、魔力欠乏で倒れたのでは?


(しまった……)


 ひとつくらいならと思ったが、やはり早すぎたのかもしれない。

 エリーの性格上、無理をする可能性は十分にあった。念を押したからと言って、安心するのは早かった。やはり隣で見張っておくべきだったかと思い、だがそれはサイラスに止められた事を思い出す。


 曰く、「閣下の距離感で見張られたら大抵の女の子が失神します」だそうだが、意味が分からない。やはりあの部下は変人だ。


 だが、彼の事は有能だと評価している。そのため、言う事は聞いている。

 扉を開けると、エリーはこちらに背を向けていた。

 倒れていない事にほっとしたが、アーヴィンはつと眉を寄せた。


(……何をやっている?)


 エリーは一心に何かの作業をしていた。

 もしや、まだ魔力付与の練習をしていたというのか?


 ここにある魔石は容量が多い。ひとつあたり、普通の魔石数十個から百個分だ。

 魔力がみなぎっている状態でさえ、ひとつ満たすのが精々だろう。あくまでも感覚を取り戻すためのつもりだったが、言い方がまずかったのかもしれない。無理をすれば今度こそ倒れてしまうと思い、アーヴィンは急ぎ足で近寄った。


「大丈夫か、具合は――」

「あ、閣下」

 だが、振り向いたエリーの顔は普通だった。


「すみません、魔導具が気になって、勝手に見てしまいました」

「それは構わないが……大丈夫なのか?」

「何がですか?」


 きょとんとした顔に、アーヴィンがほっと息を吐く。

 どうやら無茶はしていなかったようだ。

 よく見れば、エリーは壊れた魔導具のひとつを手に取り、しげしげと観察していた。


「それは魔石の劣化らしい。完全に割れたせいで、どうにもならないそうだ」

「石だけ交換できないんですか?」

「魔力付与を行うために、魔石自体に簡易の魔法陣を組み込んである。それを取り外すだけでも、膨大な手間と時間がかかる。そのままでは難しいな」

「そうなんですか……」


 エリーはじっとそれを見ている。心なしか、うずうずしているようにも見える。

 そういえば、彼女は魔力付与の工房にいたのだったか。だとすれば、壊れた魔導具を見る機会もあっただろう。場合によっては、修理する事もあったかもしれない。


 色の薄い瞳はきらきらして、口元までむずむずしている。

 そんな様子が面白くなり、アーヴィンはからかうように言った。


「気になるなら、遊んでみるか?」

「いいんですか?」

 ぱっとエリーが顔を上げる。


「約束通り、無理はしなかったようだし、ご褒美だ。どうせオモチャのようなものだし、好きに試してみるといい」

「ありがとうございます!」

「そういえば、さっき渡した魔石はどうした?」


 いそいそと魔導具に向き合うエリーに、ふと気づいて問いかける。エリーはこちらを見る事なく、当然の口調で答えた。


「あれですか?」

 ツ、と魔石に指を添える。


「全部終わりました」

「な――」


 何、と言いかけた時だった。

 エリーの身体から膨大な魔力が立ち上り、それが一点に収束した。



「――《修復》及び《取り外し》」



 口にした単語に、アーヴィンが目を見張る。

 まさかと思うのと同時に、魔石が強く輝いた。

 中の魔法陣に光が点り、壊れた部分を修復していく。


 割れた石はそのままだが、欠けた文字がよみがえり、見る間に元の形を取り戻す。その中に新たな光が宿ったかと思うと、綺麗に魔法陣部分だけが取り出された。

 それを新しい魔石に入れ、割れた部分を丁寧に外す。そして、新しい魔石を魔導具に組み込んだ。

「どうぞ」と手渡され、アーヴィンは呆然として受け取った。


「……エリー、今のは」

「よくお姉さまにやれって言われていたので……。これくらいなら大丈夫です」


 彼女が「これくらい」と言った作業は、王宮魔術師が「繊細過ぎる」と言って敬遠したものだ。

 数日時間をかければできない事はないが、日々の仕事に忙殺されて、後回しになっていた。元々、アーヴィンが趣味で集めた品だ。他にもそんな品物が山ほどある。ちなみに、実際に集めたのはサイラスだが。

 そこではっとしたように、エリーが慌てた顔になった。


「すみません、勝手に魔石を使ってしまいました。べ、弁償っ……」

「……構わない。いつか直そうと思っていたものだ」

 それよりも、と彼は一歩進み出た。


「君は……すごいな」

「そうですか?」

「君はジャクリーン・ブランシールの妹なのだろう。その技術は、彼女から?」

「いえ、自分で覚えました」


 正確に言うと、できないとひどい目に遭うため、必死になって覚えただけだ。ジャクリーンに教える才能はなかったが、罰を与える力は十分にあった。


「つまり、君にも魔法の才能があったということか」

「才能は……ないです。基本的なことはできますけど、それだけで」

「君が行った作業は、すでに基本的ではない」

 目をぱちくりさせたエリーに、彼は淡々とした口調で告げた。


「小型化した魔法陣へのアプローチは難しく、失敗も多い。それだけに、作業は繊細かつ慎重に行われる。間違っても見ただけで行えるようなものではない」

「……時間をかけすぎると、姉が不機嫌になってしまうので……」


 正確に言えば手が飛んでくる。だが、さすがに口には出せなかった。

 食事抜きにされる事も多く、そうならないよう必死で学んだ。魔法陣の修復もそのひとつだ。魔力付与するために必要な技術はあらかた身につけている。それもこれもすべて、効率よく魔力付与を行うためだ。

 そう言うと、彼は大きく目を見張った。


「ジャクリーン・ブランシールが天才だという噂は聞いていたが……君も、なかなかとんでもないな」

「私が、ですか?」

 目を丸くした後、エリーは「とんでもない」と首を振った。


「お姉さまは私なんかよりずっとすごいです。昔から、一度も勝てたことがありません」


 幼いころからジャクリーンは暴君で、エリーをさんざんいじめていた。

 逃げようと思っても、ジャクリーンには敵わなかった。

 エリーはジャクリーンの妹だが、才能なんてない。もしそんなものがあれば、とっくにあの家から逃げられたはずだ。


 成長しても、ジャクリーンの暴力的な魔力はそのままだった。

 最近ではもっぱら自分の美容と、エリーを痛めつけるためだけに使っている。エリーがいなくなった分、使える魔力が増えて、より美しさに磨きをかけている事だろう。


 姉とは二度と会う事もないだろうが、願わくば自分とは無関係の場所で、幸せに暮らしていてほしいと思う。そうすれば、他の人間に被害はない。

 まかり間違って姉が自分を捜すような事にでもなれば、一瞬で地獄に逆戻りだ。


「私の魔力では、お姉さまには勝てないと思います。でも、私、今は元気になったので」


 はにかんだ顔で笑い、エリーは自信満々に宣言した。

「何かあった場合、全力で逃げようと思います!」

お読みいただきありがとうございます。え、そっち?


遅くなりましたが、いいねとブクマと評価ありがとうございます。とても励みになっております。がんばります!

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