これぞ激おこ
これぞまさに〝激おこ〟というやつなのか、でもそんな可愛いなんてものじゃない。
(あぁ、この感じは…似てるんだ剛兄さんに…)
怒っても無表情な剛兄さんと、怒るほど笑顔になるグレンさんは全然違うように思える。
けれど、ただひとつ同じなのは、この二人を絶対に怒らせたらいけないということなのだ。
「それでは〝これ〟を連れていきますので、後は頼みます」
グレンさんはにこにこと笑顔でギルド職員さんに告げている。
職員さんの顔は真っ青だ。
グレンさんは〝これ〟もといギルドマスターを連れて、二階へと行ってしまった。
◇◇◇◇◇◇
「………」
私は今、胸をドキドキさせながら、ギルドマスターの部屋の扉の前に立っている。
勿論、ときめきのドキドキではない。
強いて言うなら、何かやらかした時に先生に呼ばれて職員室の前に来たはいいけど、次の一歩が出ない。
そんな感じ。
私の後ろにはクリスと鞄の中にシオン達ががいるだけで、兄達とジル、チャッチャ、チッチャは少し離れて…いや、かなり離れて私の様子を見ている。
ちらりと見るが、〝早く済ませろ〟と蒼兄さんが目で訴えている。
さすがの蒼兄さんも、ああなったグレンさんは苦手なのだろう。
(私だって同じなのに…)
わざらしく溜め息を吐くと、アイテムボックスから大きめなバスケットを取り出し、意を決して扉を見つめた。
―――コンコンコン
「おや? どうなさいました?」
扉を叩き声を掛けようとした直後、いきなり現れたグレンさんに驚き口が開いたままな私は正に今、残念な顔になっていることだろう。
それにしても、扉を叩いてからグレンさんが出てくるまでの時間が物凄く速かった。
もしかして、既に扉の前にいたのか。
「あ、あの…少しよろしいでしょうか?」
「ええ。ですが、ギルドマスターはあの通りですので」
圧はないけど、にっこにこの満面の笑みだ。
その後ろでギルドマスターは書類に埋もれている。
「その…用はギルドマスターではなくて…」
「?……私ですか?」
「はい」
私は手に持っているバスケットをグレンさんに差し出した。
「これは…?」
「先程、孤児院で作った物です。シチューとお米を使った卵粥とパンケーキです。もし、よろしければ…」
グレンさんの目が少し見開かれるが、直ぐにふんわりと柔らかい笑みになる。
「それは…ありがとうございます。実は色々と忙しすぎてお昼を食べ逃してしまいまして……」
「………」
ちらりとギルドマスターを見やるグレンさんと無言のギルドマスター。
「では、遠慮なく頂きますね」
「はい。まだ温かいので冷めないうちに、どうぞ召し上がってください」
「それなら、ここで…「もう動かんから自分の部屋で食え」
「……分かりました。どうやら大人しくしてくれるようなので、昼食を取って少し休憩を頂きます」
バスケットを受け取ったグレンさんは、もう一度お礼を言って自らの部屋へと消えていった。
そして私もギルドマスターに頭を下げ、扉を閉めた。
◇◇◇◇◇◇
書類が山積みになった部屋に溜め息が落ちる。
グレンが自室に戻り、麗もその場を後にした、その部屋で――。
誰の溜め息かといえば、それは勿論ただ一人。
この部屋の主でもあるギルドマスター、マティアスだ。
そのマティアスは疼く傷、特に疼きの酷い心臓を押さえ、背を椅子に預けて天を仰ぎ呟く。
「…まるで主人に尻尾を振る犬だな……そんなに〝あの娘〟が気に入ったか…」
疼きとは違う痛みが走る。
「……憤慨するか…」
痛みが強くなる。
「…孤高と言われしものとは…とても思えんな……なぁ…魔狼…」
マティアスの呟きに答える者もなく、ただただ静寂に掻き消えるだけだった。
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