ご立腹
子供達がパンケーキを夢中で頬張り、私がマクシミリアンさんの微笑に目を伏せていた頃―――。
冒険者ギルドは恐ろしい地獄と化していた。
◇◇◇◇◇◇
「……まだ帰って来ていないのですね…」
「「「はっ…はいっ!!」」」
その場にいたギルド職員三人が声を揃えた。
内、二人は書類を落とし、残りの一人は手元にあったお茶を溢した。
普段、ギルド内の表には常に五人の職員がいるのだが、今は最低限の三人しかいない。
後の二人はなんだかんだ理由を付けて逃げた。
この時間帯いつもなら、ちらほらと冒険者達もいるのが、受付にも酒場にも人っ子一人いない。
酒場の従業員も皆、調理場の奥に引っ込み出て来ない。
「今は見逃しますが帰ってきたら…」
三人が震え上がった。
可哀想なギルド職員三人と一人を除きここには誰もいない。
生け贄にされた三人と元凶の男を除いて―――。
◇◇◇◇◇◇
「にゃんこぉ~!!」
「にゃ~~!」
「おねぇちゃん! また来てね!!」
「おにぃちゃん達もご飯また作ってぇ!」
「お前達、今日は特別だったんだぞ。次は無いからな」
「「「「「えぇーっ!」」」」」
グロウ君の発言に悲鳴を上げる子供達。
(それなら!)
「じゃあ、今度は私が作るね」
「ダメだ。…子供達が腹を壊す」
「ちょっ――…」
「「「「「………」」」」」
「はぁー…」
町中をクリス達が堂々と歩く中、そのクリスの上に乗る私はずっと溜め息だった。
子供達が私を別の意味で残念な目で見ていたのを思い出す。
「みんなの前であんなこと言わなくても良かったのに…」
「本当のことだからな」
「本当って…蒼兄さんも剛兄さんだってお腹壊したことないじゃん!」
「俺達は慣れているからな。だが子供達はそうはいかない」
「うぅ~…」
そんなことを言う蒼兄さんは澄まし顔でチャッチャの上だ。
剛兄さんに至ってはいつもと変わらずチッチャに乗っている。
『麗ねぇちゃの作ったご飯は、僕が全部食べるから大丈夫だよ』
「クリスぅ~!!」
可愛いことを言うクリスに前屈みなり、おもいっきり抱きつきもふもふを堪能する。
『『『ボクもぉ~』』』
『あたしも食べるわよ』
『俺は…まぁ食ってやってもいいぞ』
『僕も食うにゃ!』
「うぅ、みんなありがとう!」
シオン、アジサイ、カスミ、ジル、チャッチャ、チッチャも慰めてくれる。
今はクリス乗って移動中なので、みんなにもふもふぷるぷるが出来ないのでテントに戻るまで我慢。
その後ろでは、私達の会話をグロウ君達が苦笑いで聞いていた。
そろそろ、冒険者ギルドに到着というところで、違和感を感じ始める。
「えーと…なんか変な感じが……」
見上げれば、いつもの冒険者ギルドなのに何かが違う。
ギルドマスターに目を向けるも、本人は溜め息と共に観念したような表情でギルドへと入っていくので、私達も後に続いた。
「あーら、いらっしゃい」
私達がギルドへ入ると受付にいたのは、なんと防具屋のアランさんだった。
アランさんはカウンターに肘を置き頬杖をついていて、ギルドマスターを見るなり右手をひらひらと振っている。
「……お前、ここで何をしている」
「何って、見れば分かるでしょ? 受付嬢やってんの。誰かさんのせいでみんなビビっちゃって使い物にならないのよ。…まぁ、人も来ないから構わないんだけどねぇ」
アランさんとギルドマスターの会話中、はっと気付き周りを見ればグロウ君がいないので、キョロキョロしていると目が合ったヨアヒムさんが肩を竦めた。
グロウ君はアランさんを確認した瞬間、逃げたらしい。
「受付をやる為にここに来たのか」
「んな訳ないじゃない。用があって来たら、こんな状態だったのよ」
「用件が終わったのなら、帰ってもいいぞ」
「終わってないわ。…あいつが帰って来るわよ」
「何時だ」
「明日……ううん、今日の夜には来るかもね」
「伝書魔法紙でも来たか」
「あいつがそんな物寄越す訳ないわよ。勘よ勘、あたしのカ・ン」
そんな会話中、ギルドの奥から凄まじい気配がこちらに近付いて来ていた。
「こっちも来たわね……あんたもこうなった責任ちゃんと取りなさいよ。じゃあ、あたしの用は終わったから帰るわ」
アランさんは帰り際、「明日、変な奴に絡まれるけど気を付けてね」と主に剛兄さんに向けて言い、私の頭をぽんぽんし蒼兄さんにウィンクをして帰っていった。
そして直後にギルドの奥から出てきたのは鬼…もとい極上の笑顔のグレンさんだった。
お読み頂きありがとうございました。




