小さな軍隊との戦い
「お腹空いたねー」
うーたくんが、のんきに言いました。
しーにゃんはヤケを起こしたように、顔を横にして、そのへんの草をハグハグと食べています。
「よくそんなの食べれるね。ぼくは肉食だし、もし雑食だったとしても、好き嫌い王だから、そんなの食べない」
「なんかしてないと心細さにおしつぶされそうニャンニャ!」
しーにゃんは涙を浮かべながら草を食べまくります。
「ママに会いたいママに会いたいママに会いたいっ!」
しーにゃんは顔をまるで一つのバツじるしみたいにして、草を食べながら、泣きました。
「まー、とりあえず、寝ない?」
うーたくんが提案しました。
「君は『寝る子』と書いてねこだし、僕は僕で1日20時間寝る動物だから。寝ないとヤバい」
草の中に身を隠すように、身体をくっつけ合って、眠りました。しーにゃんが丸まって眠るそのお腹にくっついて、うーたくんも長細い身体を丸くしました。
しーにゃんは夢を見ました。誰かの手が自分の背中を撫でています。「ンー?」と目を開けて見ると、優しい手が背中に当てられていました。上のほうを見ると、飼い主ママの優しい微笑みがありました。「ニャー……」と嬉しがる声をひとつ上げて、しーにゃんはまた目を閉じました。これ以上無理だというぐらい、喉をゴロゴロ鳴らしながら。
寝言を言いました。
「ママ……。あの牛肉、おいしすぎたニャ。また食べたいニャ……」
「ンンッ?」
なんだか嫌な感じがして、目を覚ましました。
お腹のほうを見ると、うーたくんはへそ天で、手足をビックンビックン痙攣させながら、ふがふがイビキをかきながら、まだ眠っています。
眉間のあたりが痒くて重たいことに気がつきました。触ってみると、そこに何かコブみたいなものがくっついて、うごめいています。
「にゃんだ、これ?」
前足でぱしぱし取ろうとしても固くくっついていて、取れません。
「にゃんだ、これーーっ!?」
その声にうーたくんが目を覚ましました。しーにゃんの顔を見て、無表情で大笑いします。
「わひゃひゃ。しーにゃん、おまえ、ノミに食われてんぞ」
「の、ノミーーーっ!?」
そう叫んでから、
「……ってなんニャ?」
と言いながら、身体中が痒いことに気がつきました。
長い自分の毛をかきわけて見ると、あっちこっちに丸くてぶよぶよした豆みたいな虫が食いついて、しーにゃんの血を吸って膨れあがっています。
「キャーーーーッ!!!」
しーにゃんは飛び上がりました。
飛び上がっても逃げることはできません。
草むらのあっちこっちから、小さな虫がものすごいジャンプ力で、無数にこちらへ近づいてくるのが見えました。
「ハハハハ。いっぱい来んな」
うーたくんが笑いました。
フェレットは皮膚が固いので、ノミに食いつかれないのです。
「いやっ! いやニャーーッ!!」
しーにゃんはノミの大群に囲まれました。逃げ場がありません。既に食いついているノミを取ろうと噛みつきかけますが、怖くて触ることができません。
その時、よく聞こえるネコ耳が回転し、救いの声をとらえました。
「――ゃーん……」
うーたくんも立ち上がり、人間みたいな耳をそばだてました。
「あれは……」
しーにゃんの口が震えて動きます。
「――にゃーん……」
「ママ……?」
「しーにゃーん!」
「ママーーーーっ!!!」
自分を探しに来てくれたママの声に、ノミに囲まれてる恐怖なんて吹き飛んで、しーにゃんは急いで駆け出しました。