もう、逢えない
「ごめんね、もう逢えないの。」
手を繋いで歩く佳奈が突然ぽつりと呟いた。俺は突然の
出来事に言葉も出ない。
「どうして?。」
恐る恐る聞いてみる。
「来週から東京の大学に通うの。」
そっけないその返事に愛情を微塵も感じられなかった。
俺達付き合ってたんじゃないのか?、恋愛をしてたのは
俺だけだったのか・・頭が真っ白になる俺をおいて
いつの間にか佳奈は改札の向こうに居た。小さく手を
振った佳奈を見送る。もうこれで逢えないと思ったら急に
涙が溢れた。
「パパとはね、もう逢えないの。」
まだ3つの子供にそんな事を言ってもきっと伝わらない、
そう思いつつも私には、正直に伝える義務があると感じ
子供に話したのである。
真新しい仏壇、子供を抱き優しく微笑みかける夫の遺影。
真っ直ぐのびる線香の煙。あまりに突然で非日常感さえ
漂っている。隣にちょこんと座る息子には理解できてる
のか。いやむしろ理解できない方が幸せなんじゃないか、
それほど父親を失う事は、大きな事なのかも知れない。
「ママ、泣かないで。」息子の小さな手が私の涙をすく
った。それは同時に私の心さえも救ってくれた瞬間だった。
人間界のあらゆる別れを目の当たりにした天使は、哀しみに
暮れ涙をこぼす。
どうにか人間を救いたい、そう考えた天使は今日も夜空に星
を散りばめる。励ます為に散りばめる。
星を見た人間が元気になる様に。