落ちる
ギルドマスターのオークの話が終わって少し経った頃、私は妙な違和感を感じ始めていた。
誰にも気付かれないように、そっと辺りを見渡し違和感の正体を探すと、ルーク君で目が止まった。
この感じはシオンやケルベロス達を助けた時と同じ感じがする。
ルーク君に何かが起こるのか、内心ではドキドキしながらも平静を保ちつつ暫くはルーク君を見守ることにした。
ルーク君は人なので従魔にってことではない筈…。
――いや、その筈なんだけど…。
何だかモヤモヤするもクリスを撫でることで、気持ちを落ち着かせた。
そして、それが起こったのは、ルーク君が気になり始めて少し経った頃だった。
時が経つにつれ、この違和感が危険なものだと分かってきたので、私は常にルーク君が目に入る位置にいた。
そのルーク君はマシュー君が乗ったジルの両隣にロイ君とミゲル君が、ルーク君はロイ君の反対側の横を少し遅れる形で歩いている。
そして、ルーク君が何かに躓いたのか、足を止めた、その時。
ルーク君の足下が音もなく崩れ落ちた。
私はクリスから飛び降り、落ちそうになるルーク君に駆け寄って、ルーク君の腕を引きジルの方へと勢いよく突き飛ばし、私は彼と体勢が入れ替わる形となった。
ルーク君を庇った、その拍子に私の足元が更に大きく崩れ落ちて、口を開けた地面に飲み込まれる。
暗闇に落ちる中で目の前の逆光に、人影とクリスが飛び込むのが見えた瞬間、私の身体は水の中だった。
川なのか流れが速く、懸命に泳ぐが全く水面にたどり着かない。
もがくうちに息が苦しくなり必死に手を伸ばすと手首を捕まれて、何かに包み込まれた感覚と共に私の意識は途切れた。
◇◇◇◇◇◇
――誰かが大きな手で私の頭を撫でている。
…剛兄さん?
ううん、違う…。
その手は剛兄さんよりも大きくて……。
―――懐かしい。
何故かそれは酷く懐かしく思えて…。
どうして懐かしいの?
あぁ、そうだ似てるんだ…。
…――――似てる……誰に?
その手はいつしか頭を撫でるより、髪の感触を楽しむかの様に長い指に髪を絡ませている。
瞼が重くなかなか目を開けられずにいる間も、長い指は髪を解かすかの様に撫でたり、かと思うと私の髪の艶を確かめる様に髪を絡ませて指先を動かす。
暫くして満足したのか、髪を楽しんでいた指先は私の頬を撫でた。
そして、大きな掌は頬に、長く節くれだった指はわざとなのか耳を行ったり来たり掠めるのでくすぐったい。
親指が瞼を撫でると、その弾みで睫毛に触れて更にくすぐる。
その親指が不意に唇に触れるも、未だ耳を掠める指のくすぐったさに思わず声が漏れる。
夢か現か、大きな手の温もりは頬から消えていた。
すると今度は冷たい物が頬に当たり鼻息もかかる。
――これはクリスだ。
鼻を押し付けスリスリするが、やはり耳に鼻息がかかりくすぐったい。
「…クリスぅ…くすぐったいよぉ…」
私は横になっていたので下側の頬を枕に押し付け、クリスの様にスリスリする。
枕にしてはちょっと硬いし暖かい。
こんな枕あったかなと、そう思っている間もずっとスリスリいると…。
「っ…………」
…誰かが声を押し殺している。
―――正直このまま、また気絶したい気分だけど、そうもいかないので恐る恐る目を開けると目の前には男性の腹部が、そっと目線を上げると。
エメラルドグリーンの瞳と視線が絡む。
暫く視線が絡むまま沈黙が続くが、最初の一声を放ったのはギルドマスターだった。
「レイ、気がついたか……いや、おはよう――…かな」
いつもと違う少し甘い声で…。
マティアスさんは微笑を浮かべながら言った。
お読み頂きありがとうございました。




