酒場のマスター
翌日、少し遅めに起きた私は、待っていたクリス達や兄達と遅めの朝ご飯を食べた。
朝ご飯は元の世界の白いご飯と焼き鮭、お味噌汁に漬物だ。
昨日の卵粥のせいか、白いご飯が無性に食べたくなった私のリクエストである。
パンもいいけど、やっぱりお米かなと思いながら、オークやダンジョンが落ち着いたら、トムさんの村に行かなければと改めて心に誓った。
訓練場の商人兼冒険者達を無視して通り過ぎる。
朝に来て私達が出てくるまで待ってるなんて、ほんと暇なのか、真面目に訓練すればもっと強くなれるのに。
今日は特に何もないので、面白そうな依頼がないか掲示板前で依頼書を眺めていると、ギルドの入口から大声を上げながら男達数人が入ってきた。
いつも居る冒険者達とは違う、知らない人達だった。
「おおーなんだガキとデカいネコしかいないんかぁ」
(うわっ、お酒臭い! これ酔っ払いだ)
私は兎も角、クリス達をデカいネコで済ませるなんて、相当酔っているようだ。
「おいっ、そこのガキ! こっち来て酌をしろ」
男の一人が私の方へと腕を伸ばすが、すかさずクリスが前に出ると酔って気が大きくなっている男も流石に怯んだので、その隙に兄達も私を隠すように前へ出る。
(もしかして、昨日アランさんが言っていた変な奴に絡まれるってこの事!?)
男達は私達を睨み付けるように見回し、舌打ちして何か言おうと口を開いた。
「てめぇら…「あんたら、ここには出入り禁止の筈だよな?」
男を遮ったのは、いつの間にか酒場のカウンターの前にいた大きな男性だった。
ギルドマスターやアランさんと同じぐらいの長身で、身体も二人に負けないぐらい筋骨隆々、整った顔立ちに青空の様な瞳で短い金髪には少しウェーブがかっているのが分かる。
「て、てめぇは!?」
「くそっ 王都に行ってるんじゃなかったのか!」
「残念だったな。昨日の夜に帰って来たんだよ。まぁ俺が居なくてもマティアスとグレンがいるから問題はないだろうが」
男達を見下ろす謎の男性に、かなり酔っていた男達はすっかり酔いが覚めたらしく、先程までの勢いはない。
「で? いつまで居るつもりだ」
酔いが覚めた男達は暴れることもなく、そそくさとギルドを出ていった。
「悪いなお嬢ちゃん。怖い思いをさせて」
暫し沈黙の後、先に口を開いたのは助けてくれた謎の男性だ。
「わ、私は大丈夫です。少し驚いただけで…」
「それならいいが」
と言葉を切り、ところで…と呟くと謎の男性は私達を興味深そうに見つめてくる。
「君達が〝噂の三兄妹〟か」
(ん? なんか変な感じが…ううん、今はお礼を言わないと)
「あの、助けていただきありがとうございました。えーと…」
「ああ、まだ名乗ってなかったな。俺はアダム。一応ギルドの酒場のマスターを任されている者だ」
ギルドの酒場のマスターのアダムさんは、私達がこの町に来る少し前に王都にお酒を買い付けに行っていて、昨日の夜に町に帰って来たらしい。
「立ち話もなんだから、こっちで話そうか」
アダムさんが指し示したのは酒場の奥、いつもの場所だった。
私達は奥の席に座り、クリス達も慣れたように壁際の定位置で寛ぐ。
そして、アダムさんは丁度、剛兄さんの隣の近い位置に座った。
(あれ? これって……)
元の世界でも兄達は女の人からモテモテだった。
女の人どころか、一部の男の人からもモテモテだった。
(アランさんが言っていたのはこれだったのね)
今回も心の中で兄達に合掌しておこう。
私が昔を思い出していた間、兄達はアダムさんに色々と聞かれていたが、アランさんの時のようにかわしている。
「ふーん。兄妹で旅ねぇ…でも…」
アダムさんと目が合う。
「こんなに可愛い子を連れて旅なんて大変だろ?」
―――ガシャンッ
いきなりの音に思わずビクリと、少し飛び上がる。
「す、すみません! 手が滑ってしまって…」
「気を付けろよ」
酒場のカウンターの向こうでお皿を割って謝る店員さんと、注意をするアダムさん。
妙な雰囲気に辺りを見回せば、ギルド職員さんも酒場の店員さんも驚きの目でアダムさんを見ている。
何か驚くことがあっただろうかとアダムさんを見ても、本人は気にしていない様だった。
それからもアダムさんは私達を、なかなか離してくれなかった。
おもに剛兄さんを。
もうそろそろ流石に…というところで、グレンさんが現れ助け船を出してくれたので、後ろで寝ていたチャッチャとチッチャを起こし、手近にあった依頼書を手に取って急ぎギルドを後にした。
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