うーたくん
うーたくんは振り返りもせず、どんどん先を歩いて行きます。
「どこまで行くニャー? うーたくん……」
しーにゃんはだんだん不安になってきました。
遂に壁に突き当たりました。岩を組んだ小高い山の斜面です。右か左か引き返すかしかないと思われました。
壁からプラスチックの排水パイプが突き出ています。うーたくんは止まらず、細長い身体でスルスルとそこに入って行きました。
「あたし無理にゃー!」
びっくりして、しーにゃんは声を上げました。
「そんな狭いとこ、入って行けないにゃー!」
しかしうーたくんは戻ってきてくれません。周りの木々がざわざわざわと音を立てました。途方に暮れたしーにゃんは、飼い主が恋しくなって「なんでだよォ~、なんでなんだよォ~」と、赤ちゃんみたいな声で泣き出しました。
うーたくんのお尻がパイプの中から出てきました。そのまま地面にぽとんと落ちると、しーにゃんを見上げて言いました。
「なんにもなかった」
「疲れたにゃぁ~ん……」
もうしばらく歩いたところで、しーにゃんは座り込んでしまいました。
そこは広い公園の中で、子供たちがサッカーをして遊んでいます。
「帰りたいなら帰ればいいじゃないか」
うーたくんはお腹をお日様に当てながら、毛づくろいをしながら、言いました。
「ぼくはどこまででも行くけど?」
「うーたくん置いて帰れないにゃ」
しーにゃんはべそをかきながらも、自分より小さなフェレットのうーたくんを気遣います。
「そんな小さな身体で、キタキツネにでも襲われたら大変にゃ」
しーにゃんの頭の中に、ニャ王から聞いた冒険のお話が甦ります。
お外には恐ろしいキタキツネや金棒を振り回すオバサン、ゴルフクラブで襲いかかってくるオジサンなど、さまざまな敵がいるとニャ王は行っていました。ニャ王はそれらすべてを猫カンフーで倒したらしいけど、小さなうーたくんがそいつらに敵うとはとても思えませんでした。
ドザッ! ザッ! ザザザーッ!
そんな激しい音がしました。
なんにゃ!? なんにゃ!?
しーにゃんは声も出せず、ただ全身の毛を逆立てて怖がります。
転がってきたのは大きな大きなサッカーボールでした。見たこともない白と黒の丸い生き物にしーにゃんはただただビビり、うーたくんはボールの上に乗りました。
ころころと転がるボールにうーたくんが足踏みでさらに回転を加え、どこまでも転がっていきます。
「待つにゃー!!」
あわててしーにゃんは追いかけました。
ボールを取りに駆けてきた少年は思わず立ち止まり、フェレットの乗り物と化したボールとそれを追いかけて走るチンチラ猫の後ろ姿を呆然と見送りました。
遂に帰り道がわからなくなってしまいました。
「ハハハ。ここ、どこだ」
うーたくんがのんびり言いました。
そこは知らないアパートの裏で、背の高い草がいっぱい生えています。ネコノミの軍勢が喜んで2人に襲いかかりましたが、敵があまりに小さいので2人は気づきませんでした。
「ママ〜……! ママ〜……!」
しーにゃんは泣いて飼い主を恋しがります。
こんなことなら冒険なんかするんじゃなかったと強く思いはじめていました。